ダンナが急に休めることになり、わたしは今日やる予定だった原稿を明日に回し、娘のたまは保育園を休むことに。平日に一家で過ごすのは、本当にひさしぶり。天気もいいし、ベビーカーで散歩がてら上野動物園をめざす。ゆっくり歩くと一時間以上かかるけれど、千駄木から根津にかけて、お店がたくさん並んでにぎやかな通りをひやかして歩くのは楽しい。
陽気に眠気を誘われて、動物園に着いた頃には、たまは半分目を閉じて、うとうと。「ほら、ライオンだよ」「ゾウさんだよ」と親ははしゃぐけれど、たまはまったく興味なさそう。「たまに対して、動物が大きすぎるんじゃないか」とダンナが推理する。ベビーカーの高さにかがんでゾウを見ると、ちょうど目の前に柵があり、その向こうに見えるゾウの灰色の体は壁のように見える。もともと動きがゆったりしているゾウは、暑さにやられているのか、張り付いたように動かない。確かに、見ていて退屈かもしれない。ゴリラだって、たまの目には黒い塊、岩のようにしか映らないのかもしれない。足で頭をかく姿を「ダメ親父っぽい」と笑っあったり、「ああいう顔の人いるよね」とうなずきあったりできるのは、まだまだ先のことになりそう。広い園内を歩き回って、たまが唯一ベビーカーから身を乗り出したのは、鳥のガラス檻の前だった。鮮やかなオレンジの小鳥が枝から枝へ飛び交う様には心惹かれた様子。動きのあるものを近くで見るなら、動物園より水族館のほうが面白いかもしれない。
「はじめての動物園に驚くたま」を記録しようとカメラとビデオを構えていた親としては、あっけないほどの無関心に「8か月で動物園は早いのか」「でも、6か月で大喜びしたって話も聞いたけど」と肩透かしを食らった格好。数か月したらまた違った反応が見られるのだろうし、そのうち指差して動物の名前を言ったり、「また連れて行って」とせがんだり、絵日記を書いたりするようになるのだろう。わたし自身は動物園が大好きで、いつも、そこらの子どもに負けないぐらい目をきらきらさせて動物たちの表情や動きを観察しているのだけど、今日は檻の向こうではなく、手前のわが子ばかり見ていた。これから数年間、動物園でいちばん面白い生き物は、この子になるんだろうな。
2002年05月02日(木) 永六輔さんと「しあわせのシッポ」な遭遇