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風太
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2004年04月29日(木)
パパは奪還屋B〜パパは美堂蛮〜


オレとばんちゃんは、山からおりてきました。
んん?
山じゃなくて、谷なのー?
そっか、まあオレにはどっちでもいいです。


そんでね、オレ、力はちょっとくらい戻ったはずなんだけど。
なんでか、まだ小さいままなの。
どうしようねー。



ばんちゃんは、こんなチビに車暮らしは無理だって言って。
ろくじょうふたまのボロアパートをかりてくれました。
そんなお金、あったんだ?
オレ、知りませんでした。
ばんちゃんはきっと、オレの知らないとこで、いっぱいへそくりとかしてるんだ。
ずっるーい。


あ、オレ、カラダは5さいくらいだけど、中身は18さいのままなんです。
うん。たぶん。
そのはず。
…っていうのも。
最近、だんだんあやしくなってきてるんだよねー、じぶんでも。
どうも、小さいカラダでいると、思考も幼児化するようです。
考え方とか、好みとか。
ばんちゃんは、てめえは前からそんなもんだったぞ?っていうけど。
オレ的には、絶対ちがうんだけど。
わかってないなあ。(どっちが?)

だって、ほら。
前はこんなのぜんぜんキョウミなかったもん。
テレビのさー。ようじばんぐみとか。
最近、オレ、だんぜん好きです。
ドラマとかぜんぜんわかんないけど、こういうの見てると、わくわくします。



ねえねえ。

新聞広げてるばんちゃんを呼びます。
「あ?」
「ばんちゃんもやろうよー! ぐるぐるどっかーん!って」
「……………あ゛?」
「たのしいよお、ほらほら。わんわんもやってるし!


 ♪うれしくなっちゃうなーあ! ぐるぐるぐるぐる… どっかーん!


「ねえねえねえっ」
「ぎーんじー」
ぴきっ!と青スジたててるのはわかりますが、オレは今いそがしいのです。
だから気にしません。
うたって、おどって。
けっこうコレ、いい運動になるのです!
「ねえ、ばんちゃんも、早く早くー! 終わっちゃうよお」
「ああ゛!?」
本気でおこってます。
ちぇー。
いいもん。
今度はぜったいやってもらうんだから!
なんのかんのいいつつ、ばんちゃんは小さくなったオレのいうこと、なんでも聞いてくれちゃうんだもんねー。


「ねえ、ばんちゃーん。高い高いやってー」
「おう」
歌が終わって、ぱたぱた駆けていってばんちゃんの首にしがみつくと、ばんちゃんは新聞をおいて、ひょいとオレを抱き上げてくれました。
「わあい!」


それにしても。
なんで高い高いはやってくれんのに、ぐるぐるどっかーんは駄目なんでしょう。
小さくなったオレには、わからないことがまたたくさん増えたような気がします。




あ、それからね。
オレたちがこんちゅうさいしゅうした虫たちは、みんな谷で離してあげたんだけど。
一匹だけ、オレにくっついてきちゃったの。
カブト虫くん。
なんて名前にしようかなあ。
あ、オレ、あまのぎんじ。
なかよくしようね♪