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五十嵐 薫
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エンピツユニオン

2011年03月17日(木)
The starry night

地震からはや数日。
楽しみにしていた世界フィギュア選手権は中止となり、サッカー代表戦は大阪でのチャリティーマッチとなった。

夜の街は計画停電とヤシマ作戦によって灯かりを落とし、星は前より少しだけ明るい。
肌に感じるのは、目前の春に抗うように流れ込んできた、冷たく透明な大気だ。
やけにくっきりと見える、街のシルエット。
僕は顔を空に向け、見えないハズの災いを、目を細め凝視する。
月は何事もなかったかのように、美しい姿でそこにいる。



震源から離れていても、被災する人間はいる。
それは、友人知人の安否に心を痛めたり、テレビやネットで流れる情報に心を削られている、君のことだ。

君は、痛めつけられ傷ついているのに、その事を罪悪だと思っている。
テレビに映る光景を見て涙を浮かべながら、「こんな大変な人たちがいるのに、自分はただ悲しむだけだ」と自分を責めている。
窓の外の明かりや、食卓にならぶ暖かい食事を眺めて、「自分には何もできることがない」と遣り切れない気持ちを抱えている。

君は孤独だと思ってる。
日常と切れてしまったと感じている。
沈みゆく世界に対し、一人きりで箱舟に乗ってしまったような罪悪感に苛まれている。


違うのだ。
君もまた、被災者なのだ。
この地震で傷を負った人間なのだ。
何か大切なものを無くし、心を痛めてる一人なのだ。

だから、遠慮なく助けを求めて欲しい。
不安だと、言って欲しい。
話を聞いてくれと、声をかけてくれと、言って欲しい。
助けが必要だと、言って欲しい。


僕の手はいつだって、君の手を握るためにある。



週末は満月。
大潮だ。
空にウィンクを投げ、大人しくしててくれよと呟く。

月は相変わらず、美しい姿でそこにいる。


エンピツ