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2010年03月29日(月)
みんな








はい、きみはだいじょうぶだね
こっちのきみも
もうちからをぬいていいみたい

きみはあしたあったかくなったらでいい
そっちのきみは
つぎのあめをまってから

ぶきっちょさんはすこしずつ
せっかちさんはがんばることを
がんばったりしないよう

ゆめのうちがわのほうから、さあ
あったかくなってくるのかな

さくらさくら
せんぼんのえだ

ことしもみんなで
さきました















2010年03月22日(月)
あたらしい友だち







生まれたばかりのおはなしは
まだおいらのアタマにしかいない
水の服を着てきらきらの
つるんとした顔をしてる
まだ姿なんてものがないかのように
その姿を振り返って見るたび
何度も着替えては照れている

おはなしになるまでのおはなしは
まだ不器用でうまくあるけない
樹木みたいにあちこちカラダを
ぶつけながらおいらの後をついてくる
枝を削ったり引きずったり
余計な土をくっつけながら
あるきかたをおぼえているのさ
おいらの心配なんかよそにして
ひとりでにひとつになれるまで

カタチになった後のおはなしは
もうなにも話さなくなってしまった
人通りの隅っこで放りっ放しになってたり
踏まれても、じっとしてるしかない
顔も完成した後の
身動きできない人形だけど
誰かが気付いて手に取ってくれる事が
そんな事があったなら、かすかに
揺れることはあるかもしれない

カタチになった後のおはなしのヤツと
けれどももしも
ずっと話がしていられたなら
彼らはどんな姿を見せるでしょう
おいらが変わるたびにおはなしのヤツも
色を塗り直し削れ重ねて足しまた直して

おいらが年老いて消えるまで
そんなことができたなら
素晴らしいおはなしが出来るでしょうか
いえ、おはなしと呼ぶ必要もなくなるとおもう
まるで古い友だちにそうするように
名前を呼ぶことができるでしょうね













2010年03月15日(月)
ときどきちょっとなさけない






ひさびさに腕立て伏せをすると
やはりだいぶ衰えてたりするもので
これからは毎日きちんとやらにゃあと
おもったのがもう半年ほど前で

脱衣所は室内といえども冬には寒く
お風呂を熱くいれすぎてしまって、服はもう脱いでしまって
冷水で調整する間、裸のまま膝をくねらせ
にょこにょこ、にょこにょこ踊る姿は

しばらくサンマをさばかないうちに
またもや包丁を入れるのが苦手になってしまって
えいやっと気合を入れたものの
目をぎゅーっとつぶったまま固まるおのれの姿は

びしっと煙草をやめて健康に
なるはずだったのに、その代わりに
すっかりお酒が癖になってしまって
下っ腹に妙なでっぱり感を感じてしまってなんとも

あれは女装した男性である、女装なのである
なのにあのスカートのぴらぴらに
その「ぴら」にどうしても
ああ、どうしても目線が行ってしまうというのが

そしていつかきみのことさえ
おもいださなくなる日がくる、なんてことも
仕方ないのさ、と頬杖で
でも文字にしちゃうとJ-POP歌謡みたいで

作品を書くのがなんとも今迄の様には
まったくうまくいかんぞと
悩んでいるにもかかわらず
こんな文章ばかり書こうとしてしまうというのが

それでもともかく八連目まできて
もうちょっと文量がほしいところであって
他になさけないことは…とアタマをひねってみれども
なんてことない、預金通帳を取り出し開いてみれば

そのうえ薄っぺらい財布の中身を
冷静に吟味するたびに数年前の
拾った財布を交番に届けてしまったおもひでがいつまでも
アタマによぎりよみがえりては執念深く後悔をまた執念深く

それはともかく他にもなにか
なさけないことは…とおもいをめぐらせ小壱時間
だけれどやっぱりなんてことない、こうして
最後の行でどうオチをつけるか浮かばないのが最も














2010年03月08日(月)
叩く









おまえがあんまり泣くものだから
隣りの犬も哭き始めたぞ
からだごと裂けてしまいそうな
声にはとうとう堪えきれなくて

おまえは周りの物や人をすぐに叩く、容赦しない
生まれてきてから
まだ間もないおまえを
息も継がせず取り囲んだもの
そのあまりの理不尽さに腹が立ち
やり切れないんだろう
叩く手のほうが砕けてしまいそうなほど
殴りつけてしまう

おまえに向かい立って、私は脆く
両足を崩れ落としそうになりながら
辛うじて親というものであろうとしている
理不尽だろうが力づくでも
せめて人間のままシアワセに
少しでも
やっていけるよう、この世界にいられるように
おまえの真っ直ぐ過ぎる魂を
折り曲げ
くねらせては
捻じり形づけてやらねばならない
あれが欲しい、こいつを奪うな
おまえはいつだってただしいんだから
それが苦しい

おまえのあんまりひどい泣き声に
となりの隣り、次第に遠くの犬たちまでが
遠吠えをはじめてしまったぞ
その遠吠えを聞きつけて世界中の
狼たちが呻きだしているぞ、牙を剥いたぞ
他の音はなにもかも止んでしまったんだ
夜が破れてしまいそうだ

くしゃくしゃにひんまがった顔と
ぽろぽろこぼれ落ちてくる涙で
さあご覧よ、これが世界のお終いの姿だと
腕を振り回して宣言しているかのよう
そう、もしもおまえが
ただしくない世界であるなら
けれどもそうなったって、いいじゃないか
















2010年03月01日(月)
比喩








手をふたつ組み合わせたくらいの
このおおきさのガラスコップを叩くと
それも使い馴染んだこの赤い箸でね、叩くと
まるで君のような音がするんだ

まるで君のような音がするんだ
綿毛と水滴がいっしょに浮かぶような
だから嬉しくなるのと
同時に君のようななにかを
ずっと探してきたような気にもなるけど

ずっと探してきたような気もするけれど
言葉でなく色彩でも
なかったんだな
君のような、という表現は
まるで君と会う以前から
知っていたらしい
印象

印象
君のような
君はもう
殆ど僕とは会話をしない
家に帰れば二階にあがって
本を読み
別々に寝てしまうだけだ
僕は下の階にいてコップを叩いている
手をふたつ組み合わせたそのくらいの