初日 最新 目次 MAIL HOME「馴れていく」


ごっちゃ箱
双葉ふたば
MAIL
HOME「馴れていく」

My追加

2009年12月28日(月)
おでこに地球







いま、おでこに地球をくっつけている
地面のなかにはチェリストがいて
目が見えてはいないんだけれども
長い弦で反対側とはなしをさせてくれる

いま、おでこの地球も目を閉じている
反対側にはおとうさんとおかあさんがいる
演奏家は黙ったままでいてくれる
弾く指に合わせ枝葉の揺れる音がきこえる

叱るひとも誉めるひとも
いなくなったあとの
私しかいなくなった小さな地球の
こちら側とあちら側で
あやまりたいことがいくつも
いくつもあったはずなのに

いま、おでこに地球をくっつけたまま
揺れるひとすじの枝になっている
結局どちらも何も云いだせないまま
演奏の終わり
街の音が戻ってくるまで














2009年12月21日(月)
ほめねばならぬ









褒めねばならぬ誉めねばならぬ
つまらぬものでも褒めねばならぬ
大きいならば大きいなりに
小さいならば小さなところを
誉めねばならぬ褒めねばならぬ
新しければ誉めねばならぬ
古けりゃなんと古いんだこりゃあと
気に入らずとも褒めねばならぬ
なにが良いのかなんなんだろうが
分からなくても誉めねばならぬ
知ったかぶりでも褒めねばならぬ
気に入ったなら誉めねばならぬ
とにかく好いた惚れたのであると
ひとこと言えば充分であっても
褒めねばならぬ誉めてちぎって
投げて撒いて飽きるまではなんとしてでも
言葉の限りを尽くさにゃならぬ
器量が良ければ尚のこと
悪いのであれば尚々更に
褒めねばならぬ、ほら、あの、
あのひとに似てるよね、女優の、誰だっけなあ
思い出せぬ振りをしてでも誉めねばならぬ
秀でているなら挨拶の如く
褒めねばならぬ、秀でてなくとも
嫉妬の手間が省ける分だけ
誉めねばならぬ褒めてるうちに
たまさか逆に誉められようものならば
三倍返しで褒めねばならぬ
いえいえ、まさか、あなたのほうこそ
そんな、恐縮、とんでもないこと
誉め返されては返さねばならぬ
引き下がることなどあってはならぬ
それが仕事であってもなくても
呼吸するごとに誉めねばならぬ
正しさよりまず褒めねばならぬ
それで世界が回っていくなら
誉めねばならぬ褒めねばならぬ
万一のこと、相手がそれを鵜呑みにし
後の人生を踏み外すことがあったとしても
当方一切の責任を負いかね舛こと
ご了承をば、空気を読み取り頂きまして
誉めねばならぬ褒めねばならぬ















2009年12月14日(月)
括弧付き







( i )

曖昧な

揺れ

含み

せめて

(私)

約束もなく

包む

この腕の

位置

かたち















2009年12月07日(月)
ほどける








牛乳をカップに
あっためておいて

あとは絵本と毛布が
必要です

あとはあったかい声に
てのひらを

カップにお月さまが
ぽとりおちれば

あとは
ほどける