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2009年06月29日(月)
つくる








まだ描きかけの
一枚の絵のこと
描きあげて、またはじめから
重ねかさねる色のこと

描いてる人の表情は
絵に描かれている人の表情
絵は文字をつらつら
重ねかさねている人の絵
書きあげてから、はじめから
書きつづけるのは街のこと

街じゅうに家を、家を
建てつづけている人のこと
建てては建てては
また建てずにいられない人のこと
街は家で、家でもう一杯
誰も住まない家ばかりだけれど
建てるところがなくなっても
家のうえに建てては、建てる

まだ描きかけの
一枚の絵のこと
建てられた家のひと部屋にいて
絵を描きつづけている人のこと

絵に描かれている人の表情
破れた服で、空かしたお腹で
幸せそうで、泣き顔で













2009年06月22日(月)
お城







明日はお嫁にいった
だれかいい方は?と
いつも心配くださった伯母様や
何も言わなかったけれども
両親をやっと、これで安心させることができた

明日は寝不足のまま
腫れた目でタクシーに乗って式場に向かった
公園の砂場が見えた
子どもの頃の私がまだそこで遊んでる気がした
後部座席で揺れながら

今日の、天井を見上げてるだけの
私の事を思い出していた

でも明日は私
やっぱり式場へは行かなかった
初めから、空港へと
運転手さんに言っていたのだし
それで明後日着いたのが、南の海に浮かぶ島

水着を持ってなかったので、とりあえず
砂浜で山をこさえて
トンネルを掘って遊んだ
手をつっこんだ
向こう側につかめるものは、なかった
途端に崩れた

肩まで砂だらけになった腕を
引っこ抜いた
仕方ないよ
さあもういちど作りあげよう
さっきよりも大きく
壁も窓も、装飾、展望台付きの
頑丈なお城を













2009年06月15日(月)
教室の一日間








英字記号A〜Zに名を伏せられた生徒達を描いた三十と一行
「教室の一ヶ月」が学園裏サイトに掲載されてからというもの一週間

その作者及び内容の真偽、又、約一名
体育教諭(33)の行方、安否は今尚もって不明瞭

社会秩序の教育の場たるべき当学園内に於いて、又その
歴史を守るべく作品内容に該当する学級が存在するか否かを

物理上最も明快で単純な手法を用い
独自に調査していたらしい、とは御家族の証言であり信憑性を持つが

昼休憩中の屋上に蒼白な面持ちの、かの愛校精神溢るる偉丈夫が
フェンス越しに立ち尽くしていたという目撃談を最後にして

国語辞書から「存在」という項目をナイフで切り抜いたかの如く消え去り
失踪後の噂、飛び交うべき憶測発言までが

数学的に言えば全くのゼロであったという現象は俄かには信じ難く
執拗な再捜査の末、焼却炉脇にて発見されし焼けた紙片の下部分には

−放課後遂行。尚、生徒諸君らの自主性を尊重し
当部活動への 参加は 自由。

















2009年06月08日(月)
パソコンに触ったばかりだった頃のわたくしさま







子どもの頃から機械に触るのが好きだった
あなたのことですもの
初めてじぶんのパソコンの電源を入れたときは
それは嬉しかったことでしょう

けれどパソコンは
「スタート」をクリックしただけでは
何もスタートしないようです
ヘルプを参照しても
用語が分からないと
全然ヘルプしてもらえないことでしょう

そのサイトの名は
やっほーではないようです
ちなみにあっちも
ごーぐるではありません
サイトのアドレスを
一文字ずつ入力するのは大変です
左右指いっぽんずつで押すタイピングにも
限界があることでしょう

インストールという技を覚えたからといって
不必要なものばかり入れまくって
起動に5分もかかるようにしてはいけません
かといってアンインストールの際、片っ端から
フォルダを消せばいいというわけでもないようです

解凍、とは
フリーズを直すという意味ではありません
祈ったり叩いたり、懇願したり、揺さぶったり
たぶんどれも間違いです
迷惑メールに真剣に
「宛先間違ってますよ」と返信してはいけません
好いたあの方からのメールが来てやしないかと
5分おきにチェックするのもいかがなものか
人には見せられない行為です

ホームページを作ろうとしてから
途方に暮れるまでのタイム、30分というのは
ちと早すぎるようです
作り方の本を二階から放ってもいけません
知らないメールの
知らない添付ファイルで
度胸試ししてはいけません
エッチ画像を探すうち
夜をあかしてはいけません
それが原因で留年してはもっといけません

てれほーだいの時間はもう過ぎました
はやく学校へ行きなさい
















2009年06月01日(月)








かあさん眠ってしまったな
こっくり腕を枕にして

ぼくが熱をだしたからって
かあさんまで休まなくてもいいのにな
そしたらもっといろいろできた
熱なんかもう下がったのに
かあさん、もう少し寝てなさいっていう

眠れないなら教科書読んでなさいって
そんなわけにもいかないのさ
なにせこどもにとっての退屈は
風邪をひくよりたちがわるい(きっとね)

かあさん眠ってしまったから
そおっとそっと抜け出して
基地を確認しにいこうかな
宝が盗まれてやしないかさ
あの猫おとなしくしてるかな
それからお菓子、お菓子がなけりゃ
酢イカ、せんべい、ラムネかコーラさ
そうそう広樹にマンガも返すんだった

今日休んだろ?って訊かれたら
たまにズル休みもいいぜ、って答えよう
でもクラスの女どもはやっかいだ、なるべく
見つからないように帰ってこなきゃ

そしたらもいちどパジャマに着替え
かあさん目をさますまえに
そおっと布団にもぐっておこう
教科書を胸のうえに置いて
ぼく、もう治ったよって言おう