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2009年03月30日(月)
湯気









コーヒー飲みますかと訊かれ
飲むよと答えた
雨だけど
後で出かけません?と訊かれ
そうしようか
あとは黙った

今朝、つい先程まで、妻と
同じ夢の中にいた
同じ夢の中にいるなんて
珍しいですね、妻は言った

けれど目が覚めた後、お互いに
尋ねたりするのはよしましょうよ
せっかくだもの
無粋なことは

うん、そうしようかと約束し、別れた
黙って向かい合い
コーヒーを待っている

お湯が沸き始めた













2009年03月23日(月)
湖畔








公園の夜にはとがったカタチがないので
それで湖のようです
ラッパ吹きがあなたのことを考えます

身勝手な音で浮かんでいることが出来るなら
来る朝のことなどは一枚の
銀紙にされ、まるめられ、次つぎ
車に踏み潰されるのが聞こえてきます

草っぱらの陰からまた陰まで
小さな魚が何匹も
跳ね上がっている、それで僕も
穴だらけのお腹に有り丈
風を吸い込んでしまいそうな
夜風まみれのまま、そのまま
あの外灯の枝へ
ぶらさがってしまったような気分なんですけれど

やさしい男がゆらゆら揺れて、やってきて
おい、死んでるのかと尋ねながら
覗きこもうとするので
仕方なし、目を開ければ

なんだ、生きてるのかと呟きながら
岸辺の森へと消えました













2009年03月16日(月)
ふれんちの詰め合わせ









くだり、ヨドバシカメラのエスカレーター
妄想癖とはなにか

後ろの若い男の子たちが
「いや、ふれんちぶるどっぐがさー」と笑っている
男の子たちはエスカレーターを降りて売り場のほうへ
わたしはさらに下の階へと
会話は途切れ聞こえなくなる

ふれんちぶるどっぐが…、ふれんちが…、
あたまのなかの落書きはなにをきっかけにして
とまらなくなってしまうかわからないもの

踊るふれんちぶるどっぐ
炬燵とふれんちぶるどっぐ
よだれとふれんちぶるどっぐ
振り向けばふれんちぶるどっぐ…

女王陛下のふれんちぶるどっぐ
渚でドッキン、ふれんちぶるどっぐ
開脚前転、失敗ふれんちぶるどっぐ
断崖絶壁絶体絶命ふれんちぶるどっぐ
あらあら、うふふふふふれんちぶるどっぐ
公安9課、期待の新人ふれんちぶるどっぐ
後ろ姿のしぐれていくかふれんちぶるどっぐ
かめはめ波れんしゅう中、ふれんちぶるどっぐ
お散歩中は、尻ふるふりふりふれんちぶるどっぐ
ブログのネタにあたまを悩ますふれんちぶるどっぐ
神聖ぶりたにあ帝国第97代皇帝ふれんちぶるどっぐ
銀河鉄道もうじきサウザンクロスだふれんちぶるどっぐ
長崎県出身自称IT関連会社社長秘書ふれんちぶるどっぐ
めりーごーらんどから落っこちそうです、ふれんちぶるどっぐ
でもほんとはボストンテリアかも…、疑惑のふれんちぶるどっぐ
手をつないでもらうだけで5万円もとるの?、ふれんちぶるどっぐ
ヒツジのゆたんぽがお気に入りです、おひるねふれんちぶるどっぐ
でもおひるね終えた後は侘しい気持ちがいっぱいふれんちぶるどっぐ
ペットというだけで鍋の中で丸く眠れと言われ、困惑ふれんちぶるどっぐ
新しいあだ名は「あたってこっぱみじんこちゃん」、不満気ふれんちぶるどっぐ
ライバル社社長家のパグとお見合い、政略結婚ですのん?ふれんちぶるどっぐ

エスカレーターはくだっていく、くだりつづける、嗚呼
いっそ追いかけて訊けばよかったのでしょうね
ふれんちぶるどっぐがどうしたんですか!?と













2009年03月09日(月)
とんとこからり







毛布を鼻先までかぶっても
足のさきちょがつめたいのです
擦り合わせても
裾でくるんではみても
貧しいのかい、
貧しいのだぞと
足のさきちょがつめたいのです
眠れるものかい、
眠れるものかと
けれども眠りこけてしまうまで
こんなに冷えてしまって、ね
おはいりなさいな

やさしい女の想像ひとつと
とんとこからり、くしゃみがひとつと













2009年03月02日(月)
眠り








眠りかける、と眠る、のあいだの瞬間をつかまえるというのは
やってみると案外、慌てて逃げるウサギをそうするみたいに難しいものです。
たいがい気付くと眠ってしまったあと、もしくは
目が覚めてから眠っていたことに気付くので。
眠るちょうどのその時を、もしつかまえることが出来たなら
枕元に、さあ眠ります、と書いた旗を立てておいてごらんなさい。
眠っています、と書かれたバッヂをもらえます。それを胸元につけておけば
まだ訪れたことのない小さな眠りの町に行けるのでしょう。

眠ったのが例え冬の昼間でも、町はあたたかな夜中です。
バッヂを見せて町並みのスクリーンの裏側にも入れてもらえたら
係りのひとたちがいくつも、ドラム缶で火を焚いているのが分かります。
ほうほう、その月はいくらかね。買い物中のおじさんや、
ええ。この子ももう三十八歳。自慢の息子なのよ。赤ちゃんを抱いたおばさんや、
パジャマのなかに星のお菓子をありたけ隠した子どもたちのあいだを
朝までぶらぶらしていると
なつかしいひとや、しばらくぶりの友だちにも会ったりします。
勿論、そのひとたちは人形だったり書き割りだったり、操り糸がついてるけれど
それでもあなたが思う通りのそのひとたちであるでしょう。
或いはそうでなかったとしても、元々そうではないのかもと思っているから。

私はもう何べんも来てしまっているので最近では、町のはずれの池の辺で
つかまえたウサギといっしょに
釣りをしながら音楽を聞いて過ごしています。
釣れても持ち帰れはしないから、釣れたことはないけれど
もうすぐ、もうすぐという気にはなるのです。

やがて、じりりり、ぴぴぴとベルが鳴ると
と、これは町の駅ではなくて、遠くの終着の駅で鳴っているのが聞こえてくるのですけど
今夜、町に居合わせたひとたちがぞろぞろと列車に乗って帰っていきます。

なかには、顔を真っ赤にしてお酒を飲みながら
帰るひとたちを微笑んで見つめているひとがいますけれど、いちど、
乗らないんですか?と訊いたところ
間抜けだよ、この寒い晩に道端で眠っちまったのさ、と
げっぷをして笑っているのでした。
けれど、ご心配なく。もうしばらくすれば
反対側行きの列車もちゃんと来るそうですから。