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2009年02月23日(月)
お子守(5)







めずらしく家族であつまっているので
さあ飲もうという瞬間でもあるので
けれど当然甥っ子2人もそこには含まれるので
その母も祖母もここぞとばかり
解放の時間を楽しんでおられるようなので

珍しいオトナにもすぐなつく2人らしいので
さらにコミュニケーション開始時に於いての
ボール越し連続顔芸新春ショーが
これまた大受けしてしまったのが失敗だったようで

いっしょにあそべかまえあそべーかまえー、の攻勢をかわし
お酒とお肉にありつく為には
ビニールのボールを、ほれほれいくぞーと
わざとリビングの出来る限り遠くへ転がし
その注意の逸れる一瞬間の隙に、すかさず食べに走るか
抱き合げる振りから、一気に足払いをかけ
きゃっきゃと床に転がし、すっ転がし出来るだけ遠くへ追いやって
その間にすかさず飲みに走るか

遠くへやれどもやれどもすぐに舞い戻ってきては
煌きの眼でこちらを見つめる甥っ子たち
とても、座ってなどいられないので
まったり新年を祝うなど到底できないので
遊び疲れて眠くなって
ベビーカーにおさまる時間までの延々

やっとこ魔物らの帰ったあと
ぐったりしながらもゆっくりと飲めるお酒の
美味しいこと嬉しいこと仕合わせなこと
んー、んまい
けれどもふと見わたせば
やけに静かになりすぎてしまった部屋の隅で
置き忘れられた黄色いビニールのボールが
ぽとん














2009年02月16日(月)
婚礼








ねえ、アナタ。

なんだい。

ワタシ、綺麗だった?

勿論だ。あんな美しい花嫁を僕はまだ見たことがない楊貴妃、クレオパトラ、ジャパンのオノノコマチを足して三乗してもまるで追っつかない傾城傾国三国無双の、否、君みたいな美しい花嫁を前にすれば地球上の他のどんな女性でさえ女性であること自体辞退したくなるであろう満天の星と月灯りを宿して地中海に眠る美の歴史の煌く秘密を湛えた麗しの宝石箱のような表現を試みるには文章力と語彙と舌滑の良さが全く足りないくらいに美しかったよ。嗚呼、僕はなんて幸せな男なのだろう。

ま、アナタったら。ワタシも世界一幸せ。それに素敵な結婚式になったし。
美しい島、料理、薔薇、花火、溺死出来るほどのお酒、来てくださった皆さん…。
アナタ、どうも有難う。ワタシ今夜のこと一生忘れないわ。

君が喜んでくれたなら、準備をしてきた甲斐があったというものだ。

あんな沢山の方々がお祝いに駆けつけてくださるなんて。
アナタ、とってもお友達が多いのね。

皆、親友なのさ。招待状も凝ってみたしね。一人ひとり、大切な思い出の写真を添えたり。

でも、皆さん顔色が少し…おとなしい雰囲気の方が多いのね。

皆、こんな遠い島まで来てくれたのだもの。少し疲れがでたのかもしれないな。

そういえば、皆さんの服の装飾は奇抜で面白かったわ。

気の利いた連中だろう。猿ぐつわと鉛付きの足枷。
皆揃って美しい花嫁様の奴隷に、という意味だったかな。
最近の結婚式での流行らしいが…そんなことより、君はもうおやすみ。
明日は朝早く、招待客の誰よりも早く出発して新婚旅行へ発つのだから。
寝不足はその深緑深紅入り混じる麗しい肌に毒だよ。

あら。そんなに早く出発する予定なのね。誰にも見送られないで?

なにせこの島にはあの船、一艘しかないからね。
さあ、紅孔雀布団を掛けてあげよう。ほら、
大蜥蜴の様な太く可愛らしいその尻尾もちゃんとしまっておいで。

おやすみなさい。アナタ。

おやすみ。

ねえ、アナタ。

なんだい。

ワタシ、綺麗だった?

勿論さ。あんな美しい花嫁は未だ嘗て見たことがないソフィアローレンダイアンレインイングリットバーグマン、ジャパンのスマコマツイを足して四百乗しても二桁は足りない青春期の若者の如く迂闊なる一瞥で時既に遅しのひとつの哲学とでも呼び得る情熱の業火の真上でやわらかな子牛の血肉に未だ一度として濡れたことのない白鳥の産毛、一雫の型を成す直前の朝露に菫、薔薇、椿、柘榴、曼珠沙華の花々をごっちゃ煮したかのような太古から幾千人もの貴族達の不倫物語を彩り続けた魔の接吻にも似た永遠の眩暈に襲われてしまうほどのヴィーナスbyボッティチェリ、モナ・リザbyダ・ヴィンチ、フェルメールの真珠少女すら三人揃って紅潮した顔を隠しながら一目散に逃げだしたくなる当世随一と謳われる華麗なる愛のマッタドールでさえ太刀打ちできないうちに串刺しにされそうなまるでまるきり化け物的な、以下、いい加減早送りしたくなるくらいに…。













2009年02月09日(月)
Re:








こんばんは ふたばさん

お返事どうもありがとうございました。
からだのほうはあまり、お変わりもないようで
周りのひとたちの変化、
これから私が知り合うひとたちのこと、経済的なこと、
悩んでることなどまで教えていただけて。
安心したような、がっかりしたような
ごちゃごちゃで不思議な気分です。

いまの私にはまだ
受け入れられないことも多いですけど
でもやはりそうやって変わり続けて良くもわるくも
そんなものかもしれませんね。
それから、生きていて良かった。

私はいま13歳で、ご存知のとおり
最近、詩のような、なんだか短い文章を書き始めたところです。
詩という言葉の意味をずっと考えてはみるのですが
まるで分かりません。
ふたばさんはもう見つかりましたか?
(そんなものを書いてるとクラスの人たちに
 知られるのも実はとても恥ずかしいです。
 でも結局バレてしまって
 今度、文化祭で発表させられる羽目になりました)

−10年後のじぶんなら言葉だけで
 いまのじぶんをころせるんじゃないか。

この前ノートにそんなフレーズを書きとめてみました。
でも17年後のじぶんというのはまるきり想像もつきません。
いったいどんなものを書かれているのでしょうか。
ちょっとだけ読んでみたい気もします。
鉛筆ではなくてパソコンをつかってる、だなんて
なんだかさすが21世紀というカンジですね。嘘ついてませんか?

ではまた。今度は、私が30歳になったときにでも
お手紙したいとおもいます。お元気で。


追伸
いつか詩集(のようなもの)をつくることが出来たら
「馴れていく」というタイトルがいいかなとおもっています。












2009年02月02日(月)
バスタブの離陸










一旦、火が入ると
約千七百倍の湯気を噴き出しながら
バスタブは乗客を待っている

お風呂という乗り物は動かないけど
動かないままどこへでも行く
離陸の間、ぐっと目を瞑り
歯を噛み締めている乗客の喉から
ゆっくりとながい息が吐かれてやがて
手足から緊張がほどけでる頃には

バスタブはすでに滑走路を離れている
砂漠を渡り森をかすめ
観覧車を斜めに横切って
あとはもう重力に縛られたりはしない
自家発熱しながら人工衛星に
寄り添ったりして

ほら、湯気まみれになった
小窓の向こうには
とっくに遠くへ置き去りにされた
オートバイの音が聞こえるだろう