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2009年01月26日(月)
酔ったわたくしさま








酔っ払ったからといって
さだまさしについて語りはじめてはいけません
周りにはあまり伝わっていません

横浜についても
あまり長く語るべきではないようです
周りはもうめんどくさそうです

言いたい、でも言ってしまうと明日絶対後悔する、と
分かっているならやめておいたほうがいいようです
分かっているなら

外が寒いからといって
安い焼酎お湯割りばかり飲んではいけません
あとで、えらいことになりますよ

男性トイレが使用中だからといって
女性トイレで用をたそうとしてはいけません
そのうち、どえらいことになるはずです

知り合ったばかりのひとの頭を
後ろからつかみ、なでくりまわしてはいけません
優しいひとでよかったですね

ちょっと可愛いひとがいたからといって
結婚を迫ったりしてはもっといけません
周りはどん引きしています

ステージを終えたばかりのボーカルのひとの
ビールを横取りして、ひとくちめを奪い取ってはいけません
出演者でもないくせに失礼です

ひとりで行く勇気もないくせに
クラブやキャバクラに連れてってもらおうとしてもいけません
じぶんの財布の中身くらい知ってるはず

道端で踊りはじめるのはおそらく迷惑行為です
歌いはじめるなど迷惑そのものです
さあ、みんないっしょに、明日に向かって!と叫ぶなどはもっての他です

終電をもうすこし気にしてください
煙草の吸い過ぎにも気をつけて
おからだを大切に














2009年01月19日(月)
よこはまごっちゃ(4)









動物園が好きだったのは
子どもの頃から
だから入場無料の動物園が
近所にあるのがまず嬉しかった

片足の黒ヒョウや
寝たきりラクダのあいだを散歩しながら
そういえば子どもの頃は
よく画用紙に動物園をクレヨンで描いてた、
なんてことまでおもいだした

柵は三、四本しか描かないから
出入り自由なオリの中には
ライオンやワニやペンギンがいて
動物園の中なのに家が建っていたり
高いビルが伸びていたり
大きな橋が架かっていたり

トンネルだらけの山があれば
川だって何本も流れている
お店や道はあとから隙間に通さなくちゃならない
とにかくごちゃごちゃな動物園
まわりには海を描いて
煙をぽくぽく吐いてる船まで
浮かばせていたっけ

いったい動物園という施設を
むかし自分がどんなふうに捉えていたのか
いまはまったくもって謎だけれど、画用紙も
とっくに残ってはいないけど
僕はいま、あのごちゃごちゃ色の
画用紙のような街に住んでいる
渋谷で乗りかえて30分
電車がトンネルに潜ればすぐに
横浜という島に着く















2009年01月12日(月)
手と口






男の子が良いものを見つけたので
わたしたちは集まり寄って
なんてまあ良いものか、と
こんな良いものがあったとは、と
口々に話しあったのです

男の子がその良いものをどうしたものかと
考えているのを見かねては
そりゃあ隠したほうがいいのでは、と
林の穴へ、蔵の中に、いや仏壇か、と
口々に話しあったのです

男の子は自分しか知らない隠し場所へと
山を登っていったので
わたしたちは集まり寄って、尾いていっては
どこに隠すつもりなのか、と
きっとおもいもよらぬところでは、と
口々に話しあったのです

男の子はけれどいつまで経っても
立ち止まることなく、時々振り返っては
疲れた目でわたしたちを見やるので
これはいったいどういうことか、と
なにか心配なことでもあるのか、と
口々に話しあったのです

男の子がすっかり暗くなった峠道で
足を踏み外し、片手一本残して
断崖に落ちそうになったとき
わたしたちはすぐさま集まり寄って
ああ、大変なことが起きた、起きたと
口々に話しあったのです

男の子が崖下へ落ちていって
良いものも一緒に落ちていっても
わたしたちは誰も、伸ばす手を持ってはいなかったので
だからはやく隠せばよかったのに、と
林の穴へ、蔵の中に、いや仏壇だ、と
口々に話しあったのです













2009年01月05日(月)
おもいだすまで








ほらほらアレが思い出せない
いったいアレってなんだったか
ほらほらつまり、あの、アレが
まったくもってちっとも、さっぱり
思い出せないくらいなので
おもいださなくていい事なのかも
思い出さねばとおもったので
おもいださねばいけないことかも
おととい見た夢のことや
生まれてすぐの感想みたいに

まったくどうにも思い出せない
膝をかかえど逆立ちしても
おもいだすまでは思い出せない
引き出しにあるのは判っているのに
その引き出しが何段目か判らない
砂粒を探すようなものだとしても
どこの砂浜かも思い出せない
そのうちぽっとおもいだせれば
こんな簡単なことがっ!なんでっ!と
それは判っているというのに
あ。と喉からぽつりと漏らして
思い出せなかったじぶんを笑ってやるのに

けれども思い出せたあとの
じぶんをおもいやってみれども
思い出せないってばおもいだせない
ほれ、その、こんなかんじの、あれなのに
あ。にまったくたどりつけない
あ。が遠い、にくい
あ。のやつめ
あ。のばか

ここまで思い詰めたのだから
もしおもいだすことが出来たとしても
あ。なんて漏らしてやるものか
あ。如き感嘆符をこれ以上
いい気にさせとくわけにはいかぬ
ふふん。とすました顔をしてやろうではありませんか
おーのー。とクールな英語で笑ってやろうではありませぬか

それでもやはり油断して、ぁ…。と
漏らしてしまうならいっそのこと
全世界を叩きおこすくらいの一世一代、晴れ舞台
そんな、あ。を言ってやろうとおもうのです

それにしたって思い出せない
そもそも何が気になって
アレを思い出そうとしたのだったか