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2008年04月28日(月)
昨夜の出来事








それから
夜が終って
一日を過ごし
本を読み
文字を追いながら
昨夜の事を思い
一行目に戻り
本を落とし
その音に目を覚まし
ベッドに入り
もう一度
眠り直し
いいえ、
なにもなかった
夜が終り
カップを上げ
下ろし
洗面所に寄り
鞄を提げ
外へ出て行く
それから















2008年04月21日(月)
ときどきちょっと秘密







いけない
ぬいぐるみを抱いて寝ていると
誰にも知られてはいけない誰にも
しかもそいつにポックルという名を付けてることなど

いけない
とっても貧乏だったときのことを
誰にも知られてはいけない誰にも
デパートのトイレから紙を3個失敬してきたことがあるなどと

いけない
兎に角を「うさぎにつの」だと思い込んでたことを
誰にも知られてはいけない誰にも
「かわいいのにつおい」の意味だと信じて疑わなかったなどと

いけない
生魚をさばくのが大の苦手だと
誰にも知られてはいけない誰にも
いざ包丁を入れるとき「ぺやっ!」という変な気合を入れて特訓してることなど

いけない
むかし泥酔の勢いで後輩のコにプロポーズしていたことなど
誰にも知られてはいけない誰にも
「はいはい。慎重に考えさせて頂きます」と丁重にお断りされたことなど

いけない
あんなところにあんなものが出来てるなど
誰にも知られてはいけない誰にも
それがこんなふうになっちゃってときどきむず痒くなることなど

いけない
こんなふうに書いてる諸々がすべてまるきり真実だなどと
誰にも知られてはいけない誰にも
それをこうして書くことでまるで冗談かのように見せようとしてることなど

とってもいけないとっても
これらの程度の事を秘密だと思わせておきたいなどと
誰にも知られてはいけない誰にも
結果的にはホントのところなど決して言葉では語られないものだなどと











2008年04月14日(月)
君が眠っているうちに








ベルは最後に鳴ります

君が眠っているうちに
色とりどり着飾った女たちが
おしゃべりしながら通り抜けていきます
くすくすおほほと笑う拍子に
ヒゲやシッポがこぼれ落ちていってしまう

君が眠っているうちに
痩せた男が音楽のない舞踊を
披露して通り抜けていきます
拍手はないけれど満足そうに
両手を左右にいっぱい振って

君が眠っているうちに
月はいちど軌道を変えて
部屋のなかを通り抜けていきます
窓もカーテンも反対側の壁も
星空のなかでは初めから無かったことに

君が眠っているうちに
絵描きと掃除夫が入れ替わりたちかわり
床から天井まで絵の具とモップを
ぶつけ合いながら通り抜けていきます
ちゃんと消されているようで寝顔の絵だけが棚の後ろに

君が眠っているうちに君の枕で
子どもたちはリフティングをして遊んでいきます
朝焼けが差しておかあさんが迎えに来れば
蹴飛ばしてしまった本もレコードも
慌てて元に直したあとで走って帰る

さあ、とりあえず
これで今夜の演目は終しまい
ベルは最後に鳴ります
君はちょっと不満気に腕を伸ばして
ボタンを押してそれを止めます













2008年04月07日(月)
よーこそ








夜毎てかてか、上空はぴかぴか
地面は油ぬらぬらの街、横浜へ(当社比イメージ)
引っ越してきたので
さっそくたまらず

カメラを持って歩いてゆくのだ
データのはいってないカメラは
おなかを空かせているみたい
カメラに引っ張られて歩かされて

これからしばらく住む街なのに
だから沢山撮っておきたくなるのだ

春だからというだけじゃなくて
あたらしい街だから、なおさら
走りだしたくなってしまうのだ
川に沈んでいるビルの灯りを見ながら息をついていると
陸と宇宙との境目なんてほんとにないんだなと
思えてしまう始末なのだ

引っ越しが終わるまでは
散々ばたばたしたのだから
まだしばらくはこんなふうに興奮していてやるのだ
ひとに見せられるような写真は
たぶん一枚も撮れてなかっただろうけど

帰り道にはカメラがすこし
重たくなっていた気がする