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2006年05月29日(月)
「いっぱいのみ屋の唄」







「なあに僕は僕なりに やっていくさと
 言ってしまったあとの やりきれなさよ

 座り込んだまま
 立ち上がれない のんべえさん
 つのだせ やりだせ あたまだせ

 ねえ おかみさん 熱いの一杯
 いちばん安いので いいから
 湯気のなかの顔が ほっとため息をつく
 ひとりが立ち ひとりが座る

 そしていつの間にか
 いなくなってる のんべえさん
 つのだせ やりだせ あたまだせ 」


友部正人「いっぱいのみ屋の唄」
              アルバム「ぼくの展覧会」 から





僕はお酒に酔ったのだ
めいっぱいに飲んでぺしゃんこなんだ
そして沢山泣いたのだ
恥ずかしいことを沢山言ったのだ
負けだ、負けだ、釣りかえせ
もう目を覚ましてなんかやるもんか


なんだかよく分からないうえに
やっぱりとても恥ずかしいのだけれど
そしたらアタマの中の灰皿で
誰かが顔だけだして言ったのだ

なあに人生のほうが
お前をほうっておかないさって


なんだかそれはいいなあ
恥ずかしいけどいいなあ、と
ぐちゃぐちゃなままの頭で
何度でも繰り返し言ってみるのだ










2006年05月22日(月)
さくら商店街








この商店街の大通りは
もうシャッターだけに囲まれた
道になった

それを何年ぶりか
夜の散歩がてら
駅前の大きなスーパーからの帰り道
外灯の下をゆっくり歩く

ここは牛乳屋さんだった
瓶のキャップをよくもらいにいった
ここは小さな本屋さん
月に一度だけの少年漫画
こっちは着物屋さん
こっちは豆腐屋さん
こわい犬がいつもいた

ここはマンションが建ったけど
まえは空き地で
その隣りがパン屋さん
そのまた隣りは中華食堂

朝早くから仕入れのバイクが走ったりして
学校から帰る夕暮れにはいつも
うなぎの焦げる匂いがしていたよ











2006年05月15日(月)
ぼくはおぼえている










ぼくはおぼえている
まだ幼くも必死に電話口で
「好きです」とだけ告げたその午後を
そのひと言をためらいがちに聞いたのは
可愛いあのコのお母様であったことを















2006年05月08日(月)
うたをあなたに(2)











誰が書いたのか知らない
誰がうたってるのか分からない

でもほら、こんなにたくさん
ぼくは見つけたよ












2006年05月01日(月)
向かい合わせの席で









うつむいた視線の
わずかな隙間をかすめ

向かいの席にいたのに
はじめから誰も座っていなかったり

ずっと思い出しているようで
なんなのかまだ見えていなかったり

書くことがなくなってからでしか
ねえ、書けないようなことを