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2006年04月24日(月)







がんばりましょう
完治させたひとも
去年ひとりいましたから

病気を知らされて
小さな箱に閉じ込められたような
けれどもそこに
かすかな穴が開いていてくれたような

男か女か
何歳くらいのひとで
なにをしてるひとなのか
どんな性格で
側にどんなひとがいるのだろうか
そのひとは

ぼくは何度も想像したのだ
アゴに力を込めてその背中を思ったのだ


ほんとにがんばりましたね
あなたみたいなひとは珍しいです

半年の治療生活で
先生はそのひとの事をもう話さなかったけれど
あんなふうに
先生はまただれかにぼくのことを話すだろうか

おなじ病気を背負っただれかの
光になれることもあるだろうか











2006年04月15日(土)
つくるひと







飲み物なら
いいステージだった!と思えた夜の
ビールがいちばんおいしい

もひとつ言えば
いいもの書いたっ!と眺めながら
吸うタバコがいちばんおいしい

お金は欲しい
いつだって欲しい
お金はお金はなんでも買えて
足りないということはあっても
あまってるということはないし

それでも
売っているものはみんな
ほかの誰かがつくったもの











2006年04月10日(月)
悪魔の辞典ごっこ






聖書:BIBLE
神の御名を騙るものこそが悪魔であり
古来から最も多く人間に送りつけられてきた
架空請求書。
その内容は極めて一方的なものであるが
法廷からの召還を求められ応じぬ場合には
有罪と成り得る。

宗派:SECT
現代に於いても悪魔から送りつけられる請求書の
被害は絶大であるが
その手法は多岐に渡るようになった。
其々の送付元である教会は、己の採る方法こそが
最も効果的な手口としているため
他の方法の効率の悪さを嘆きあっている

男性:MALE
人間が母体から誕生して後、最初に課せられる規約
だがその根拠は極めて希薄であるため
近世に於いてはその存在意義を問われているが
当人達には、その事は知らされていない。

女性:FEMALE
人間が母体から誕生して後、最初に課せられる規約
だがその根拠は極めて希薄であるため
近世に於いてはその存在意義を問われてはいるが
当人達は、当人達が規約そのものであると謳っている。









2006年04月03日(月)
ふたりのおにいさん






11歳のクラス替えしたばかりの
あたらしい教室に馴染めないまま

盲腸で一週間の入院をすることになって
その年の桜は病室というところで
眺めることになったのだけれど
ぼくは退院してからもしばらく
その病室に入り浸ってばかりだった


戻ってこなくてもよかったのに

あたらしくクラスメイトになった女の子の
ほんの軽い冗談に
それほど傷ついたわけでもない

それより大人ばかりの世界で
みんなから可愛がってもらえることで
親と教師をほんのすこし騙し
塾の成績や受験から逃げ込める場所を
見つけたつもりになっていただけなんだろうけど

その病室には
特に仲良くて大好きだった
ふたりの、二十歳くらいのお兄さんがいて
市川さんは話がおもしろくて
いつも漫画雑誌を読んでいて
堀井さんはよく彼女さんがお見舞いに来ていて
別れ際、カーテン越しによくキスをしていた


退院してからも病院に入り浸っているぼくを
堀井さんがようやく諭すようになった頃

同じ時期に退院していた市川さんが
外来に来てるよ、と看護婦さんが教えてくれて
ぼくは一階の待合室まで嬉しそうに会いに行ったのだ
ふたりでしばらく話したあと
堀井くんはまだいるの?と市川さんが訊いた
まだいるよ。会わないの?

いや、いいや。と言われてしまったので
ぼくは慌てて、じゃあなにか伝えようか?と付け足した
そして市川さんの伝言を4階の病棟まで
はしゃいで伝えに行き
堀井さんからも伝言をもらって1階まで走った
市川さんはなんだかニヤニヤとしてまた伝言を伝え
ぼくは走り、それを3回ほど繰り返した

ぼくは遊んでるつもりだった
どんなことをふたりに伝えたのかは忘れたけれど
最後の伝言ははっきりとおぼえてる
「彼女をこっちまでよこしてこいよ」ってさ。

堀井さんはそれを聞くとベッドから起き上がり
まだ良くないはずなのに急ぎ足で1階まで降りた
そして市川さんの胸ぐらをつかみあげて
「ふざけんな、このやろう!」と怒鳴ったのだ
あたりがシンとした
なにが起こったのかなんて分からなかった
自分がなにを伝えてしまったのか

市川さんはなにも言えず抵抗もせず
そのままイスに投げられ
堀井さんはぼくのことなど見もせずに
病室へ戻っていった

かたまってしまった市川さんに
近くにいたおばさんが「大丈夫ですか?」と聞くと
ようやく市川さんは取り繕うように苦笑いをうかべ
そして
「嫌ですよね、冗談、冗談なのに
 子どもの冗談だってんですよ…」と言ったのだ

市川さんもそのあとぼくを見ることなく
ぼくは堀井さんのベッドに置いておいた
マンガ本を取りに戻ることもなく
そのまま病院の玄関を出て

それから二度と行かなかった
学校にはそれからしばらくして戻り
そのあと、この出来事は今日ここに書くまで
誰にも話さなかった