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JIROの独断的日記
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2007年04月08日(日) チャイコフスキーの5番のサワリを予めお聴かせします。(若干加筆)/【追加】お薦めCD

◆「悲愴」よりも気に入る人が多いかも知れません。

チャイコフスキーは交響曲を6曲書いていますが、最後の作品だけ「悲愴」という通称があるので有名です。

あれも名曲なのですが、実際に聴いて見ると、普通シンフォニーは最後に向けてクライマックスを迎えるのに、

「悲愴」は第3楽章が非常に景気の良いマーチで、フォルティッシモで終わるのに、それに続く終楽章は、如何にも「悲愴」で、

しんみりしてしまいます。

これに対して、5番はホ短調で、最初は暗く、最後が一番派手になるので、人間の生理にしっくり来ます。


◆第一楽章はこんな感じです。

第一楽章は、クラリネットの低音(無論、他の楽器も音を出しています)で始まります。

あたかもロシアの寒そうな気候、憂鬱そうな気分を表現しているのかのようです。

ダウンロード TchaikovskyNo51st1.mp3 (446.3K)



ジトーっとしてますね。

クラリネットは表現力の豊かな楽器で、かつ音域によって音色がことなるのが特徴です。



さて、しかし、暗いままではない。ホ短調の楽章、「短調」だから寂しげではありますが、やがて、やや、颯爽とした気配が出る。



ダウンロード No51st2.mp3 (763.1K)


寒空の下、背筋をピンと伸ばして、歩いてゆく感じです。

さらに、これがどんどん盛り上がってゆきます。こういうのが、チャイコフスキーは上手いのです。

少し、ボリュームを強めにした方が良いかもしれません。


ダウンロード No51st3.mp3 (1125.2K)


この楽章の始まりは、すでに過去のこと。

華やかに金管とティンパニが鳴り渡ります。


◆第二楽章 長いホルンソロで有名。

第二楽章は、短い序奏のあと、一番ホルン奏者の長いソロがあります。

テンポは速くないけれども、何しろ、「ソロで」「長い」と来たら、どんな奏者でも緊張します。

昔、チャイコフスキーの五番は、レコードによっては、

「第二楽章・ホルンソロ、誰それ」

とわざわざジャケットに書いてあったほどです。

そのホルンソロのサワリをどうぞ。


ダウンロード No52nd.mp3 (1014.4K)


こういう、テンポが遅いソロは怖いのです。やたらと早くて細かい動きなら、一音ぐらい間違えてもごまかせますが、

これだと、間違えたらごまかしようが無いでしょう?

楽器はテンポが速すぎても、遅くても、それなりに難しいです。


◆第四楽章(フィナーレ)。どんどん盛り上がります。

最初は弦楽器がずばり、主題を提示します。

ダウンロード No5finale.mp3 (381.6K)



弦楽器の表現力はまことに多彩です。「壊れそうな繊細」さ、から、

このような、「力強さ」まであらゆる表現が可能です。

次も同様です。だいぶ曲の終わりに近づいたところです。


ダウンロード No5finale2.mp3 (1550.3K)



このバイオリンの奏でる堂々たる響き。美しく澄んだひびきですが、勇気が湧いてきます。



ところでこれ、一番最初のあの暗いクラリネットのメロディーが長調になったもの、であることにお気づきでしょうか?

こんなふうに、全く違う曲想に展開出来てしまうのですね。作曲家というのは。




さて、そして、同じ旋律をトランペットが引き継ぎます。ここは、吹いていて気持ちが良いのですが、

あまり調子に乗って吹きすぎると、大変です。

クライマックスで、もっと大きな音を出さなければならないので、苦しいことになります。

今の最後のところから、いよいよ、終結部です。指揮者の腕の見せ所。

他の曲でも同じですが、全体の構成を考えないと、失敗します。

つまり、手前でフォルテにし過ぎると、一番盛り上がるところでそれ以上大きな音が出せなくなりかねません。

そういうのは、クライマックスへの持っていき方が下手、ということになります。また、テンポもここから段々速くなりますが、

加速度(テンポの上げ方)を前もってよく計算しておかないと、終わり近くで、各奏者が弾けなくなるほどの猛スピードになり、

アンサンブルが崩壊し、メチャメチャな終わり方になってしまいます。

指揮者の仕事は、そういう構成・演出を考えるのがまず第一であって、棒の振り方がカッコイイかどうかは、二の次です。

これ以上、知ったかぶりをすると、ボロが出るので、この辺にします。それでは。



【追加】お薦めCD

すみません。おすすめCDを書き忘れておりました。

チャイコフスキーだから、ロシア人以外はダメ、ということは決してないのですが、

ロシア人指揮者とロシア人のオーケストラには、チャイコフスキーと同じ「スラブ系の遺伝子」を持っているのでしょう。

非常な名演が多い。けれども、選ぶのはそれほど難しくないです。

外見は対照的な二人、スヴェトラーノフ指揮・ロシア国立交響楽団 か、ムラビンスキー指揮・レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団です。

どちらを買っても、間違いないです。

但し、ムラビンスキー指揮・レニングラード・フィルは、5番だけじゃなくて、チャイコフスキーの終わりの3曲、

つまり、交響曲4番、5番、6番全てなので、やや高い。これも決して損をした気にはならないと思いますが、

クラシックに馴染みがなくて、「まず五番を聴いてみるか」というのでしたら、スヴェトラーノフが良いかと思います。

ライブ録音です。すごい迫力。金管なんか、馬力が違うという感じ、しかし決して野卑ではありません。

スヴェトラのおっさんは、何度かN響を指揮しています。

その時の様子は、先日定年でN響をお辞めになった鶴我さんの著書、私も紹介したことがある本、

バイオリニストは肩が凝る―鶴我裕子のN響日記(カスタマーレビューの最初は、私が書きました。一番下の「N響マニア」です)に書かれています。

スヴェトラのおっさん、ゴツいけどロマンチストです。

あるコンサートで、このチャイコフスキーの五番を演奏したときのこと。

第二楽章を始める前に英語で観客に向かって、
「プリンセス・オブ・ウェールズ。亡きダイアナ妃に捧げます!」


と言ったそうです。

第一バイオリンの鶴我さん、思いがけない出来事だったけど、それを聴いて涙が出そうになった、と書いておられます。

ダイアナ妃はお気の毒ですが、この逸話には、スヴェトラーノフのロマンチシズムが非常に端的に表れています。

残念ながら既に故人です。



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