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JIROの独断的日記
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2006年01月04日(水) ウィーンフィル関連の質問に僭越ながらお答えします。

◆色々とお問い合わせがありまして、ご参考になればと。

 

 ニューイヤーコンサートのことを書いていたら、色々とお問い合わせがありました。

 本当は、プロの音楽ジャーナリストではない私がお答えするのはどうかなと思ったのですが、

素人であるということをご勘案の上、reliabilit(信頼性)が必ずしも高いわけではないと言うことをお含み置き下さい。


◆日本人団員の方はどうなったのか。

 

 これこそ、他人様の経歴に関わることなので、みだりに触れるべきことではないのですが、

 私は、2003年に日本人テューバ奏者がウィーンフィルに入団した話を書きました。

 それで、ここ数日「ウィーンフィル 日本人 団員」でGoogleかYahoo!で検索してこられる方がもの凄い数になっています。

 結論を書きますと、現在、ウィーンフィル及び、ウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバー表を見る限り、チューバに日本人はおりません。

 ずっとウィーンフィルの団員の動向とか、コンサートの曲目、指揮者などをウォッチしておられる方がいらっしゃいます。

 この方のサイトに載っている今シーズン(2005-2006年)の始まりにおける、ウィーンフィルのプレスリリースによれば、

【 新入団員 】

1stVn:Isabelle Caillieret、Andreas Grossbauer、Iva Nikolova

2ndVn:Yevgen Andrusenko

Vc:Eckhard Schwarz-Schulz

Cb:Oedoen Racz

Fl:Wolfgang Breinschmid

Trp:Stefan Haimel

【 退職団員 】

1stVn:Helmuth Puffler、Herbert Fruhauf、Peter Gotzel

Vc:Wolfgang Herzer

Ob:Gunter Lorenz

Hrn:Willibald Janezic
Tub:Yasuhito Sugiyama

と、いうことです。

なお、シーズンは9月に始まりますから、実際の異動があったのは、2005年9月1日付です。

ご覧の通り、Tub(チューバ)のYasuhiro Sugiyma氏が退職団員になっています。

書いてあるのはそれだけですから、その経緯はみだりに推測で書くわけには参りません。



そう書いておきながら一言申し添えるのは矛盾しますが、敢えて書きます。

掲示板などでは、試用期間が終わり、不採用になったらしいなどと書いてあるけど、それは分からない。

繰り返しますが、推測で人の経歴に関わることを無責任に書いてはダメです。

私が書いているのは客観的事実。

つまり、今現在、杉山氏はウィーンフィルのメンバー表に載っていない、ということです。

「どうして載っていないかは、分からない」、と書くのが正しい。


◆音色の相性というのがあるのです。

 

 そして、仮にですよ。仮定上の話ですが、試用期間の後で不採用ということは、現実に起りうることですが、

 これは、必ずしもその音楽家の能力がどうのこうのという問題ではないのです。

 ウィーンフィルほどの超一流オーケストラになると、いや、これよりランクが低いオーケストラでも、

 いくら上手くてもその人の「音色」が「うちのオーケストラに合わない」ので不採用、と言うことがしばしば、あります。



 これは、音楽家の音楽性や、演奏能力とは関係がない。

 相性の問題なのです。



 トランペットでも、フルートでも、チューバでも、バイオリンでも、

 ビオラでも、ティンパニでも、シンバルでも、一人一人出す音が違うのです。

 特に、チューバが属する金管楽器群は全て人間の唇をマウスピースにあてて振動させて音を出している。

 人間の身体の一部を振動体(発音体)としているのは、歌と金管楽器だけです。

 もう、既に賢明なる読者諸氏は私のいわんとするところがお分かりかと思いますが、

 唇の形状、筋肉の厚さ、歯の形、生え方など、地球上の人間一人として同じ人はいないのですから、

 ラッパを吹けば違う音がする。但し、同じような系統の音色というのはあるわけです。



 ウィーンフィルはなによりも、全体として如何に美しい音が出るか、に全員が気を配っているので、

 ウィーンフィル独特の音を「オルガントーン」などと表現します。

 ですから、あくまで仮定上の話、一般論ですが、ある音楽家がウィーンフィルに入ってみて、

 技術的には何にも問題がないが、残念ながら音色がちょっと合わないな、と判断されることは、あり得る。
 くどいけど、これは、一般論です。

 これはウィーンフィルだけではないですが、ウィーンフィルは特に敏感だ、ということです。

 ついでに書きますが、同じ楽器でも一番奏者には向かないが、二番としてなら採用しても良い、ということがあります。

 1番と2番でハーモニーを作る場合、2番が下(低い音)、1番が上(高い音)を吹きます。

 そして、1番がメロディーになるのです。

 1番の華やかさはないが、2番で下を支えるのには、いい音だ、という判断のされ方もあるのです。


◆コンサートマスターで、昔からいるあの髪の薄い(失礼)人はだれか?

 

 ライナー・キュッヘルという人です。奥さんが日本人です。

 キュッヘル氏の一日を以前NHKでドキュメンタリーで撮していましたが、

 驚いたのは、朝、起きると、顔も洗う前から、いきなりバイオリンをさらい始めるのです。

 放っておくと、1日中弾いているそうです。

 既に何十年もオペラとウィーンフィルの両方で弾いているのですから、大抵の曲は、弾けてしまうはずなのです。

 勿論コンクールなんか出る訳じゃない。

 それなのに、「な、なんだ、これは?」と仰天するほど、音楽のことばかり考えているようでした。

 キュッヘル氏は、しばしば単独で日本に来て、協奏曲のソリストを務めたり、

 室内楽(弦楽四重奏などのこと)を演ったりしていますが、そういうマネジメント、

 俗事は全て奥さんが取り仕切っているそうです。

 奥さんがいなくなったら自分は一日も生きてゆけない、と云っていましたが、そうでしょうね。

 非常にマニアックですが、キュッヘル氏は、バイオリニストですが、バイオリンをビオラの弓で弾くそうです。

 「このほうが、楽器が鳴る」と云って。



 一層マニアックですが、弦楽器の弓の長さは、どれが一番長いとおもいますか?

 一番大きいコントラバスだと思うでしょ?

 違うのです。バイオリンが一番弓が長い。そして、ビオラ・チェロ・コントラバスという順で短くなります。



  さて、ウィーンフィルのコンサートマスターといえば、以前は「ウィーンフィルの顔」、

 「ゲアハルト・ヘッツェル」という超有名な方がいらっしゃいました。

 世界のコンサートマスターの鑑のような方でした。

 経験の浅い指揮者は、リハーサルの合間に音楽的なことについて、ヘッツェル氏に教えを請うのだそうです。

 それぐらい偉い先生なのですが、いつも柔和な笑顔を浮かべる正真正銘の紳士でした。



 ソリストとしても勿論通用する、たぐいまれなる高度な音楽性とテクニックを兼ね備えていました。

 ある時、シェリングという有名なバイオリニストをソリストに迎えて、

 ブラームスのバイオリン協奏曲を演奏するはずだったのが、ドタキャンになりました。

 それもコンサートの3時間か4時間前だったそうです。
 どんなプロでも、いきなりブラームスのコンチェルトを弾いてくれと言われたら断るでしょうが、

 何と、ヘッツェル先生は、ブッツケ本番で、見事に弾いてしまったといいます。信じられないです。



 しかし、何と言うことでしょう。ヘッツェル先生は1992年、登山中足が滑って滑落、

 バイオリニストなので手を庇ったため、頭を打ち、不慮の死を遂げました。みんな泣きました。


◆ウィーンフィルはストラディバリウスなどの名器を使っているからいい音がするのか。

 

 いいえ、違います。

 驚く無かれ。ウィーンフィルの弦楽器は楽団の所有物なのです。

 楽器部屋に行くと、スタンドにずらーっとヴァイオリンがぶら下げてある。

 勿論、ウィーンフィル専従の弦楽器職人がいて、調整はしてあるのですが、

 楽器そのものは、プロから見ると、手に取るまでもなくはっきりと「安物」と分かるような代物なのだそうです。

 弦楽器では弓だけでも名器は何百万円もするのですが、ウィーンフィルは、

 引き出しにガシャっと放り込んであって、それを適当に持っていって弾くのだそうです。



 普通、楽器に関しては「弘法筆を選ばず」ということはあり得ないのです。

 ウィーンフィルでも管楽器はヤマハに特注しています。

 しかし、ウィーンフィルの弦楽器セクションは信じられないけれど、「そこらの安物」なのです。

 安物の楽器でも鳴らしてしまう腕を持った人々なのですね

 もっと書きたいのですが、時間が遅くなってきましたので、今日はこの辺で。


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