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JIROの独断的日記
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2005年12月16日(金) 「東京フィルハーモニー交響楽団、中国・韓国公演」 感動のエネルギーは憎悪よりも強い。

◆記事1:東京フィルハーモニー交響楽団 上海公演(11月3日、4日)

 http://www.tpo.or.jp/japanese/info/pdf/ar6.pdf



中国人音楽家はアジアの巨匠チョン・ミョンフンが東京フィルハーモニー交響楽団を指揮し、

ブラームスを演奏する事に興味駸駸。『こんなにすばらしいとは思ってなかった。完璧。』と、

上海出身で、ボストン在中のヴィオリニストのシャ・シャオツアオは感動を表現した。

 彼女の父、ツアオ・パン、80歳、上海シンフォニー・オーケストラ指揮者、も同感。

『音楽的にアジア人はヨーロッパ人に劣ると思っていたが、今夜、この演奏を聞いて考えが変わった。

 まさに互角だ。日本のオーケストラと韓国人指揮者を、アジア人として誇りに思う。』

 中国の一般音楽愛好者にも東京フィルが浸透して行く日も近い。


◆記事2:同交響楽団、公演レポート 済州公演(11月9日)

 

 釜山の南西、人口50万の済州島はみかん、漁業と観光の島。しかし、近年国際観光をめざし、文化、教養に力を入れている。

 「モーツアルトの音楽を聞いて、頭の良い子に育てようと、教育熱心な親も多いです。」と、ローカルテレビ局記者、イジョフン。

 在済州日本国総領事岡本毅氏によると英語熱も高く、「英語を公用語にしたいと言う人もいる。」 

 チェリスト、ヤンバンウン(日本育ち、父親が済州島出身)のサッカー2002年ワールドカップソングの演奏、

 去年のチョントリオの済州公演に続き、今回の東京フィルのコンサートは文化活性剤として、大変重要視された。


【済民日報コラム 2005年11月18日(金)】

 文化都市済州を夢見て 在済州日本国総領事館 丸尾 克昌

 9日に私が行ったチョン・ミョンフン氏と東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートは、驚きの連続でした。

 チケット代が、済州の物価水準に比べて多少割高であったのに、完売とのことです。

 しかも、始まる直前に座席に座って周囲を見回すと、空席がほとんどないのです。

 長い間、総領事館の広報文化担当として数々の文化行事を手がけ、数々の文化行事を観覧し、

 多くの人に来ていただくことの難しさを実感している私にとって、これが第一の驚きでした。

 東京フィルの関係者の皆さんとお話させていただく機会がありましたが、驚きと喜びを隠しませんでした。

 さて、いざコンサートが始り、チョン・ミョンフン氏がコー・ボンイン氏、庄司紗矢香氏とともに入るや、

 大きな拍手が鳴り響きました。

 1曲目が終ると、その拍手が一層大きく、長くなり、スタンディングオベーションがありました。

 韓国の他の地域に比べて感情をなかなか表現せず、コンサートでも後半になって、

 ようやく大きな拍手をしていた済州の皆さんがこのような熱い反応を見せたのは、長い済州での生活の中で初めてでした。

 2曲目が終ると、普段あまりかからない「アンコールの声」がかかり、歓声が混じりました。



 東京フィルの方が私に、こんなに盛り上がったのは初めてで、済州の皆さんのあたたかい拍手に涙が出てきたと述べ、

 他の地域でのコンサートのために済州を離れた後も、済州の感動が未だに心に残っており、

 済州の皆さんのあたたかさを懐かしく思うとのメールを送ってきました。

 コンサート終了後、何人かの方にお話を伺ったとき、有名で質の高い文化人・芸術人がなかなか来なくて、

 このような公演を心待ちにしていたから、このコンサートに行く機会に恵まれて嬉しく思う、

 チョン・ミョンフンと東京フィルに感謝したいと述べていました。


◆記事3:同交響楽団 公演レポート ソウル・仁川公演 2005年11月12日、13日

 

 ソウル近郊の果川は鮮やかな紅葉でまばゆい。

「チェロ、ヴァイオリン、オーケストラのハーモニーがすばらしい。

 やっぱりチョンさんの指揮だから、今日のコンサートは今までのコンサートと違う。」と、

 ソウル芸術高校でフルートを学ぶイテーファが言った。

 完売のため、ユンジョンリム(ヴァイオリン教師)はダフ屋からチケットを買った。

 インターネットからプリントアウトした紙評を幾つか見せながら、「評判どうり、本当にすばらしかった。」





 仁川はソウル、釜山に次ぐ第3番目の大都市。

 ソウルの西、40キロメーターの人口240万の港町仁川は、サッカー2002年ワールドカップの開催地でもある。

 街で出会った大学生は仁川を誇りに思っていた。又、仁川総合文化芸術センターの公演に来た観客は気取らない、

 情熱的な音楽愛好家が多かった。


 韓国での最終公演。観衆から東京フィルに向けて、スタンディング・オベーション、耳が痛くなるほどの大きな拍手が送られた。


◆コメント:東京フィルハーモニー交響楽団の音楽監督は韓国人指揮者、チョン・ミョンフン氏である。

 

 長い、引用となった。

 日本のメディアはどうして、こういう出来事を取り上げないのだろうか。



 東京フィルハーモニー交響楽団は起源を遠く遡れば、明治44年に名古屋の「いとう呉服店(現在の松坂屋)音楽隊となる。

 しかし、この時点ではオーケストラとは云いかねる。

 東京フィルハーモニー交響楽団(以下、東フィルと略す)が発足したのは、何と終戦の一ヶ月後、1945年9月である。

 その時の音楽監督は山田耕筰(知っている人は知っている。「赤とんぼ」の作曲者であるが、

 ドイツに行って本格的に勉強してきた人で、交響曲をを残し、指揮者としても活躍した)だった。



 2001年、韓国人指揮者、チョン・ミョンフンがスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーに就任した。

 チョンミョンフン氏は指揮者になる前はピアニストであり、

 1974年、チャイコフスキーコンクールピアノ部門第2位に入賞しているからただ者ではない。

 指揮者になった後もパリ・オペラ座の音楽監督に就任した。大変な芸術性を持つ「本物」である。



 姉上は、私が聴いた限り、現存する中で世界最高のヴァイオリニストのひとり、チョンキョンファさんである。

 チョン・キョン・ファさん独奏のツィゴイネルワイゼン”(ヴァイオリン名曲集)はお薦めです。

 本当は、サン・サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」というのを聴いて頂きたいのですが、

 あいにく今は品切れのようです。


◆東フィルの中国・韓国公演は大成功だったようだが、何故マスコミは取り上げないのか。

 

 上の記事は、東フィルのサイトの中にある日・中・韓「未来へのフレンドシップツアー」(中国・ソウル、韓国5都市)から引用している。

 出来れば、公演直後の現地の新聞記事が読みたかったが、私としたことが気が付くのが遅れた。

 但し、東フィルが韓国公演を行う直前、東京オペラシティで、チョンミョンフン氏の指揮で開いたコンサートの様子を朝鮮日報がつたえている。

 読めば分かるが、「韓国人の指揮者が日本のオーケストラを振った(指揮することを「振る」という)」

 ということではなく、演奏そのもののすばらしさを讃えている。


◆今回の東フィル海外公演は、単なる名曲コンサートではない。

 

 今回、東フィルが中国・韓国公演で取り上げたプログラムは、プロのオーケストラのレパートリーとしては普通のものだが、

 所謂「大衆受け」を狙っていないところが良い。

 うるさいクラシックファンは「チャイコン(チャイコフスキーのバイオリン協奏曲のこと)とか、

 ショスタコ(ショスタコービチのこと)の5番なんてポピュラー名曲だ」というだろうが、

 長いクラシック鑑賞歴を持つ聴衆ばかりではない。

 かといって、「ウィリアム・テル序曲」、「新世界」、「運命」では、馬鹿にしている。

 ブラームス・チャイコフスキー、ショスタコービッチは、それぞれドイツとロシアの、

 西洋音楽史上絶対に無視できない大作曲家である。

 今回のプログラム(演奏曲目)とて、歌謡曲と同じ気分で聴いていられるたぐいの音楽では絶対にない。

 これらの演奏を最期まで聴いた上、長いスタンディング・オベーションがあったということは、

 韓国の聴衆も当然のことながら我々と同様の芸術に対する感受性があることを端的に表している。

 聴衆の全員が普段から親日的であるかどうかは知らぬが、

 兎にも角にも、この日、この時、中国と韓国の聴衆と東フィルのメンバー全員、

 そしてチョンミョンフン氏は同じ芸術的感動を分かち合ったと言うことである。


◆芸術的感動は憎悪をも溶かす。

 

 元・旧西独首相のヘルムート・シュミット氏はたいへんな音楽好きで、

 自らもピアノが玄人はだしだが、以前、ニューズウィークのインタビューに答え、

 

「現在、ドイツの殆どのオーケストラには日本人音楽家がいる。

 彼らは如何なる日本の政治家、外交官、財界人よりも、ドイツ人の日本人に対するイメージの向上に貢献している」



 と述べていたことを、私は鮮明に記憶している。

 また、以前、この日記で、オーストラリアのオーケストラのあるメンバーが、

 戦争で身内を日本人に殺され、日本人を憎んできたが、岩城さんと音楽をすることにより、

 その恨みを忘れる決心をしたというエピソードを書いた。



 東フィルの音楽監督(スペシャル・アーティスティック・アドヴァイザーなんて言葉は聞いたことがないから、

 ここでは「音楽監督」という語に置き換えさせていただく)のミョンフン氏とて、最初から喜んで日本に来たのではない。

 彼の祖父上は熱心な抗日運動家だったので、チョンミョンフン氏も長い間、日本人に反感を持ち、日本で指揮をすることを拒んでいた。



 ある時、どうしても日本で振らざるを得ない事があり、渋々来日してみたら、

 オーケストラが優秀かつ協力的であり、コンサートの本番では一般聴衆から「ブラボー」が飛び、惜しみない拍手が送られた。

 ミョンフン氏はその時、「音楽に人種や、国家間の政治的対立は関係がない」と思った、と随分前になるが、

 NHKニュース「おはよう日本」で、当時の担当、三宅アナウンサーのインタビューに答えていたのを思い出す。



  勘違いする人がいるだろうと思うので、記す。

 「指揮者」と言う言葉は、誤解を招きやすい。

 だが、「指揮者」は「指揮官」ではない。

 指揮者が先生で、オーケストラが生徒、ではない。

 オーケストラは指揮者に支配されるのではない。

 互いに対等な音楽家である。

 駆け出しの指揮者よりもオーケストラのメンバーの方が、音楽をよく知っている。



 長い歴史を持つ日本を代表するオーケストラの一つ、東フィルがチョンミョンフン氏を音楽監督に選んだのは、

 国籍もへったくれもなく、音楽性が優れていると判断したからに他ならない。

 これは大変重要なことなのだが、政治家もマスコミも大衆も関心を抱こうとしない。

 武器をいくら海外で用いても憎悪は消えないが、

 楽器を演奏する「音楽」というこの素晴らしい芸術が生む感動は、

 堅く凝り固まった憎悪さえも溶かしてしまう偉大な力を持っている。


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