NINJA-SYSTEMS
るり子の日録【オリーブの森で語りあう】
るり子の日録【オリーブの森で語りあう】
るり子



 錦繡の日々

宮本輝氏の『錦繡』を 私に勧めてくれたのはRでした。







「るり子は家にいて、本を読んで僕を待っていて欲しい。

そして、僕が会社から帰宅したら

その日読んだ本を僕に聞かせて欲しい。

そうして 僕の側で 一生暮らして欲しい。」


Rが私にそう言ったのは もう随分前のことです。







本好きのRが自身の書棚から取り出して私に渡してくれた本の中に

『錦繡』がありました。

当時何気なく受け取って一読し 長い事忘れていたソレを

今日再び手にとって読んで見ました。

ここのオリーブ板で ケイタンと約束したからです。










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一読後と 二読後の感情が

ここまで違う経験は 私にはあまりないことです。




浮気の末に相手の女性から無理心中を仕掛けられ、

それが直接の原因で離婚に至った元夫婦の

約一年弱の 書簡のやり取りで語られる『錦繡』。


偶然 

蔵王のダリア園からドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中でまさかの再会

を、するところから 

その書簡スタイルの物語は始まります。





そして

まさかの再会は この日私とRにもやってきました。







一読目の私は Rと幸せの絶頂にいた私です。

二読目の今日 まさに錦繡の日々を 私はRと辿っているかのようです。





『錦繡』では 

小さな歯車の咬み合いの悪さで

互いに愛情を残したまま 離婚に至ったそのカラクリや

現在の互いの生活が

七往復程の書簡を通して 鮮やかに綴られていきます。







望めば何でも叶うと思っていた あの頃。

しかし

望んでも 手にしてはいけない物もあることを知った今

『錦繡』のもつ 悲しさや 

それでも希望を紡いで生きてゆくそれぞれの人生のダイナミックさなどを

その本から 読み取りました。







あの日 

Rが私に『錦繡』を手渡してくれた日。



Rは既に充分私との結婚の可能性に絶望し苦悩し

それでも私を欲していた。



そして私はあまりに ノー天気であり 精神的に幼稚であり

それが、

今更ながら ほろ苦く 

それ故

その今更な私の胸に ひどく鈍らに 突き刺さるのです。






物語の中の男女は

心から幸せなわけではありません。

かといって、絶望しきっている訳でもないのです。





かつて互いに愛しあった互いの記憶を

どちらもある種の愛情を持って 心の中に宿したまま

それぞれの人生に 別々の希望を見出して

すれ違っていくのです。





私たちのあの別離間際の日

Rは『錦繡』に私たちの未来を見ていたような気さえします。








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2004年03月07日(日)
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