 |
 |
■■■
■■
■ 【料理エッセイ】 夢にまで見た【お新香】復活
我が生家には、明治時代から受け継がれたと言うヌカ床があり、それが婆ちゃんや亡き母の自慢の一つだった。 誰かの「お新香出して〜」と言う合図と共に、朝夕問わず、大きな甕からヌカ漬けが引っ張り出されては、食卓に上がっていたのだ。
母は、離婚のために私を連れて世田谷の生家を出る時も、愛用の包丁とヌカみその種床だけは、チャッカリ袋に入れて持って出たくらいなので、よほど貴重な、かなりの家宝だったのだろう。 それが東京の中野時代・九段時代を経て、ずっと松本までやって来て、母は自分の店で、その自慢のヌカ漬けを出していた。 客からも、物凄く美味しいと、大評判だったのだ・・・。 客達が、「ほう・・・。これが噂の明治時代から受け継がれたと言うヌカ漬け・・・・・・じゃない、お新香なのね・・・」と、さも神妙で、厳粛な顔付きで頷きながらキュウリや大根を突付いていたのが、可笑しい〜ったらありゃしなかった。
そして母が昇天し、アタシが引き継いで、毎日かき回し、少しずつヌカを足しながら愛情を持ってヌカ床の面倒を見ていた。 使命感に燃え【コレだけは死んでも守らなきゃいけない・・・】と言うような気分になってしまうから、不思議なものだ・・・・・・。
が、しかし、明治時代から受け継がれた、由緒有る【?】ヌカ床は、アタシの代であえなくパーになった。 エポック時代、アタシが1週間ばかり東京に用事で出かけた際、ウチのバイトがすっかり、かき回すのを忘れ、お釈迦になった。 それからは一時期、ヌカ漬け恐怖症に陥り、どこかで【ヌカ漬け】と言う文字を見ただけでも、母が草葉の陰から呪って化けて出てくるようで、長年贖罪の念にさいなまれたものだ。
信州は漬物が盛んな地域である。しかし、皆それらを【漬物】と言い、【お新香】とは誰も言わない。 野沢菜付け・味噌漬け・大根漬け・粕漬けなどどなど・・・イロイロな漬物が何処にでも有る。 しかし、こっちではヌカ漬けのお新香は珍しいらしい。 そうするとやたらに【お新香】と言う言葉が懐かしくなってくる。 そしてヤハリ、お新香といえば私の脳裏に浮かぶのはあのヌカ漬けなのだ・・・・・。 ヌカ漬けこそが、アタシの中でのお新香だ。
以前、そのヌカ漬けがたまらなく恋しくなって、スーパーでヌカ漬けセットを買ってきて、漬け始めて見たのだが、余りにまずく、一向に美味しくなってこないので、腹を立て全て捨ててしまった。 それから私の長く果てしないヌカ床探しの旅が始まったのだ。【大げさ・・・】
旨いヌカ漬けが有る・・・、と聞けばそこに飛んで行き、食べてみるのだが、ヤハリどこか故郷のヌカ漬けの味とは微妙に違う。 となると、余計恋しくなり、故郷のヌカ漬けがどうにも食べたくなってくる。 いくら食べたくても、ウチの味と違うなら絶対に食べたくない・・・と言うジレンマの十数年間が続いた。 お新香求めて3000里。足はふらつき、息も絶え絶え。 それが・・・、ソレがだ。ツイ一週間ほど前に、我家のヌカ床と全く同じ味のヌカ漬けに偶然、巡り逢えたのだ・・・・・・・。
何を隠そう、美味しいナマユバを売っている、ウチのすぐ近所に有る、個人商店の八百屋さんに、自家製ヌカ漬けが袋入りで売っており、一袋150円と余りに安いので、店の団体客に出すため、5袋ほど試しに買ってきたのだ。 そして店で何気なく刻みながらキュウリを一切れ味見してみたら、な、な、な、なんと・・・!!! 全く故郷のお新香と同じ味ではないか・・・・・・!!!!!!
嗚呼・・・・・・!! 何年この味を捜しあぐねた事だろう・・・・・・。こんな身近に故郷の味が眠っていたとぁ〜!!!!!! お釈迦様でもわかるめぇ〜!! 恐れ入り屋の鬼子母神ってもんだい!! おっかさ〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!! やっと見つけたでやんす!!! このあっしを誉めておくんなせぃ!!! 夢にまで見た、あ、あ、あのヌカ漬けのお新香が、今こうして、目の前に蘇ってくれたじゃぁ〜ねぇ〜か!! もう、おめぇさんを決して離すもんか!! 二度と離しゃぁ〜しねぇ〜〜〜〜〜〜!!!!!!! 【こうなると、殆ど、大衆演芸の世界・・・】 アタシャ思わず泣いたね。
サテ・・・、そろそろ平常心に戻そう・・・・・・。
しかもそこのヌカ漬けを買うと、しっかりヌカ床にキュウリが埋まった状態で売っているので、5袋分のヌカ床を合わせると、ヌカ床の種床としては十分な量だ。 アタシは早速ヌカだけをこそげ取り、フリーザーパックに詰め替え、家に持って帰りましたネェ・・・・・・。 翌日早速、念のため、もう3袋ほどヌカ漬けを買ってきて、合わせて見たら、丁度小さめの漬物用容器が一杯になるほどのヌカ床が出来あがった。 後はヌカだけ足しながら、丁寧に混ぜ混ぜして行けば、一生涯、故郷の【お新香】が食べられる。 フゥーリィーも毎日、夢中でパク付いている。 野菜嫌いのフゥーリィーが、アレほど良く食べるとは・・・・・・。 労せずとも素晴らしく美味しい故郷のヌカ床が手に入った。 お新香と、油の乗ったシャケと味噌汁が有れば、おかずはいらない。 【・・・と、コレは今アタシが食べている朝ごはん】
ともかく、嫌々ながら越してきたこの家で、嬉しい出会いが幾つあったことだろう・・・・・・。 美味しい蕎麦屋が見付かり、凄く良く効く温泉が見付かり、仲良しの婆ちゃんが見付かり、やりたかった仕事が見付かり、大好物のナマユバが見付かり、夢にまで見たヌカみそが見付かった。 此処は私にとっての聖地かも・・・・・・。 みんな私が心から求めていた大好物ばかりだ。 今度は何を見つけられるだろか・・・・・・。
もしかしたら庭を掘ったら、小判がザクザク見付かるかも知れん・・・。 んなわきゃ〜ないか・・・・・・。
2004年09月28日(火)
|
|
 |