マキュキュのからくり日記
マキュキュ


 【短編小説仕立て】 薮原祭り(5)


フゥーリィーの実家は、表通りから5Mほど奥まったところに位置している。
先ほどは裏道を通って家に入ったので、表通りの雰囲気は解らなかったが、家から数歩、反対側に出ると、【薮原銀座】と言う名の表通りに面している。
「どんな小さな村にでも、銀座と名の付く所があるものなのネェ」と、以前笑い合った記憶がある。
この通りが薮原唯一の商店街であり、お祭りのメイン通りでもある。
まだ日が高いというのに、そこはもう、露店と人々で賑わっている。
昨日が宵祭りで、今日が本祭り。
薮原祭りは別名【雨呼び祭り】とも呼ばれ、大雨になる日が多いと言う。
先ほどの天気予報でも雷雨の兆しアリと伝えられていた。
しかし、私が来たからにはもう大丈夫。私は自他共に認める晴れ女なのだ。
どうか天気が持ちますように・・・。私は心の中で祈った。

懐かしいお囃子の音が聞こえ出し、胸がザワザワとざわめく。
薮原祭りは神社に露店が出るのではなく、この薮原銀座にズラリと縁日のように出店が立ち並ぶのだ。今日はひときわ沢山の出店が所狭しと並んでいる。
神輿(みこし)や獅子を舞わせる大きな屋台も、この商店街をメインに進む。
目の前のイカ焼き屋の屋台から、醤油の焦げた香ばしい香りが漂って来る。

人ごみを避けながら歩いていると、向うから天狗さんが二人やってきた。
「あの天狗に頭を撫でて貰うとご利益があるんだよ」とフゥーリィーが言う。
「へぇ〜♪ 願い事が叶うんだ」
「うん。でも、天狗たちは絶対に声を出しちゃいけないから、何を聞いてもただ黙って頷くだけだけどね」
「へぇ〜、そうなんだ。絶対に声を出しちゃけないんだ・・・」
「うんうん。だから皆、わざとしゃべらそうとするんだけど、見ててみ? 一言もしゃべらないから・・・」とフゥーリィーが可笑しそうに言う。
「じゃぁ、私がしゃべらしてやる!」そう言って私は天狗に近づいた。
「エッセイ集を出すんですけど、それが売れるように、心を込めて頭を撫でて下さいますか?」
天狗さんが頷きながら、うちわで頭を撫でてくれた。
「あなたも買ってくれますか?」
私が言うと、やはり無言でうんうんと頷いている。
「本当に?」 と聞くと、またまた無言で頷いている。「じゃぁ、お届けしますから住所を教えて?」と言ってみたが、やはり、無言で頷くだけである。
私は意地でも何かをしゃべらせてやろうと、あれこれ考えていると、「もう、いい加減に、からかうのはよしなさいよ・・・、恥ずかしいじゃないかぁ・・・」と、フゥーリィーに洋服を引っ張られてしまった。
天狗さんの肩が可笑しそうに揺れている。お面の中から笑い声が漏れた。
「やったぁ〜♪ しゃべらなかったけど、声は聞いたぞ〜♪」
私は、キャッキャキャッキャと、子供のようにはしゃいだ。

向うには上獅子の大きな屋台が見える。
もうあんな場所まで降りてきているんだ・・・・・・。

この薮原祭りは、神輿(みこし)の他にオスの【上獅子】とメスの【下獅子】の獅子頭を乗せた、二基の大きな屋台が出るのだ。オス獅子は深緑の顔をし、メス獅子の顔はエンジ色だ。2匹とも、とても凛々しく、猛々しく、実に良い顔をしている。
上の方に位置する蔵から上獅子の屋台が出、下の方に位置する蔵から下獅子の屋台が出る。全長約5M。幅約2M。高さは4Mにも及ぶ大きな屋台だ。
その屋台には、獅子の頭を持ち、お囃子と掛け声に合わせながら獅子を舞わせる10人ほどの【巻き手】達と、お囃子の演奏者と、大勢の子供達が乗り込んでいる。
その屋台を揃いのハッピを着た綱の引き手達が、気合を掛けながら、通りをジワリジワリと1Mほどずつにじり進んでは止まり、獅子を巻き、又ちょっと進んでは又止まり、獅子を巻き・・・、それを夜まで延々繰り返しながら村を清めて行くのだ。

獅子を巻くには決まった振り付けがある。そして、巻き手には上手い・下手があり、新米はまだまだへたっぴいで、獅子の動きにメリハリも無く、どうしても獅子の首がラジオ体操のようになってしまう。しかし、達人はやはり、獅子が生きるのだ。獅子が命を吹き返し、大きく、大きくその顔をうねらせる。一回の獅子舞は2分ほどの演技なのだが、それに薮原の若い衆は、練習の全てを賭けるのだ。
如何に、獅子に表情を持たせるかを、巻き手の皆が競い合い、見物人達が、それを評価し合う。そこがこの祭りのもっとも楽しい所である。
フゥーリィーのお父さんが元気で獅子を巻いていた頃は、余りに上手で、それを見て涙ぐむ人々も多かったと言う。いつもトリを取って居たそうな・・・・・・。
メス獅子はメス獅子の恥じらいや、色気や、艶美を出さなければならず、オス獅子は、勇壮に、大きく、逞しく動かさなければならない。

「俺も来年こそは、ハッピを借りて、絶対にマキュキュに獅子を巻く姿を見せてやるからな」
フゥーリィーが鼻の穴を膨らませながらそう豪語する。
ビールに酔ったのか、かなり赤い顔をしている。
【アンタの顔が獅子みたい・・・・・・】私はイヒヒとほくそ笑んだ。

そして祭りのクライマックスには、最終地点の広場で両方の獅子が出会い、向かい合い、互いに敬意を払いながら厳かに獅子を巻き合う【寄(よ)け合い】と言う獅子同士の競演がある。それがこの祭りの一番の見せ場なのである。
その時に獅子を巻くのは、村一番の上手な巻き手が代表して巻く。所謂トリを取るにふさわしい達人が3人ずつ選ばれ、交互に獅子を巻くわけだ。

薮原祭りの模様

「このお祭りは七夕にもちなんでいるみたいで、年に一度、オス獅子とメス獅子が出会って愛を語り合うと言う、ロマンチックな一説もあるんだよ」
「へぇ〜、そうなんだ・・・・・・。薮原祭りは、中々洒落た浪漫があるんだね・・・」
「だから屋台の後ろの方に、願い事の短冊をつけた笹の枝が、沢山飾ってあっただろ?」
「うんうん」
私は持ってきた携帯カメラで、沢山の写真を撮った。
一通り露店を見て回り、鰻のタレを買い、私達は家へと戻った。
これから皆で、夜の宴の準備に入るのだ。
薮原祭りは、ハッピさえ着ていれば、何処の家にも無礼講で上がり込め、酒や料理を相伴できるという慣わしもある。
今日はきっと、親類達やフゥーリィーの同級生達もやって来ることだろう・・・・・・。
さぁさぁ、忙しくなるぞ〜。
フゥーリィーと、(E)ちゃんと、私とで、揚げ物を揚げたり、オードブルを盛り付けたり、皆で手分けをしながらもてなしの料理を作って行く。
何だか、とっても楽しい。家族が集まるって、とても良いもんだ・・・・・・。
私はもう一張り切りしたくなって、フゥーリィーの好物であるマカロニサラダを作った。

(最終回へ続く)


2004年07月17日(土)

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