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■ 【エッセイ】 マキュキュの想い出箱(中学生編)後編
今日、日記を書きにココに来たら、何と日記のカウンターが【11111】になっていた。 キリ番、自分でゲットしちゃった!(笑) 仕事始めにふさわしいようにも思えて、何か嬉しい気分。
サテ・・・昨日の続きを書きましょうかねぇ・・・。 私が、一番愛しかった日々の想い出なので、思わず力が入ってしまってますが、何とか今日で締めくくりたいと思います。
狭くて真っ暗な宇宙の中で、私達は不安と恐怖に打ち震えながら、じっと息を殺していた。しっかり(S)と手を繋ぎ、耳だけを研ぎ澄ませ、ひたすら外の気配を探るしか成す術はなかった。 自分達の心臓の鼓動が、はっきりと聞こえてくる。
ドアの開く音と供に数人の男たちがなだれ込み、ケント達に罵声を浴びせ掛けてている。
「テメーラ何時だと思っとるんじゃい!」 「浚うぞテメーラ!」 「金出さんかワレ!」 声の様子から、相手は少なくとも3人以上は居るようだ。
『ヤ、ヤ、ヤクザ・・・・・・?!』 『・・・・・・!?』
私達は声にならぬ声で囁いた。 私達は余りの恐怖でお互いに抱き合った。 「どうしよう・・・・・・どうしよう・・・・・・やられる・・・・・・売られる・・・・・」 私は心の中で、呪文のようにそう繰り返し叫んでいた。
「確か他にも女の声がしてたなぁ〜?」 一人の男の声に、私の体に、かつて経験した事のない恐怖の旋律が走った。 「神様お願いです。どうか気付かれませんように・・・そして、何事も起こらずこの悪夢が直ぐに覚めますように・・・・・・」私は必死で祈った。
「テープよ! テープを流してただけよ!!」 マリコさんの声がし、やがて、殴る蹴るの音と供に、ケントとタクボの苦痛に歪む声。それに被るように「何すんのよ! 止めてよ!!」というマリコさんの悲鳴が聞こえて来た。
やがて急に静かになり、ケントとタクボは外に連れ出されてしまった様子。
そして次に聞こえてきたのは、マリコさんの悲痛な泣き叫ぶ声。
たった一枚の襖の向こうで、マリコさんが今、数人の獣たちに、一体何の洗礼を受けているのかは、幼い私たちにも察しがついた。 必死で抵抗しているマリコさんに平手打ちを浴びせている残酷な音がする。 やがて時を置いて、マリコさんの泣き叫ぶ声も、ピタリと止んだ・・・・・・。
ピンクフロイドの【ユージン斧を振れ】の旋律が、まるで恐怖映画の効果音のように流れ、獣たちの卑猥な息遣いと、テーブルのグラスがリズミカルに触れ合う音だけが聞こえてくる。 きっとマリコさんは、順番に襲い掛かる獣たちに、歯を食いしばりながら、憎悪で冷め切った視線を投げ、獣達を嘲笑って耐えているのだろう・・・・・・。
私はここから出て行くべきか迷った。同じ仲間として苦痛を共有するべきだと思ったのだ。そうしなければならないと・・・・・・。 でも、そんな勇気は無かった。 出て行けば、きっとマリコさんと同じ目に会うだろう・・・・・・。 もしかしたら、それだけでは済まないかも知れない。 どこかに売り飛ばされてしまうかも知れない。 (S)もきっと同じ気持ちだったに違いない。 私達はただただ、声を殺して泣いた。限りない恐怖と、マリコさんへの申し訳なさで、心が張り裂けそうだった。
暫くすると獣たちが出て行く音がし、堰を切ったようなマリコさんのすすり泣く声が聞こえてきた。 直ぐにもう一度ドアの音がし、『マリコ・・・・・・』という聞きなれた暖かい声がした。 それでも私達は、怖さで身動き一つ出来ないで居た。
やがてタクボの手で押入れが開かれ、「もう大丈夫だよ」と痣だらけの顔をしたタクボが微笑んだ。 恐る恐る押入れの外の出てみると、全裸で毛布に包まったマリ子さんの身体を、やはり蒼痣だらけになったケントが優しく抱きしめ、無言であやすように揺すっていた。
「あいつ等は、誰なの?」 「あいつ等は、隣に住んでるチンピラとその仲間達さ。大丈夫、もう居ないよ。俺たちが渡した金で、どっか行ったんだろう、何時ものことなのさ」とタクボは首をすくめている。
マリコさんは私達に向き直ると、「ごめんなさいね、あなたたちに、こんな怖い思いをさせてしまって・・・」と、本当に申し訳なさそうに苦笑した。 私達はその言葉を聞くやいなや、マリ子さんに抱きついて、オイオイ泣きじゃくった。 言いたい言葉は山ほどあった。でも、私達に付いて出てくる言葉は『ごめんなさい』と、『ありがとう』の二言だけだった。 「気にしなくていいのよ。あなたたちが無事で居てくれて、こんなに嬉しい事は無いわ。さぁ、今日はもう帰りなさい。あいつ等が帰ってきたら大変!」 そう微笑みながら呟くマリコさんを、私はその時、【聖母】だと思った・・・・・・。
私達の恐怖に満ちた、長い、長ーい夜。 そして、初めて触れた本物の優しさ・・・・・・。 皆は身体を張って、仲間入りしたばかりの私達の事を、守り抜いてくれたのだ。
∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ そんな事が有り、私達はその後も暫くの間【ダリ】に通い続けていた。 マリコさんは、あの後、自分の貯金と皆のカンパで、家を引越した。 サムライの宇宙は、マリ子さんが買った新しい襖と交換され、ずっと【ダリ】の壁に立て掛けられていた。
マリコさんは何事も無かったかのように、アンニュイな大人の微笑を浮かべ、何時ものカウンターの隅の席で、お気に入りの黒いノートに、私にはチョット難しすぎる詩を書いていた。
ケントは某ディスコの人気バンドのボーカルに引き抜かれたと、有頂天になっていた。
タクボは相変わらず【ダリ】にやってくる若い女性客をとっ捕まえては、「可愛いから、ただで占ってやるよ。どう?」などと言いながら、タロットカードを並べていた。
マサは何時も渋みの効かした顔で、マスター相手に穏やかにジントニックのグラスを傾けていたし、リミはトッカエヒッカエ、男を連れて来ては、マスターに「新しい彼よ」などと自慢していた。
麗美もマスターに「偶には手伝いなさいよ、偶には・・・」などと小言を言われながらも、私達のグループにすっかり収まり、サムライはマスターに頼まれ、トイレのドアにキリストのイラストを描いていた。 後にサムライはプロのイラストレターになったという。
酋長はマスターに叱られて、完璧にドラッグを止め、今度は電気ブランという酒にはまり、相変わらずラリっていた。 チョボはあちらこちらのディスコで主催するダンスコンテストで、何時も自慢のステップを披露している内、とうとうディスコの店員になってしまった。
その後、私は九段中学を卒業し、又中野に引越した。 大親友の(S)とも離れ離れになってしまい、私がトリマーの専門学校に通い始めた頃から、徐々に【ダリ】への足が遠のいていった。
そして、数年たった或る日、急に【ダリ】が恋しくなり、私はわざわざ出かけて行ったのだ。すると、もう【ダリ】は、跡形もなくも無くなっていた・・・・・・。
アレは私の理想の幻想だったのだろうか・・・・・・。
いや、確かに【ダリ】は存在し、皆があの店に居た。 あの店で笑い、あの店で泣き、あの店で怒り、あの店で成長した。
私は今でも、しょっちゅうあの頃の事を想い出す。 皆が家族以上の絆で結ばれていた。心優しい仲間達。
みんなどうしているんだろう・・・・・・。 皆、今でもどこかで元気に暮らしているのだろうか・・・・・・。
あの、なんとも不思議で、幻想的で、優しくて、温かで、愛しかった日々に、たとえ一日だけでいいから、もう一度だけ舞い降りてみたい・・・・・・。
あんな掛け替えのない優しさに触れる日々は、私の人生の中で、もう二度と来ないだろう・・・・・・。
私はフ・・・と、サムライの宇宙の行方が気になった。 もしかしたら、あの宇宙の中に、皆の想いも星となって、溶け込んでいるかもしれない・・・・・・。
2003年04月14日(月)
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