マキュキュのからくり日記
マキュキュ


 エッセイ集【私をそそる者達】より〜 納豆


納豆



私は、無類の納豆好きである。

随分と安上がりで、色気もそっけも無い女だと思われるだろうが、そんな事、一向にお構いなし。(アッカンベーだ!) 

納豆に恋してる、と言っても、言い過ぎでは無い。

亭主に飽きる事は有っても、納豆は飽きた事がない。(爆笑)

今まで、色々な納豆料理を試してみた。

納豆入りオムレツ(ネバタマ)。納豆入りチャーハン(ネェー、バーチャン)。納豆、ネギトロ、山芋、いかそうめん、いくら、生うに、オオバの千切り等を、大皿に奇麗に盛り付け、大き目に切った海苔の上に適当に取り分け、わさび醤油を降り掛け、巻いて食する、(でも、納豆が主役巻き)。

その他、納豆のゲンコツ揚げ、納豆とカツオの冷製スパゲティー。稲荷納豆。等々、ありとあらゆる納豆料理を試してみた。

どれもこれも、皆美味しく、それなりに愉しめるし、料理によっては、ひきわりから超大粒まで、色々な納豆を使い分ける術も、私なりに学んだ。が、しかし・・・・・・だ。

到達したのはやはり、ひきわり納豆を、そのままポイッ! と、小鉢に入れ、「えーい、これでもかっ!」って言うぐらい、親のカタキのようにこねくり回す。

目安は、ニョグニョグ・・・、と言う、水っぽい音から、ガラガラ・・・という、乾いた音になれば占めたもの。

そこに、卵黄のみと、脳天が痒くなる程の、たっぷりの辛子を入れ、又もや、こねくり回す。そこで、ようやく、微量の化学調味量と、醤油を入れ、駄目押しの如く、こねくり回しにもう少々を費やす。

最期に多めの刻みネギ(決して水にさらしてはなりませぬ)を入れ、仕上げのこねくり回しにもう一分。

いい加減、手首が、タルークなって来た所で、ハイ、出来上がり。

(うんうん、惚れ惚れするほど芸術的・・・。納豆ごときに、十分は掛けたぞ・・・・・・)

この想いが、よけいに、食欲をそそる。

これをアツアツのご飯に、たぁーっぷりとぶっ掛けて、刻み海苔をちらしながら食べるのが、至福の一瞬。

付録に、チョイ古漬気味の、ぬか漬けキュウリが十切れ、それに、豆腐とネギと、油揚げの味噌汁さえあれば、もう、言う事なし。



サテ・・・、先日、付き合いはまだ浅いが、若くて、超美人で、裕福で、良妻(子供は居ないので、賢母ではないが)を絵に描いたような新婚家庭(顧客)に、届け物をした際、「何も無いけど、お昼をご一緒にいかが?」と、誘われてしまったのだ。

勿論、遠慮はしたのだが、「一人で食べるのは寂しいから、ねっ? お願いよ!」と、眼も潤ませんばかりに誘うので、私は、ずうずうしくも、ご好意に甘えさせていただく事にした。

(さぞかし、お洒落なサラダと、パスタでも出て来る事だろうなぁー)

そう、想像を廻らせた時、松島奈々子風の、容貌を持った彼女が、「ねぇ? 納豆は食べられて?」と、聞くので、思わず嬉しくなり、「もちろん! 私、納豆キチガイなの!」と答えると、彼女は、満面の笑みを浮かべ、さっそく納豆作りに取り掛かろうとした。

「私も何か手伝います」と、並んで台所に立ち、フライパン等の洗い物を手伝いながら、見るともなく彼女の納豆作りを横目でチラリ。

彼女が冷蔵庫から取り出した納豆は、藁に包まれた、水戸産の本場ものだった。

(ヤリィ!)
私は、わくわくし、洗い物をする手付きも、心なしか弾んでいた。

すると、何と彼女は、小鉢に納豆を入れたかと思うと、かき回す暇もなく、ネギも、からしも、はたまた、醤油までもを一気に入れ、それだけならまだしも、愕いたのは、生卵を白身ごと割入れたのだ。

(ゲッ! 嘘だろっ!)私は目を疑った。

そこでようやく、彼女は納豆をかき回し始めたのだ。

「この納豆、わざわざ、主人の伯母が、水戸から送って来てくれるのぉ〜。とっても美味しいのよぉ〜」彼女は、妖艶な笑みで語る。

「エッ・・・、そぉ・・・お・・・・・・?」
ずるずると、だらしなく間延びし、粒さえ、ほぐれ切れていない納豆を見た瞬間、味の想像が付き、私は恐怖心に駆られた。

案の定、それは、とても納豆と呼べる代物ではなく、私は込み上げる物に涙ぐみそうになりながら、重い箸を運んだ。しかも、納豆以外のその日のおかずは、ジャガイモと、玉ねぎの味噌汁。(これはまぁ、良い)シーフードのサラダ。ポテトのチーズ焼き。トマトオムレツである。

(ナンダイ! この取り合わせは、エッ?

少しはバランス、っーもんを考えろよ!)

そんな気持ちを、下隠しにして、一通り箸を付けて見る。が、やはり、どの料理を食べても、何とも、間の抜けた味。

こんなに美人なのに、イマイチ、センスの無さが勿体無い・・・・・。

そんな事を考えていると、駄目押しに、彼女が言った。

「ねぇ? さっき、納豆キチガイっておっしゃったわね? さぁさぁ、いいから、私の分も掛けちゃってください。ウフフフフ・・・」

(ぎょえーっ!)



私は、この日ほど、親愛なる納豆が不憫に思えた事はない。

私に作らせてくれたら、彼女は二八歳にして、やっと本当の納豆のウマサを知る事となるのに・・・・・・。そう思うと、残念でならない。

彼女の旦那様は毎日、さぞかし、歯がゆい思いをしている事だろう、と、心から同情した。

でも・・・・・。

(ま、いいか。あれほどの美人だもん。許されるわなぁー。何かが良けりゃ、何かが悪いのも、又、人間らしくてカワユイか・・・・・・)

と、一人納得する私であった。

「ババァでも、不細工でも、貧乏でも、こんな料理上手な女房と暮らせるおめぇは、幸せ物なんだぞ! 感謝しろ、えっ? フゥーリィーよ!」そんな独り言を呟きながら、ハンドルも軽やかに、帰路に急ぐ私であった。

                       byマキュキュ


※ このエッセイは、私がブティック勤めをしていた頃に書いたものです。




2002年07月20日(土)

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