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■ ミュウー 〔最終章〕 (3)
(3)
僕は一人ぼっちで、不安な夜を過ごした。
何時間も、何時間も、時間がたったようなそんなさっかくを感じながら、祈るような気持ちでお父さんからの連絡を待った。
そして、お父さんから電話が入ったのは、十二時を回ったころだった。
僕はふるえる手で、受話器を持った。
「哲朗、心配するな。お母さんも赤ちゃんも、何とか助かったよ・・・・・。お母さんは、しばらくの間入院する事になったけど、お父さんは荷物を取りに、すぐに帰るから安心して寝てなさい」
僕は一気に体の力が抜けていくのを感じた。
「ほんとう? ほんとうに助かったんだね? もう、大丈夫なんだね?」
僕は、安心して電話を切ると、さっそく、ミュウーに報告するために、外に出てミュウーの名前を何度か呼んでみた。
でも、いくら呼んでも、鈴の音もしない。
僕は(ヤレヤレ・・・・・・せっかくお母さんたちの無事を報告してあげようと思ったのに)と、ためいきをつくと、仕方なしに、一人で眠りにつくことにした。
ミュウー、どこに行っちゃったの?
お母さんも赤ちゃんも無事だったよ。
安心して早くもどっておいで。
僕は、出て行った時の、ミュウーの何時(いつ)もとちがったようすを、思い浮かべていた―
◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊
翌朝、僕は学校に休みをもらい、お父さんと一緒に、お母さんを見舞いに行った。
こわごわ病室のドアを開くと、お母さんは、おだやかな顔でスヤスヤと眠っていた。
その寝顔を見たとたん、又、僕の涙の泉があふれだした。
「お母さん・・・・・・」
僕が小声で呼びかけると、お母さんはそっと目を開いた。
「あぁ・・・テッチ、来てくれてたのね。お母さんすっかり眠ってしまってたわ」
「ゴメンネ、起こしちゃって・・・・・・。それより、どう?具合は」
「ええ、だいぶ落ち着いたわ。こっちこそごめんね、テッチにあんな心配掛けちゃって・・・・・・」
お母さんは、申し訳なさそうな顔をして、僕の両手をにぎった。
「本当だよ・・・・・・、いちじは、どうなっちゃうのかと思って、僕・・・、僕・・・・・・」
「ほら、又直ぐに泣く! おまえはもう、中学生なんだぞ? それにもう直ぐ兄貴になるっていうのに・・・・・・、いいかげんに、泣き虫ぐせは、やめたらどうだ!」
お父さんが、胸を張って続ける。
「男が泣くときは、親が死んだ時と、愛するものを失った時だけだ!」
「そういうもんなの? お母さん」
「ウフフ、本当はね、私と赤ちゃんが助かった時、お父さんだって泣いてたんだから・・・・・」
お母さんがウインクをしながら、僕に小声でそう打ち明けた。
「何だ・・・、お父さんだって泣いたんじゃないかぁ〜」
「おい! 真紀子、それはオフレコだったはずだろうがー」
病室は、三人の笑い声でみたされた。
「ほらほら、テッチ、おなかの赤ちゃんも笑ってるわよ、チョット触ってごらんなさい」
お母さんのお腹に、そっと手をさしのべると、赤ちゃんが元気に動いている事が、僕にもはっきりと伝わった。
「あっ、本当だ。動いてる、動いてる。こいつ、なかなか元気がいいなぁ・・・」
その時だった。
僕の耳元に、ミュウーの鳴き声が、微かに聞こえたような気がしたんだ・・・・・・。
「ねぇ、お父さん。僕、気になって仕方が無いんだけど、昨夜、ミュウーにひどいこと言っちゃったんだ。お母さんが苦しみ出した時、僕、パニックになっちゃって、ミュウーに八つ当たりしちゃったんだよ・・・・・・。ミュウー、ちゃんと帰ってくるよね? 怒ってないよね?」
「あはは、怒ってなんかないさ、ミュウーは何時もどおり、ちゃんと帰ってくるから、安心しなさい」
「う、うん・・・・・・」
そう答えたものの、僕は、何か、得体(えたい)の知れない胸騒(むなさわ)ぎを感じていた。
―次回に続く―
2002年06月15日(土)
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