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■ ミュウー《第三章》(4)
(4) 良く晴れわたったあたたかな春の日、僕たちの卒業式が終り、僕ん家のレストランの入り口には、『本日、都合により、貸切(かしきり)とさせていただきます』という、札が掛けられている。
その、大切なお客様は、そう・・・・・・。ヨッチと、ヨッチの家族達。
僕らの卒業式に出席する為、ヨッチのお母さんと、おばあちゃんも、わざわざ横浜から来てくれたのだ。
僕達だけの、『さよならパーティー』だ。
お父さんと、お母さんは、ヨッチのお母さんの手伝いを受けながら、大はりきりで、ごちそうを作っている。
僕とヨッチは、ヨッチのおばあちゃんと小父さんに、ミュウーの芸を見せながら、ミュウーを助けた時の事や、いままでに起こった色々な想い出話を話して聞かせていた。
しばらくし、ようやく料理が出そろって、皆でグラスをかかげた。
「まずはテッチ、それにヨッチ、卒業、オメデトウ。それから、ヨッチのお母さんの全快祝いにカンパイ!」
お父さんが、かんげきからか、少々声をつまらせてそう言うと、ヨッチの両親たちは、嬉そうに微笑んだ。
「あっ、そうそう、それに、真紀子さんの、オメデタ・に・も・ねっ!」
ヨッチのおばあちゃんが、いたずらっぽくウインクをした。
お父さんとお母さんは、顔を見合わせながら、テレ笑いをしている。
こうして、楽しくて、そして、ちょっぴりさみしいパーティーは、始ったのだ。
ヨッチの小父さんが、この日のためにと、こっそり練習していたらしい手品を披露してくれ、何も入っていないはずの箱の中から、ミュウーが出てきたときには、皆、思わず歓声をあげてしまった。
僕のお父さんは、名カメラマンに扮し、シャッターを切りまくっている。
◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊
パーティーの翌々日、僕達は皆で、松本駅まで、ヨッチの家族を見送りに行った。 僕もヨッチも、ずっと黙ったまんまだった。
やがてホームに電車が到着し、双方の家族が別れを惜しんでいる。
「元気でねやれよ・・・・・・」
「うん・・・、ヨッチもね・・・・・・」
「電話しろよ・・・・・・」
「うん・・・ヨッチもね・・・・・・」
「ミュウーをよろしくね・・・・・・」
「うん・・・・・・、まかせとけって・・・・・・」
たったこれだけの会話・・・・・・。
僕達は、おたがいに、これだけを言うのが、せいいっぱいだった。
これいじょう、何か話したら、二人とも、泣き出してしまいそうだった。
やがて電車は動き出し、とうとう、この街から、ヨッチをつれさってしまった。
―次回に続く―
2002年06月12日(水)
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