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■ ミュウー 《第三章》 (3)
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春になり、間もなく、僕とヨッチは卒業式をむかえる。
でも僕は、とてもふくざつな気分だった。
その日が近づくにつれ、卒業式の印(しるし)をつけた赤丸が、カレンダーから消えてなくなればいいと思った。
卒業式をむかえれば、いやでもヨッチは、お母さんの待つ横浜へと、帰ってしまう。
あんなに毎日、一緒にいたヨッチが、この松本からいなくなってしまうなんて、僕にはまだ、想像もできない。
その事を考えただけで、僕はパニックになってしまうほど、つらかった。
でも、ヨッチにとってみれば、大好きなお母さんのそばに帰る事が、一番うれしい事なんだと・・・・・・、それがなによりも、ヨッチの幸せなんだと・・・・・・、僕は一生けんめい自分に言い聞かせるように努力した。
横浜も、松本も、同じ陸続(りくつづ)きだ。会おうと思えば、会えない距離(きょり)ではないもの。
でも・・・・・・、でも・・・・・・。
ヨッチとの別れを考えると、眠れない日が続いた。今夜もいつものようにベッドにすわったまま、僕はボーッとしていた。
そんなボクの所に、ミュウーがやってきて、僕の足元にジャレついてきたんだ。
僕はミュゥーを抱き上げると、横に座らせ、ミュウーに救いを求めた。
「ミュウー、ヨッチが横浜に帰っちゃうんだよ? おまえもさみしいよな? ねぇ、ミュウー、・・・・・・ヨッチはね、あんなにさみしかった僕に、ひとりぽっちだった僕に・・・、やっと出来た親友なんだ。ヨッチと出会えたおかげで、あんなに毎日が楽しかったのに・・・・・・。ミュウー・・・・・・、さみしいよ・・・・・・ミュウー、つらいよ・・・・・・何とかしてよ・・・・・・ねぇ、ミュウー・・・・・・」
ミュウーは、ふしぎそうな顔をして、僕のなみだを見つめている。後から後からあふれ出るなみだを、ミュウーは、首をかしげながら、じっと見つめている。
すると、ミュウーは、小さく鳴きながら、僕のひざの上によじ登ってきて、僕のほほにそっと手をかけ、まるでなみだをふいてくれるかのように、やさしく、やさしくジャレたんだ。
「こいつめ・・・・・・」
僕は力いっぱいミュウーを抱きしめた。
そして、思いっきり泣いた。
―ヨッチと松本で過ごす最期の日曜日、二人は、誘(さそ)い合って、久しぶりに『こもれび公園』に行った。
そして二人は、どちらからともなく、あのブランコに乗り込んだ。
「僕達の思い出の場所だね・・・・・・」
ヨッチがさみしげに笑った。
「うん、ここで、ヨッチとはじめて話をしたんだよね・・・・・・」
二人で、想いでのブランコにゆられながら、僕達は、今までの事を思い返していた。
「それから、この公園に来たおかげで、ミユウーにも出会えたんだよね」
ヨッチがなつかしそうに、目をつむる。
「うん、あの日は本当に、寒かったよね」
僕は、ヨッチに貸してやった、ダブダブの服の事を想い出していた。
「あれから、お互いに、いろんな事が有ったね」
「うん」
「一年があっという間だったね・・・・・・」
「うん」
「僕達、きっと、大人になっても親友で居られるよね」
「あたりまえさ。少なくても、かならず年に一度は会うって約束しようよ」
「うん・・・・・・、テッチも、横浜に来るんだぞ」
二人は、ずっとずっと、ブランコにゆられていた―
―次回に続く―
2002年06月11日(火)
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