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■ ミュウー 《第三章》 (2)
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僕はヨッチのようすを、気にかけながら、バス停まで、ヨッチをむかえに行った。
バスから降りてきたヨッチは、がっくりと、肩(かた)を落としながら僕に言うのだった。
「僕達、横浜に帰ることになったんだ・・・・・・」
「又お母さんに会いに行くの?」
「ちがう・・・、そうじゃなくて、えいきゅうに帰るんだ・・・・・・」
「それ・・・、どういういみ?」
僕は耳をうたぐった。
「お父さんの転勤の期限が急に、早くなったんだって・・・・・・。だから・・・・・・」
「たしか、おじさんの転勤は、始めから短期間って言ってたよね・・・・・・」
ヨッチはうつむきながら、うなずいた。
「お父さんは、松本に出来た、新しい会社の新入社員を教育するために来たんだけど、もう、教える事は無くなったって。だから、お父さんの役目が、予定よりも早く終わりになったんだってサ・・・・・・」
「そうだったんだ・・・・・・。お母さんの所に帰れるんだ・・・・・・」
僕は上の空でつぶやいた。
「会社の方でも、お父さんに気を使ってくれたみたい」
ヨッチがそう言う。
「うれしく無いの?」
僕がそう聞くと、
「うん・・・・・・? そりゃあ、お母さんのそばに帰れる事は、僕、とてもうれしいよ。でも、テッチと会えなくなるんだよ? 僕、それがつらいよ・・・・・・」
「そうだね・・・・・・、横浜と、松本じゃ、ますます遠くなっちゃうね・・・・・・」
僕は、急に目の前が、真っ暗になってしまったような気分だった。
「いつか、こんな日が来る事は、わかっていたけど、僕、テッチと離れたくないんだ」
ヨッチは、ひっしで、涙をこらえている。
「い、いやだよ・・・・・・。せっかく、こんなに仲良くなれたのに、僕だって、ヨッチと離れ離れになるなんて、ぜったいに、いやだよ!」
僕はそうさけぶと、顔をゆがめてヨッチを見つめた。ヨッチの瞳に涙の泉がわきあがり、それが、あふれ出したと同時に、僕たちは道のまん中で、とうとう、大声を出して泣き出してしまった。
道行く人達が、そんな僕らを、ふしぎそうにふり返り、
「けんかをしてはだめだよ」
と、声をかけた。
(ミュウー、どうしよう・・・・・・。
ヨッチが卒業と同時に、横浜へ帰ってしまうんだ。
あんなに仲良しのヨッチが、この街からいなくなるんだよ・・・・・・。)
―僕は、片方のうでを、もぎとられてしまうような、そんなさみしさを感じていた。
それからというもの、僕達は、別れをおしむかのように、週に二、三度、泊(とま)りがけで、どちらかの家ですごすようになった。
ヨッチのおじさんが、そんな僕らを見かねて、寒中休みに入ったら、僕らの想い出作りのため、横浜に遊びに連れて行ってくれる事を、やくそくしてくれた。
僕は指折り数えて、その日が来るのを待っていた―
いよいよ、夢にまで見た横浜に、出発する朝が来た。
「哲朗をよろしくお願いします」
玄関先で僕の両親が、ヨッチの小父さんに、ペコリと頭を下げている。
「奥さんも、大事な時期だから、あまりムリをしないよう、身体に気をつけてくださいよ」
大人達が、そんなやり取りをしている間に、僕はミュウーと、三日間のお別れをしていた。
「ミュウー、お土産をいっぱい買ってくるから、いい子でるすばんしてるんだぞ。お母さんとお父さんを、くれぐれもたのむね?」
ミュウーは、僕の顔を見つめると、
「まかせておけ」とでもいうように、
『ミュウー』と、元気に一声鳴た。
僕達はミュウーと、両親に見送られて、ワクワクしながら家を出た。
はじめて行く横浜に、僕の胸はドキドキと、はりさけそうだった。
まずは、松本駅から『あずさ』という、特急電車に乗り、僕達は、新宿に向った。
新宿についた僕達は、高層ビルの上にあるレストランで、食事をした後、京浜急行に乗って、いよいよ横浜についた。
ヨッチの家は、横浜の郊外(こうがい)にあり、横浜駅から地下鉄に乗りついで行く。
僕は地下鉄に乗るのも、今回がはじめての経験だった。
見るもの全てがおどろきで、僕の知らない世界だった。
すっとんきょうな歓声(かんせい)をあげつづける僕を、ヨッチもおじさんも、クスクスと笑いながら見ていた。
ヨッチの家に着くと、お母さんと、おばあちゃんが、嬉そうに出迎(でむか)えてくれ、僕達のために、ステキなスプレゼントを用意していてくれた。
始めて見るヨッチのお母さんは、とても重い病気だったとは思えないほど、きれいで、イキイキとしていた。
「家(うち)のお母さんより、だんぜん若くて、それにとってもきれいだ。さすがヨコハマ・・・・・・」
僕は、そっとヨッチにつぶやいた。
「マァ、テッチャン、嬉しい事言ってくれるわね。ありがとう」
ヨッチのお母さんが、嬉そうに言ったので、僕は、聞かれてしまった事が恥かしくて、顔を真っ赤にした。
そして、皆で大笑いになった。
僕達は、さしだされたプレゼントを、ワクワクしながら開いてみた。
それは、二枚の、そろいのスタジャンだった。
背中の分部には、『ベストフレンド』という英語のイラストで、かっこよくふちどられてあり、まん中には、ずっと前に僕のお父さんが撮(と)ってくれた、まだ子猫だったころのミュウーをはさんだ、僕とヨッチの写真が、大きくプリントされていた。
「ウワーッ! 超(ちょう)ーカッコイイー。まるでプリクラみたいだ・・・・・・。ねぇヨッチ、この写真、いつ送ったの?」
「お母さんの去年の誕生日に、僕の一番の宝物だよって、手紙にそえて贈(おく)ったんだ」
ヨッチはそう言うと、てれくさそうに笑った。
―僕は、横浜にいる間中、コウフンしまくっていた。
おばさん達にもらった、おそろいのスタジャンを着て、僕等はまるで、本当の双子のように、仲良く横浜での日々を楽しんだ。
名所と言う名所を回り、よくばりな僕達は、おじさん達におねだりして、真冬の遊園地にも、ナイトクルージングにも、連れて行ってもらった。
夜は夜で、話がつきず、真夜中(まよなか)までヒソヒソ話が続いた。
「又、かならずおいでよね・・・・・・」
最後の夜、ヨッチはポツリとつぶやいた。
「うん、もちろんさ。こんなに楽しい所なら、毎年でも来たいくらいだよ。今度は一人でも来れるように、電車の乗り方を、しっかり覚えておかなくちゃね」
そんな事を話しながら、僕等は眠りについた。
ヨッチの街で過(す)ごした、夢のような三日間は、あっという間にすぎてしまい、僕達には、楽しいステキな想い出が、いっぱい残った―
―次回に続く―
2002年06月10日(月)
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