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■ ミュウー 【第二章】 (4)
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夏が終わり、秋になり、ちょうどミュウーを助けてから、一年が過ぎたころ、文也伯父さんのレストランでは、伯父さんの『さよならパーティー』が開かれていた。
お得意様のお客さんを、たくさん招待した、盛大なパーティーだった。
僕達家族は、ヨッチと、ヨッチのお父さんも招待し、パーティーに参加(さんか)してもらった。
大勢のお客さんを目の前にして、文也伯父さんが、お父さんと、お母さんをよびよせ、レストランをひきつぐための、あいさつをしている。
続いて、伯父さんが、お父さんにも、一言皆様にあいさつをするようにと、うながした。
お父さんは、コチコチになって、とてもきんちょうしながら、つっかえ、つっかえ、あいさつをはじめた。
「えー、み、皆さまご承知(しょうち)の通り、私(わたくし)はこの店のコ、コ、コ、コックをさせていただいてる小山です・・・・・・。そして、こいつは、か、か、家内の真紀子(まきこ)です。こ・・・、このたび、文也伯父さんに代わって、この店をま、まかされる事になりました。み、み、みじゅくものですが、ふ、夫婦(ふうふ)そろって、一生けんめいがんばりますので、い、今まで同(どう)様(よう)、よ、よ、よ、よろしくお引き立てくださいますよう、こ、こ、心からお願いもうしあげます・・・・・・」
僕も、ヨッチも、ヨッチのおじさんも、ツバを飲み込み、手に冷(ひや)汗(あせ)をかきながら、お父さんのあいさつを聞いた。
お母さんは、お父さんのとなりで、はずかしそうに、目をふせている。
はくしゅがわき起こり、カンパイの声とともに、伯父さんのさよならパーティーは始った。
僕とヨッチは、待ってましたとばかりに、たくさんのごちそうをほおばった。
お父さんとお母さん合作(がっさく)の、うでによりをかけた料理(りょうり)が、ところせましとならんでいる。
文也伯父さんは、来月早々、イギリスへ立つという。そしたら僕達は、ここに引っ越してくる事になる。
僕達は、おなかがふくれると、ミュウーをつれ、にぎわう店内をそっとぬけだし、ヨッチを案内するために、二階へと上がった。
二階には、大小の部屋が、5つある。
きっと、その中の一番小さな部屋が、僕のための子供部屋になるのだろう。
僕は、未来の子供部屋らしき部屋に入ると、ヨッチを手招(てまね)きした。
「すっげぇなぁー、テッチ・・・・・・、カッコよすぎるよ・・・・・・。あの、雨もりボロ家から、いきなり、レストランのお坊ちゃまだぞ。ねぇ、どんな気分? お坊ちゃま、ご感想(かんそう)を一言・・・・・・」
ヨッチが、リポーターをまねて、こっそり下から持って来た、一本のバナナを、マイクにしたてて、僕をからかった。
「まるで、シンデレラの、男バンになったみたいな気分さ」
僕は、すまし顔でそう答えながら、本当に、まだ、夢を見ているみたいな気分だった。
「ねぇ、ヨッチ、僕のほっぺたを、おもいきりつねってみてよ」
「エッ? こうかい?」
ヨッチは、ようしゃなく、僕のほっぺたをつまみあげた。
「イッ! 痛ってぇなぁー、もう! ヨッチ・・・・・・、少しはエンリョしてよ・・・・・・」
僕はヨッチを、ジロリとにらみつけた。
「ご、ごめん・・・・・・。だって、おもいきりっていったじゃない・・・・・・」
ばつの悪そうな顔で、ヨッチと、僕は、おたがいをにらみ合った。
と、二人はプッと吹き出し、その笑いは、だんだん大きくなり、やがて、身体をよじったゲラゲラ笑いにと、変わって行った。
ミュウーが僕達の、異様(いよう)な笑い声におどろいて、あわてて部屋からとび出して行った。
「・・・・・・!」
それを見た僕らは、もっとおかしくなって、おなかを抱えて笑いころげた。
おたがいに、相手の、苦しそうな、ものすごい笑い顔を見ては、指をさしてまた笑い、
「ヒィーヒィー」のけぞって笑い合った。
しばらくの間、そのバカ笑いは、止まらなくなってしまい、顔中が、涙(なみだ)だらけになった。
と・・・、ヨッチの顔が、みるみる本当の泣き顔に変わって行く。
「さみしくなるよ、テッチ・・・・・・、転校しなきゃいけなくなるんでしょう?」
ヨッチがくちびるをかむ。
「たぶんね・・・・・・、それにちょっと、遠くなっちゃうから、今までみたいに毎日は、きっとあえなくなるね・・・・・・」
僕もヨッチにつられて泣き顔になる。
「もう、こもれび公園で遊べないのかなあ」
ヨッチがしゃくりあげる。
「そんなことないって・・・・・・、バスで、ほんの九つ目だもん、僕も遊びに行くし、いつでも家においでよ」
「うん・・・、そうだね・・・・・・。 そんなに遠くじゃないよね・・・・・・」
僕達は、部屋の明かりを消すと、下のパーティー会場へと、もどって行った。
もう、夜もふけ、すっかりお客さんも、まばらになっていた。
見ると、僕のお父さんと、ヨッチのおじさんが、酔っぱらって、肩を組みながら、調子っぱずれの大声で、何やら歌を歌っている。
伯父さんと、お母さんは、苦笑(くしょう)しながら、それを見つめている。
僕とヨッチは、両手を広げ、
「オーゥ、ノー・・・・・・」
と、同時にさけんだ。
―次回に続く―
2002年06月08日(土)
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