マキュキュのからくり日記
マキュキュ


 ミュウー【第二章】(3)


(3)

僕は文也伯父さんの家につくと、小走りに玄関に向かった。


そして、小さい頃から楽しみだった、ライオンの顔をかたどったノッカーを鳴らしてみた。


「オヤオヤ・・・、しばらく見ないうちに、ずいぶん大きくなったもんだなぁ」

 文也伯父さんは、僕を一目見るなり、すこし大げさにおどろいた。

「こんにちは」

 僕はペコリと頭を下げた。

 背中のリュックの中で、ミュウーがもがいている。

さっそく、ミュウーを出してやると、伯父さんは、あごに手をそえながら、

「これがうわさのミュウー君か・・・・・・。ホウ、こりゃぁ、なかなかのハンサムだ・・・・・・。きっとレストランの、りっぱな招き猫(まねきねこ)になってくれるぞ」

と、イミシンに笑っている。

「?」

僕達は、三人で顔を見合わせた。

「じつは、今日、おまえ達に集まってもらったのは、ある相談があっての事なんだが・・・・・・、まぁまぁ、さておき、中に入ってくれ」

『ハァ・・・・・・』

 僕達は、2階の応接間に通され、フカフカのイスにこしかけた。

 お父さんとお母さんは、いつもとちがう伯父さんのふんいきに、とてもかしこまったようすだ。

 伯父さんは、僕らに飲み物を差し出すと、ようやく話を切り出した。

「つい、先日も、せがれから電話があって、そろそろイギリスに来いと、うるさくてな」

『ハァ・・・・・・』

「親父(おやじ)も、もう年なんだから、いいかげんにレストランをだれかにまかせて、イギリスでいっしょに暮らせというんだよ・・・・・・」

『ハァ・・・・・・』

「今、料理長をしている田中君も、今度自分の店を出すらしく、近々(ちかぢか)ここをやめたいといって来た・・・・・・。それで、おまえ達にたのみたい事がある」

伯父さんはパイプを取り出すと、それにゆっくりと、火をつけた。

「おまえ達、今まで、よくがんばったものな。一生けんめいまじめに働いてきたし、あの味ならもうだいじょうぶ。どうだ? おまえ達にごほうびとして、この店をまかせようと思うんだが?」

 伯父さんは、ニコニコ笑いながら言った。

『ハァ・・・・・・?』

 お父さん達は、まだ、事情が飲み込めないらしい。

「たてかえた金も、後わずかだし、もう帳消(ちょうけし)にしてあげるから、二人で協力し合って、私の代(か)わりに、この店をついでくれないかね? その方が哲朗のためにも良いんじゃないか?」

 お父さんもお母さんも、しんじられないようすで、お互(たが)いの顔をみつめている。

「おまえ達に、この家と店を、プレゼントさせてほしいんだ」

 伯父さんは、そう言って笑った。

「うっ、うっそぉ! ねぇねぇ、伯父さん。それじゃ、僕達、ここに引っ越して来てもいいの?」

 僕は、思わずさけび声を上げた。

「そういう事だ、哲朗!」

 伯父さんが大きくうなずく。

「すっ、すごいや! お父さん、お母さん!やっと夢がかなうんだね? それに・・・、それにミュウーも、追い出されなくてすむんだね?」

 僕は飛び上がって喜んだ。

 お父さんもお母さんも、抱き合って泣いている。

 僕はミュウーを抱きしめると、おもいきり、ほほずりをした。

「おまえは・・・・・・、やっぱりおまえは、幸せを運ぶ猫だったんだね」

 ミュウーは、とくいそうな顔をして、グルグルと、のどを鳴らしている。



 夏休みも、3分の2が過(す)ぎ、ようやくヨッチが横浜から帰ってきた。

今日は、ひさびさの、登校日だった。

久しぶりにヨッチの顔が見られる事がうれしくて、僕は約束の時間より、だいぶ早めにヨッチをむかえに行った。

 アパートの階段を、一段(いちだん)飛(と)ばしにかけ上がると、僕は早る気持で、チャイムをおした。

「ハーイ」

中からヨッチの声がして、ドアが開くと同時に、僕は、サッと、ドアの後ろにかくれた。

「どちらさまですか・・・・・・?」

ヨッチは、マヌケ顔でキョロキョロしている。

僕は、そーっと、そーっと近づきながら、

「ウワァッ!」とヨッチをおどかした。 

「オッハヨウ! ヨッチ、お母さんの具合はどうだった?」

 僕はいたずらっぽく笑った。

 ヨッチは、よほど、おどろいたみたいで、目を白黒させている。

「ア〜、ビックリした。もう・・・、おどかさないでよ。それに、まだ四十分も前だよ?」

 ヨッチはニッコリ笑うと、

「バッチリ!」

と、嬉そうにVサインをおくった。



◊   ◊   ◊   ◊   ◊



僕とヨッチは、学校へ向うとちゅう、おたがいに、われさきにと、山ほどたまっていた話をしあった。

 ヨッチのお母さんが、医者達も、ふしぎがるほどに、奇蹟的(きせきてき)で、しかも、かんぺきな、快復(かいふく)をしたという事。

 お母さんと、おばあちゃんと、お父さんとの、家族水(かぞくみず)入(い)らずで、久しぶりの横浜で、とても楽しい時間をすごせたという事。

横浜の、ホビィーショップで、あまりにも、ミュウーにそっくりな、ぬいぐるみの人形を見つけ、僕のために、お土産に買ってきてくれた事など、ヨッチは、たてつづけに話してくれた。

 僕も、ミュウーの事が大家にバレて、家を追い出されるすんぜんだった事や、あやういピンチを、伯父さんが助けてくれた事など、ヨッチのるす中に起こった、いろんな出来事を話して聞かせた。

と・・・、しばらくの間、僕達はだまりこんで、同じ事を考えていたらしい。

『みんな、ミュウーのおかげだね?』

二人で同時(どうじ)に、言いかけて、おもわず僕等は顔を見合わせた。

「きっとそうだよ・・・。アイツが僕らに、幸運を呼んでくれたんだ・・・・・・」

 ヨッチが、しんみりと、つぶやいた。

僕もなんだか、不思議(ふしぎ)な気分だった。

僕はふと、前にお母さんがいった事を、想い出していた。

「そういえば、ずっと前、僕のお母さんが、『黒い猫は幸運を運ぶのよ』って言ってたけど、あれって、本当の事だったんだね・・・・・・」

「それと、テッチがつけた名前も、きっとよかったんだよ。ホラホラ、例の、未来に夢が生まれる・・・・・・っていうやつ・・・・・・」

「うん・・・・・・」

「そのとおりになったね・・・・・・」

 ヨッチがとてもやさしい声で、ほめてくれたので、僕はちょっと、かんげきして、涙ぐんでしまった。

「うん、ありがとう・・・・・・。僕、ヨッチと友達になれて、本当によかったよ。ヨッチと友達にならなかったら、きっとミュウーにもあえなかったもん」

 僕は、ヨッチに気付かれないように、涙をふくと、少しテレながら、ヨッチの顔を見た。

「僕も、僕もテッチやミュウーに会えて、本当によかったよ・・・・・・。もしかしたら、それも、最初から、神様が仕組んだ事で、ミュウーと出会わせるために、僕達は、引き合わされたのかな・・・・・・」

僕達は、いいようのない、不思議な気分につつまれていた。

 そんな話をしている内、僕達はあっという間に学校に着いてしまった。

          ― 次回につづく―


※オマケ  皆さんお元気ですか?
今回の作品が、長いため、続けて読んで頂きたく、余計な書き込みを控えておりますが、なんかやっぱ、寂しい・・・・・・(・・,)グスン
 書きたい事が少し溜まってきたので、それをまたエッセイに仕上げて、ストックしてます。
この【ミュウー】が終わったら、多分又、ネタ切れになるのは目に見えてるので、転ばぬ先の杖? でしょうかね・・・(≧▽≦)うひゃひゃひゃひゃ!!!
                              マキュキュ






2002年06月07日(金)

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