朝の光に意識が覚醒すると同時に、蛮の左手が無意識にシャツの胸ポケットへと伸びた。
――何か、ある。
いや、何かいる。 というべきか。
まるでそこを巣と間違えて、小鳥の雛がこそりと忍び込んできたみたいに。 小さくて微かな重み。体温。 まだ目を閉じたまま、ポケットの中で丸まった小さな生き物に、蛮がフッ…と口の端を持ち上げた。 心中でごちる。
…このヤロウ。 いつのまに。
普段なら、隣のシートに寝そべっている筈のそいつは、身体が小さくなってからは、どうも広すぎるシートの上で一人で眠るのが不安らしく。 気がつけばこんな風に、夜中のうちに蛮の胸ポケットにこそこそと潜りこんできては、小さく丸まって眠っている。 どうやら、その体勢が一番落ちつくらしいのだが。 おかげで蛮の方は、おちおち寝返りもうてない。
やれやれ。 まったく。 甘ったれが。
まだ半分寝呆けている頭でごちりながら、両の紫紺をゆっくりと開く。 枕代わりに敷いていた右腕ごとやや頭を持ち上げて、どらと左胸の小さな布で仕切られた狭い空間を覗き込もうとする。 が、どうにか見えたのは、小ぶりのたんぽぽのような金の頭だけで。 仕方なく、丸く膨らんだポケットを大事に手の中に包み込み、震動を与えないようにと気遣いつつ、シートごと身を起こす。
見下ろせば白いシャツのポケットの中、すやすやと気持ちよさそうに眠る銀次の表情が見てとれた。 凭れていた角度が変わって、くたりとたんぽぽ頭が後方へ流れ、ポケットの端へと引っ掛かる。 まるでハンモックのようだ。 小っちゃな顎が持ち上がる。 反らされた喉も何もかも、身体のパーツすべてがミニチュアのように小さくて可愛くて、ついついさわりたい衝動にかられてしまう。 喉元を小指の先でくすぐるようにそっとふれれば、小鳥の雛のようなやわらかな手ざわりに、蛮の口元に自然と笑みが浮かんだ。 力の入れ具合に充分気遣いながら、薄くピンクに色づく頬のあたりもうりうりとやる。 銀次がくすぐったそうに、むにゃむにゃと何事が呟いて、ふふっと声をたてて笑った。
…何とも可愛らしい。
もっとも、それでもまだ眠っているふてぶてしさは、小鳥の雛というよりは、寝ボスケでやんちゃのハムスターの子という感じだ。 (口の中に食べ物をいっぱい頬ばるしぐさなど、まさしくぴったり)
体長約10cm。 超ミニミニサイズの銀次。
タレたことはまだないが、この状態でもしタレれば、体長5cmくらいになるのだろうか。
それは、2日前の朝。 起きたら、突然こんなことになっていた。
もっとも。 タレるわ、雷帝化して別人のようになるわ、時空を越えれば幼くなるわ。 大ケガしても食えば治るわ。 元々しっちゃかめっちゃか、でたらめな肉体を持つ銀次であるから。 蛮も大抵のことでは驚かなくなっていたが。
さすがに見た瞬間は、我が目を疑った。 (自分で自分に邪眼をかけたのかと、一瞬焦った)
…まぁ。 こういう事象に遭遇するには、いささか心当たりがありすぎたので。 さほど、慌てることはなかったけれども。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ブログで貰った「10cmバトン」の銀次。 想像したらあまりに可愛いかったので、出来心で(笑)蛮に与えたらデレデレになってしまいましたv 面白かったので、勢いでSSに(笑)
続きは……。 リクエストがあれば、気まぐれにv
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