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風太
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2003年09月19日(金)
パパは奪還屋G-2(1)


「ねえ、本当に大丈夫なんでしょうねー」
「ああ」
「って言っても蛮クン。銀ちゃん1人じゃ結構荷が重いかもしれないわよー、今回の仕事。注文も危険も多そうだし」
「だーれが銀次1人にやらせるっつったよ」
「え? で、でも蛮くん、その身体じゃあー」
「そ、そうだよ、蛮ちゃん! オレ、1人でも何とかやってみっから! だいたい小さい子を、そんな危険なとこ連れてけな・・・・いたぁ!」

思い切り後頭部をゲンコで殴られ、思わずオレはテーブルに撃沈しました。
ひどいよー。
”絶対大丈夫だから、お願い、お仕事ちょうだいちょうだいv”とヘブンさんを拝み倒して、やっとお仕事ゲット〜vってところまでこぎつけたオレに、なんてことすんですか! 蛮ちゃん!
ヘブンさんがそれを見て、カウンターの席で、はー・・と心底不安そうなため息をついてます。
ま、気持ちわかるけど。

いつも通りのホンキートンクで、いつも通りにヘブンさんの仲介で仕事の依頼人さんを待っているオレたちですが、そう、今日はいつも通りとは大きな違いがあるのです。
蛮ちゃんが中身は18歳のまま、見かけだけ推定8歳に縮小されちゃってるせいなのです!
そのうえさ、なーんか身体が縮小されちゃってる分、逆に態度と性格の問題点は拡大されちゃってる気がするし。
こんなで依頼人さんとのお話、ちゃんと進むのかなあ。
オレもヘブンさん以上に不安です―。


「ねー、蛮ちゃん。依頼人さんとはさ、オレがお話すっから。蛮ちゃん、お願いだから大人しくしててよね」
「なーんだとぉ!? テメエ、誰に向かってんな口きいてやがる! ゲットバッカーズのナンバー1はいったい誰だと・・!」
「わかってます! わかってっけど、しょうがないでしょー! こういう話はやっぱ大人がしないとさ」
「テメエのどこが大人だってんだ!」
「蛮ちゃんよりは大人だもん!」
「見かけだけだろうが! おツムは小学生並のクセしやがって」
「小学生?! いくら何でもそこまでじゃないよ!」
「はーん、だったらテメエ、この計算やってみな! 小学校5年生算数!」
蛮ちゃんてば、ヘブンさんの手帳をひったくって、がしがしとボールペンで何やら書いて・・。
うわ、数字いっぱい・・・。
しかも。
0の右下についてる点は何だろう・・・。
「ぜろ・・・・てん?13×5・・てん?いち・・・・・・・」


「んあー・・・?」
タレちゃいました。泣きそう。
プスプス・・・・。
頭から煙も出ます。


「ちょっと蛮クン! もう、そろそろ依頼人さんが来ちゃうっていうのに、銀ちゃんタレさせないでよねー! 目つきの悪いチビ蛮クンに、頭の悪そうなタレ銀ちゃんのコンビじゃあ、仕事の話になんかなんないじゃない!」
「ヘブンさん、ひどいよー」
「まあ、その通りだがな」
波児さんが新聞読みつつ、へっへと笑ってツッコミます。
もう、笑ってる場合じゃないよ。
コッチは『しかつもんだい』なんだから!
とりあえず気を取りなおして、リアルに戻って蛮ちゃんに向き直ります。
でもいつものように向き直ると、いつもの目線には当然蛮ちゃんはいないので、ちょっと見下ろすカタチになります。
なーんか、変な感じ・・。

「とーにかくさぁ、お仕事ないままじゃ困るんだから! 蛮ちゃんのズボンだって買えないし!」
「は? 蛮クンのズボン?」
「あ、うん。蛮ちゃん、小さくなっちゃったら、なぜか半ズボン履いてて・・。でも半ズボンはイヤだなんて我が儘言うんだよ、ヘブンさん! 結構似合ってて可愛いのにって・・・いででで! 顔ひっぱるのやめてよー、蛮ちゃん! タレてない時はそんなにほっぺた伸びないから、すごく痛いんだよ〜!?」
「痛ぇからやってんだろーが! ったく! オレはな、テメーみたいに好きで膝出してる気色悪いヤローとは違うんだよ!」
「え?! き、気色悪い? なんでー?」
「露出させてんのが好きなんだろーが」
「ろしゅつ? でも慣れたらこの方が動きやすいんだけど」
「そん代わり、足蹴り上げりゃ、パンツまで見えちまうくせによ!」
「ええっ、パンツ見えてる?! ホント?!」
「・・・・あんた、銀ちゃんのどこ見てんのよ・・」
ヘブンさん、ツッコむとこはそこじゃないような・・。←いえ、ソコで合ってます。
「好きで見てんじゃねえ! この変態露出狂が見せてやがんだっての! あ、そっか。ヘブン、テメー同類じゃねえか」
「あたしのどこが変態露出狂だってのよー!」
「充分変態じゃねえかよ。今にもチチがこぼれ出そうな服きやがってよー。あんま、うるせぇとチチ揉むぞ、オラ!」
「ぎゃあああ、何すんのよこの変態ガキー! 揉むなああ!!」
「ガキたぁなんだー!」
「ちょっと蛮ちゃん、小さい子が女のヒトのチチなんか揉んでちゃあ駄目だよ! よしなよってばー。もう!」
「誰が小さい子じゃー!!」




「どーでもいいがな。オマエら・・・・。さっきから依頼人さんがお待ちかねなんだが・・・」



波児さんの心底呆れたような台詞に、思わず3人同時にぴたっと動きを止めました。

・・・・・・え?



しーん。




大騒ぎになってるオレたちを前に、依頼人さんのたいそうお金持ちそうなご夫婦は、店の扉を開いたところでしっかり固まってらっしゃいました。
ははは・・。
不安そう。

そりゃそうだよねー。
髪の毛振り乱して少年の首締めてる仲介屋のお姉さんと、そのチチを小さな両手に鷲掴みにしてるいかにもタチの悪そうな男の子と、その子の足で思いきり顎蹴り上げられている情けないオレ・・・だもん。
そりゃ、不安にもなるよ・・ね。

ていうか、波児さんも、もっと早くに教えてよー。






「えーと、坊やは? チョコパフェとかがいいかな」
「あ、オレ! オレ、チョコパフェがいいですv」
「は?」
「・・・オレはブルマン」
「はい?」
「あ、坊や。お砂糖とミルクは?」
「んなもんいらねえよ。ブラックでいい」
「・・・・はあ」
「あ、オレ、すみません。お砂糖とミルクたっぷりでv」
「・・・はあ・・・?」
「おい、波児。灰皿ねぇぞー」
「おまえなあ、そんな身体になってもまだ吸うかい」
「おうよ、煙入れてねーと肺のチョーシが悪くなっちまうかんなー」



「えーと・・」


なーんというか、どうしたらいいんでしょう、このフンイキ。(滝汗)


ブラックコーヒー飲みつつ、煙草をぷかーとふかしている推定8歳児の蛮ちゃんと、その横でチョコパフェを嬉しそうに食べてる一応18歳のオレ。
完全に固まってる依頼人さんと、冷や汗だらだらのヘブンさん。
ちなみにボックス席の向かい側に依頼人さんご夫妻と、コッチ側に蛮ちゃんを真ん中にオレとヘブンさんが坐ってて。
まあ狭いけど、こういう場合、蛮ちゃんが小さいのは助かります。
って、そういう問題じゃないか。

「え、えーと・・・ですね、こっちが奪還屋の天野銀次くん・・・なんですけど」
「あ、天野銀次です、よろしく! で、隣が・・」
「で、あのご連絡いただいた依頼内容についてなんですが」
「あ、あれ?ヘブンさん? 蛮ちゃんは?」
「いいのよ!」
「いいのよって・・」
「オレをシカトしやがる気かよ、デカチチ!」
「あーのねー!」
「で、ですから、こっちはオレの相棒で、美堂・・」
「黙ってらっしゃい、クソガキ!」
「クソガキたぁ、何だ!」
「だから、あの・・。奪還屋ゲットバッカーズのナンバー1・・」
「ノーミソ全部チチに取られちまってよぉ!」
「フン! どこもかしこも小さくなっちゃったクセに、ナマイキ!」
「どこもかしこもってつーのは、ドコよ?」
「ど、どどドコって」
「ねー、だから、やめようってばー、二人とも!」
「ケッ、今更カマトトぶりやがってよ」
「かっ・・! 何よ、キンキン高い声で喚かないでよね、うっさいんだからー」
「た、高い声ー!? テメエ、この美堂蛮さまの低音の魅力を・・!」
「それのどこが低音だっていうのよ!」
「あーのねー! だからさぁ、二人とも!」
「んだとぉ!?」
「なによぉ!」


・・・なんだかヘブンさんまで、コドモっぽくなっちゃってます、とほほ。
なんでこう、お互いそんなどーでもいいことでムキになっちゃうんだよー。

今にも、取っ組み合いを初めてしまいそうな蛮ちゃんとヘブンさんは、もうこの際無視です。
オレはお仕事がしたいのです。
蛮ちゃんにご飯とズボン、絶対買ってあげたいし!


「あの・・。スミマセン。オレでよかったらお話聞かせてもらいますけど」
すまなそうに言ったのがよかったのか、どことなく気が弱そうなおじさんは好意的に頷いてくれました。
ちょっとおばさんの方はヤバそうだけど。
なんか怖そう。
顎の尖った厚化粧お顔も怖いけど、金色の縁取り眼鏡の奥の目が大変に鋭くて怖いです。

「で? こちらの坊やは?」
うわあ、せっかく話題を変えようとしてんのに、おばさん、蒸し返すのやめようよー。
「あ、あの。えっと」
慌てて言い訳を考えるオレを置いて、ぎゃあぎゃあ騒ぎつつもしっかり耳だけはコッチに向いてたらしい蛮ちゃんが、間髪を入れずにそれに答えました。


「おう、オレはこの女の隠し子よ」


「はあ!?」
指さされたヘブンさんが、目を剥いてびっくりしてます。


・・え・・・?
えええええええ!?!?
知らなかった! そうなの!!!

・・・って、そんなわけ、ないじゃないか!
しっかりしろ、オレ!!

蛮ちゃあん。もうー。


「ほお、お若いように見えるのに、ご苦労なさってるんですなあ」
「ななななんてこと言うのよぉ、このガキ・・!! いえ、蛮クンってばもう、いやねえ、ほほほ・・・」
ほ、ほんとに、蛮ちゃんたら何ってことを!
「ごっ誤解ですわ、私、第一そんなトシじゃあ」
「テメーのトシなら充分ガキぐれぇ出来るだろうがよ?」
「出来ないわよお、失礼な!!」
「へー、意外に男とヤる時ゃ、マジメにハメさせてんだ」
「ああああのねえ、あんたねえ!」
ヘブンさん、真っ赤です。
そりゃあ、そうだよね。
でも、ハメるって何をだろう。
「まあ、けど失敗してデキちまってからじゃあ、遅いわな」
「デキてないってのー!」
「つってもなあ、こうやってオレっていう証拠があんだから」
「ちがーう!! 第一ね、私の子なら、私に似てもっと可愛いはずよ!」
「可愛いじゃねーか、充分!」
「何言ってんのよ! アンタみたいなにくったらしい子、私の子じゃないに決まってんでしょ!!」
「あぁ?!」
「アンタみたいな子だったら、アタシはいらないわよ!!」

「・・・! ヘブンさん?」


その時。
ヘブンさんは興奮してたから、自分が何言ったかなんて、きっとわかんなかっただろうと思う。
今までの売り言葉に買い言葉で全然悪気がないってことは、オレだって蛮ちゃんだってワカってたし。
でもオレは。

でも、オレは見ちゃったんだ――。




その一瞬の、蛮ちゃんの横顔を・・・。