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風太
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2002年12月12日(木)
永遠のキズナ・永遠のオモイ

最近、銀次のヤローの機嫌が悪い。
つってもまー、あのアホのことだから、せいいっぱい機嫌悪く見せてんだろうけどよ。

蛮ちゃんは冷たい、だの。
冷たすぎだの。
どうせ、士度のコトが嫌いなんだから、だの。
前は、依頼してきたら引き受けるって言ってたじゃない。
ねえ、そう言ったじゃない。
ねー、蛮ちゃん。
もー、聞いてんの?・・・だの。

うっせーよ。
しつけーんだ、テメエはよ!

だいたい、何でオレが、あんな猿マワシのヤローのせいで、銀次のバカにグチグチ言われなきゃなんねんだ?
ムカつく。
てめえのケツは、てめえで持つって言ってたじゃねーか! ええ?!
男が一回宣言したことを、そうたやすく撤回すんじゃねえ。

猿のせいで、銀次のヤローが、
「魔里人と鬼里人って何なの?」とか、余計なことまで聞いてきやがる。
テメーのパーな頭に何言ったって、どうせ理解できないだろうが?
とかなんとか、はぐらかしているうちに、あのバカ、波児から聞き出しやがった。
教える波児も波児だ。
どうせ言ったって、あのボケにゃわかんねーのに。

・・・そうさ。
どうせ、わかりっこねえ。
テメーにゃ、オレの気持ちなんてものも、わかりっこねーだろう。
魔里人と鬼里人の長く歴史のある争いに首をつっこむなど、オレはゴメンだ。
巻き込まれて、何の得もねえ。
それよりも。
いや、仮にオレ1人だったら、それでもいい。
オレの首を狙う手練れが、また増えるだけのことだから。
だが・・・。

やい、猿マワシ。
テメエが、嬢ちゃんから離れられねえことで、そのために嬢ちゃんに火の粉が降りかかっても、テメエで守るってんのなら、それもいい。
けどよ。
その火の粉を、いっしょにケツ持ちしてかぶる、コッチの身にもなりやがれってんだ。
銀次はな。
その鬼里人の蜂野郎の毒に犯され、危うく命を落とすとこだったんだ。
解毒剤を手に入れるまで、オレがどんな思いだったか、テメエにわかんのかよ。
あのバカを失うかもしれねえと、本気でそう思った時の、あの寒さを・・。
薄ら寒い、頼りなさを。

『ばん・・・ちゃ・・・・・・・・・蛮ちゃ・・・・ん・・・・・』
高熱にうなされ、喘ぐように苦しげな息をしていた。
それでも、掠れた声で、懸命にオレの名だけを呼んでいた。

こいつを失うくらいなら、世界中がヴァンパイアウィルスに犯されても構わないとさえ思った。
銀次のいない世界なら、そんな地獄も似合うだろう。

銀次だけを、オレは助けてやりたかった。




街並みも、人の流れも、普段と何1つも変わらないその風景の中で、ふいにオレだけが足をとめた。
ズボンに突っ込んだ手の中で、煙草の箱をぐしゃりと握り潰す。


とにかく。
銀次はマークされてんだ、あの蜂に。
蜂は、テメエの客だろうが。猿回し。
テメエが相手すりゃいいことだ。
銀次を巻き込むな。
あれは、マドカの嬢ちゃんみたく、守ってやらなきゃなんねえようなタマじゃねえけどよ。
バカでお人好しで騙されやすくて、このオレさまに比べりゃ、まだまだ弱っちいんだ。
強ぇからと放っておくと、あっさりピンチになりやがる。
そばにいてやんねえと、いけねんだ。オレが。
ちっとは、守ってもやんねえと。

・・・・・・そっか・・・・。オレとて、猿と一緒か。

いつか、オレの呪われた宿命ってやつが、オレと一緒に銀次をも呑み込むかもしれねえ。
その前に。
いっそ銀次の側から、きれいさっぱり消えてしまうかと。
そう考えたこともあった。
そうするべきだと、何度も思った。
だが。
オレも、どうしようもねー馬鹿野郎だ。
ヤローに惚れすぎて、離れる機会を失った。
もう、出来っこねえ。
オレは、あいつから離れられねえ。
今さらもう、そんなこと、出来るはずもねえ。
あいつのそばにいて、何かあったらこの手で守ってやればいいと。
今は・・そう、思ってる。

愛だとか、そういうのはよくわかんねーけど。
そばにいるだけで、心からほっとできる。
あの太陽みたいな笑顔を、オレの手で守りてえんだ・・・。


なるほど。
つまり、猿にムカつくのは、同じ穴のムジナだから。
ってえわけか・・・・。




「蛮ちゃん! ねえ、蛮ちゃん! 待ってよ」
「・・んだよ」
『美しいチチになるために』の講座を終えて、とっととホンキートンクを出てきたオレの後を、ほっぽらかされた銀次が、慌てて追いかけてくる。
「ねえ、蛮ちゃん。士度、本当に大丈夫かなー? そんなさ。『せんじゅうみんぞく』とかの争いごとに巻き込まれちゃって・・」
・・言葉だけは、一応覚えたか。
けど、テメー、意味理解できてなかったろ。
「・・・猿なら、卑弥呼に依頼回しやがったみたいだぜ? ハナっから、あんまアテにされてなかったんだろ、オマエ」
「ひっどいなー。でも、アテにしてなかったのはオレじゃなくて、蛮ちゃんの方だけだと思うけどなー」
・・・ほら見ろ、またコトバに険がありやがる。
その話はいい加減にしやがらねえと、しまいにゃ、ブッとばすぜ?
不機嫌にシカトして、とっとと早足になるオレに、言うだけ言って肩を並べて隣を歩きながら、そのまま銀次が無言になる。
なんだよ、何考えてやがる?
自分1人で、猿の手助けがしたいなんて言いやがったら、この場でシメるぞ。
「ねえ、蛮ちゃんだったらさ」
「あ?」
「もし、士度の立場だったらさ。やっぱり裏新宿を出てくの?」
「あ゛あ゛?」
唐突に何を言いやがるんだ?
「士度にそう言ったでしょ。おまえが出ていけば済むことだって」
「ああ、それが何だ?」
「蛮ちゃんも、そうなの?」
「だから、何が」
「もしも、自分が好きな人のそばにいるためにさ。その人の身が危険に晒されんのなら、蛮ちゃんは、その人のそばを離れるようとするの?」
エライまた、オマエにしちゃあ意表をついた口撃だ。
「さあな」
「どっち?」
「わかんねーよ」
「でもさ、どっちかだったらどっち?」
「うっせーな、どーでもいいだろうが!」
「どうでもよくないよ、聞きたいよ・・!」
「なんで、そんなとこで必死になってんだ、テメエはよ! 関係・・」
関係ねえだろう!と言おうとしたところで、いきなり銀次がぴたっと足をとめた。
思わず、つられて一緒に立ち止まる。
そんなオレから、たたた・・と5,6歩前に進んで、そこからオレをまっすぐに振り返って、真剣な顔で言った。
「オレはね! 好きな人のそばを離れないから!」
「あ?」
バカヤロー、でかい声出すんじゃねえよ、みんな振り返ってくじゃねーか。
さっさとやり過ごそうと思い、軽く答える。
「へーそっか。オマエ、ナマイキに好きなヤツいんだ。ま、猿でさえも恋するこのご時世だし・・」
「いるよ」
きっぱりと答えられて、顔には出さずに思わず動揺する。

・・・・誰だ? マドカ・・? 
いや、夏実かレナ? 卑弥呼ってこたぁねーだろうから、まさか、ヘブンとか?

おいこら、待て。
オレは、そんな話聞いてねーぞ!!

「オレは、好きな人に迷惑がかかっても、やっぱ、その人のそばにいたいんだ・・! 離れるなんて、できないから。蛮ちゃんは? 蛮ちゃんはどうなんだよ! 好きな人と離れて、とっとと出てくの? 裏新宿から!!」
・・・・・何で、そこでオレに聞く?
しかも、怒鳴るな。
はぐらかすにはあまりに真剣な瞳に、つい、ぽろりと本音を漏らす。
「いや・・。オレも、離れるなんて、出来ねえな・・。もう、オレの道連れにすんだって、決めちまってるからな・・」
テメーを。
その言葉に、銀次がにっこりとさも嬉しげに笑う。
「・・うん!」
うんって、誰もてめえとは、口に出しては言ってねーだろが! 
それよか、オマエの好きなヤツって、誰よ?
聞こうとするより早く、銀次が腕を広げて、いつもの鳥みたいな手になって、ばたばたと走り出す。
そうして、振り返りながら、歯を見せて照れくさそうに笑った。


「うん! オレも!! 何があっても蛮ちゃんのそばを離れないから・・!!」


え・・?
てえことは・・・?
好きな人って・・・・・。


「蛮ちゃーん」
駆けていく銀次の髪が、日の光の中で黄金色に光っている。
イトシイヤツ。


「待ちやがれ、コラァ!」

言って追いかけ、追いついて。
笑いながら、いつものように、銀次の首に腕を巻き付け引き寄せる。
「わー、蛮ちゃん、くるしー」
それから、笑っている銀次の身体を、まだふざけているフリをしたまま、腕の中に抱きしめた。
「蛮ちゃん?」
「おう」
「ど、どーしたの?」
真っ赤になってやがる。
かーいいじゃねえか。
「離れないっつったろ?」
「え? そう、だけど。あの」
「・・・・んだよ」
「嬉しいんだけど」
「おう、そりゃ、よかったな」
「でもさ、あの」
「あ?」
抱きしめられたまま、オレの肩に顎をのっけて、完全に困ってるらしい銀次が言う。
「みんな見てるんだけど」
「構わねーさ、見せとけ」
こんな人通りの多いとこで、んなこと言い出すテメエが悪い。
「・・・・・うん」
往来のど真ん中でヤロー同士のアツイ抱擁を見せられつつ、迷惑そうに道行く奴らに一瞥を送りながら(バカヤロー、ケイタイで写真撮ってんじゃねえ! 金とるぞ、アホ女子高生が!)、オレは悠長に煙草をくわえた。

ああ、そっかよ・・。
今わかった・・・。
つまり、ここんとこ、てめーの機嫌が悪かったのは、猿の依頼を受けなかったことよりも、オレのソッチの発言が原因だったってことなのか・・。
あほくさ・・。


やい、猿。
テメエも今頃、んなふうに、嬢ちゃんとしっぽりやってんのかよ?
どうせ、何のかんの言っても、嬢ちゃんかテメエの身に、もし何かあったらコイツが放っておくわけがねえ。
と、なりゃあ、オレも、放っておけりゃしねーんだから。
そうなる羽目になる前に、とりあえず先に言っとくぜ。


ギャラは、たっぷりふんだくるからな!
いいな、覚悟しとけよ、クソ猿め・・!





END



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

えと、今週のマガジン2,3号は蛮ちゃんも銀ちゃんも出番が少なかったなあ・・。
ちょっと淋しかったので、つい、妄想炸裂してしまいました。
波児の言ってた「アイツには誰よりもワカってるハズだぜ。愛するものを守るために、プライドもなにもかもかなぐりすてて仕事を頼んできた、士度の気持ちがな・・」という台詞に、さらに妄想爆発。
それって銀ちゃんのことかなあ?vと、つい思ってしまうあたり・・。
かなりキテますか?? 私。