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風太
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2002年11月22日(金)
キスで殺して

「よお、帰ったぜ・・・」
ボロボロになりつつも、どうにかこうにか解毒剤を手に入れて、何とか銀次のところに戻った蛮は、心の底からホッとしていた。
そこに銀次が、自分が置いていった時のままに横たわっていたことに。
自分のいない間に拉致られてるか、悪くいけば敵の手にかかって・・ということも有り得ただけに、手出しされずにすんだことはヤツらに感謝すべきだろう。
(何と言っても、無敵を誇る美堂蛮さまの、唯一のアキレスの踵だかんな・・・ このヤローは)
もちろんその代わりに、自分自身でも気づかなかったほどの、桁外れのパワーをくれることもあるのだが。
「・・・ば・・・・・んちゃ・・・ん・・・・・・・・ばん・・・ちゃ・・・・・・」
高熱にうなされながら、それでも苦しい息の下で、自分の名だけをただひたすら呼び続ける銀次が、言葉で言い尽くせないくらいに愛おしい。
その傍らに腰を下ろして、片膝をたてて、そこに銀次の身体を抱き起こす。
「ば・・んちゃ・・・・」
はぁはぁと苦しそうに息をつぎながらも、銀次は朦朧とした意識のまま手をのばし、ぎゅっと蛮のシャツの胸にしがみついた。
一人残されて、ここで一人で死ぬのかとちょっと心細かったけど、でもちゃんと信じてたよ、オレ、蛮ちゃんのコト・・。
そう言いたげに歪む銀次の顔を見つめ、蛮は口でカリ・・と解毒剤の瓶の蓋を開けた。
注意深く、瓶に鼻を近づけてみるが、特に害のあるような臭いはない。
だが・・・。
それでも、これが本当に解毒剤という保証はないのだ。
あの男は、信じてもらうしかないと言ったが、間違いない、保証するとは一言も言っていない。
もし、こっちのがさらに猛毒だったら・・・?
飲んだ瞬間に、血を吐いて、悶え苦しんで、あっという間にあの世行き。
瓶を日にかざして睨みつけ、蛮が思う。
いや。迷っている時間はない、ブラッドがいつ追いついてくるかわからない。
急がなくては。
えーい、ままよ。
いちかばちか。
銀次と一緒にジゴクに落ちる。
ま、それもいいやな・・。
フッと笑みを浮かべて、蛮がくい!と瓶に口をつけ、一気にそれを口に含む。
別に舌の痺れるような感覚もない。
イケるか?
(今、ラクにしてやっかんな・・・)
思いつつ、銀次の頭の後ろを支えながら、ゆっくりと唇を近づける。
まさか、こんな形で、ふれる機会がくるとは・・・な。
毒蜂君に、ちっとだけ、感謝状でもくれてやりてえ気分だぜ。
唇が微かに触れ合った瞬間、銀次の瞼が小さく震えた。
熱い、唇。
熱のせいとはいえ、その熱さは、あまりにリアルに自分の唇に銀次の唇の感触を伝えてくる。
眩暈のしそうな。
恋い焦がれた唇。
そっと合わせて舌を差し入れて、少し開かせたそこに薬を流し込む。
これが、もし猛毒なら、まさに無理心中だぜ・・・。
まごうことなき、死の接吻。
それにしては、あまりに甘美な。
神聖な儀式のような。
でもこれは「あの」儀式とはまるで違う。
ありゃあ、何の感情も入らねえ、正真正銘のただの儀式だったんだからよ。
だが、これはちがう。
同じ人助けでも。
どっちかっていやあ、人命救助を隠れ蓑に、単に銀次にキスできる恰好の口実が出来たに過ぎない。
その証拠に・・。
オレはいつまで、コイツの唇をむさぼってる気だってーの!
自分で、夢中で銀次に口づけている自分に気づいて、苦笑しながら唇を離す。
ちくしょう、まだ名残惜しい。
くそ、せめて邪眼のタイムオーバーまでもう少し時間がありゃあ。
ったく、往生際が悪いぜ、美堂蛮。
フッと笑いを漏らして、瓶にまだ少し残っていた薬も全部飲み干す。
「これで、この瓶の中身が毒だったとしても、おあいこだぜ、銀次。死ぬ時ゃあ、一緒だかんな」
呟いて、銀次の身体を支えて立ち上がり、その身体を背中に担ぎ上げる。
「だー、重え・・・。ったく、たいして食ってねえくせに、てめ、この、太りすぎなんだよ・・!」
よっこらしょとおぶさって、スバル目指して歩き出す。
バトルの後で体中が軋むが、背中にかかる銀次の重さは心地良い。
とにもかくにも助けてやれたことに、本気でほっとしている。
そんな自分に、つい自嘲の笑みが漏れてしまう。
こんなに誰かのことで、心配したりほっとしたり、忙しく感情を揺さぶられるなどということは、銀次と出会う前の自分なら考えもできないことだ。
そんな蛮の背中で、まだ荒い息をしている銀次が掠れた声で呼んだ。
「・・・蛮・・・ちゃ・・・あん・・・」
「あ? どした? 苦しいか?」
「ん・・・・。さっきよりはマシ・・・・かも」
「そっか」
「・・・・なぁんか、ユメ見てたよー」
「どうせ、何か食ってるユメだろが?」
「やだなあ、ちがうって・・・。蛮ちゃんと、ねー。へへ」
「んだよ、気持ち悪ぃ」
「いいや・・・。どうせ怒るし」
「怒んねーから、言ってみな」
「怒んない・・・?」
「ああ」
「蛮ちゃんとねー、キスするユメ・・・・・」
ゴキ!
「いたぁいー! ひどいよ蛮ちゃん! 怒んないって言ったじゃないかー、もお。オレ、病人なのにー」
「そんだけ、よけいなことぺらぺらしゃべれりゃー上等だ! 病人だと思ったら、ちったあ大人しくしてろ!」
「はーい・・」
怒鳴られて、銀次が蛮の肩の上に顎をのっけて、目を閉じる。
まだ本当は、話をするどころか息をするのもつらいのだが、蛮の帰りを待つ間は本当に心細くてたまらなかったから、こうしてくっついていられるだけで嬉しくて、まだ意識も朦朧としているのに、ついぺらぺらとしゃべってしまった。
(蛮ちゃんの背中、あったかいや・・・・)
安心して、また意識がどんどん遠ざかっていく。
おぶってもらって話すことなんて、そうそうないだろうに。
ずっとこうしてて欲しいなあ・・。
寝ちゃうなんて、もったいないなあ・・・・。
そう思いながらも、蛮の飲ませた解毒剤が効いてきたのか、銀次は少しだけ呼吸をラクにして、すー・・っとまた眠りの中に落ちていった。





「んあ・・ ここは・・・・?」
「車ん中」
「おわ!? 蛮ちゃん、どーしたの、その傷!!」
「カスリ傷だよ、こんなモン。それよか、体はどーよ?」
「ん・・・・・ なんか息がラクになったみたい」
「そっか・・・」
「毒蜂の野郎、見かけによらず律儀な男みてぇだな。ま、どのみち、保険はかけといたんだが・・」
「そっか・・・ 蛮ちゃん、オレのために戦ってくれたんだね」
「・・・・・・んな大げさなモンじゃねーよ」
「・・・・・・そっか―― オレ― また蛮ちゃんに助けられたんだね――」
「なーに、いっちょ前に落ち込んでんだよ」
「んあ」
ゴン!と殴られてシートに沈んだ銀次は”いったいなー、もう”と言いながら身を起こしかけ、何かを思い出したようにふいにその動きを止めた。
「・・んだよ」
「あ・・・」
「どうかしたか?」
「えと、別に・・」
殴られた頭を手で押さえながら、倒されたままのシートにそのまま身体を預け、蛮を見上げる。
ちょっとためらいがちに、銀次が尋ねた。
「ねー、蛮ちゃん」
「あ?」
「なんかさ、毒蜂さんから薬みたいの、もらってきた?」
「もらってきたつーか、かっぱらってきたっつーか・・・」
「オレ、それ飲んだ?」
「ああ。んで、ラクになってきたんだろ?」
そうなんだ、とひとまず納得して、それからもう一度考え直し、また銀次が口を開く。
「・・・・・・ねー。蛮ちゃん?」
「ああ?!」
「あ、ソレ飲む時さ、蛮ちゃんさー。もしかして、オレにキ・・・・」
「あ〜!! そいから、マリンレッドも無事奪い返したからな! いや、オレさまの邪眼でばっちりよ!! こんでオレらも車生活とおさらばして、ロフト付きマンションに住めるぜ!!」
「ねー、もしかして、キス、とかしなかった?」
「いや、ロフト付きなんてケチなこと言ってねえで、いっそオートロックのマンションにだなあ!」
「ねー。蛮ちゃあん」
「うっせえな! ヒトがいい気分に浸ってんのによ!」
「ねー、してない??」
「してねえよ! バカじゃねーのか、テメエ! ヤロー相手にそんなことすっか!」
「だって、雨流にはさあ」
「あれは儀式だっての! 人命救助っつーんだ、人命救助!」
「でも、オレだって人命救助・・・」
「テメーのは、ただの蜂さされだろーが!」
「そうだけど・・・。ねー、ほんとにほんとにオレにキスしなかった??」
「してねえっつーんだよ、しつけえんだ、テメーはよ!!」
「・・・・・・そうかなあ・・・」
言いながらシートを起こして座り直して、その上で膝を抱える銀次に、蛮はまだ吸い終わっていない煙草を灰皿で揉み消すと、また新しい煙草に火を点けた。
煙草をくわえる蛮の口元をちらっと横目で見ながら、自分の唇にそっと指を置いてみる。
蛮はあんな風に言うけれど、唇に、妙に確かに感触が残っている。
誰かの、唇の。
だいたい蛮が、本当に解毒剤かどうかアヤシイ確証のないものを、他人にほいほいと飲ませるとは思い難い。
とすると、一応自分で毒味でもして、それから、そのまま口移しで・・・・。
想像するなり、かああっと顔が熱くなる。
まさか、そんなこと、やっぱ、ないか。
うん、ないよ。
そんなこと、してくれるはずがない。
ないない、やめやめ! 
考えるなオレ! 
やばい、うわー。
なんか、また熱が出そうだ。
顔が熱い。
「おい」
「んあ?」
「顔、赤けぇぞ」
「あ、そ、そう?」
「車、イカれててスピード出ねえし、当分依頼人とこにゃつかねーから。おまえ、熱あんだから、もーちょい寝てな」
「・・・・うん」
蛮に言われ、銀次は頷くと、大人しく目を閉じた。
身体の熱はもう大分ひいてきたのに、これじゃあ、またぶりかえしだ。
頭ん中と顔が熱い。いざって時に役に立たなくて、また蛮ちゃんの足ひっぱったら嫌だし、今のうちに寝とこー。
うん、そうしよう。
そう思い、 もう一度シートを倒す。
自分でもあきれるくらい、瞬く間に眠りに誘われていきながら、銀次は思っていた。
蛮ちゃんは自分を助けるために、ただそのためだけに戦ってくれたんだ・・。
それだけで、もう充分だよね。
そのおかげで、今ここにいるオレがあんだから。
「・・・・・・・蛮ちゃん・・・・・・あんがと・・・・・・」
夢見心地で、銀次が呟く。
蛮はハンドルを握りながら、その言葉にちらっと隣のシートを見、幸せそうな顔で眠る銀次に、包み込むようなやさしい瞳をして、その口元に笑みを浮かべた。








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マガジン50号の、例の薬はどーやって飲ましたのか!?の話がどうしてもどうしても気になって、つい書いてしまいました。
きっと皆さん書きつくされてるんでは?と思いつつ。(イメージ崩れたらゴメンナサイ)
後半の「んあ・・ここは・・?」から「なーにいっちょまえに落ち込んでんだよ」の後の「んあ」までは、実際にマガジンにあった部分からの抜粋です・・。
なんかこうやって台詞だけ書き出すと、すごいね!
同人SSの中においても、どこが原作かわからないくらいのラブっぷりです・・・!
蛮ちゃんは本当に銀ちゃんに甘い!
そして、今後の名誉挽回の銀ちゃんの暴走に、つい期待をかけてしまう私なのでした。