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2010年08月02日(月) |
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夾竹桃 |
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午後六時。 横浜駅中央南口改札。 夕立の後の用水路みたいに、溢れ出る人の群れ。 グレーのスーツとスーツの肩越しに、君の明るく染めた髪が見え隠れする。
手を上げる僕に、君はいつものように満面の笑みを浮かべる。 その口元はいつになく鮮やかな赤で彩られ、瞬間僕の心臓は小さく跳ねる。
「シャネル?」 「ルージュココです。」 「何番?」 「19番です。ガブリエルかな?確かシャネルのミドルネームか何かと一緒だったと思います。」
Gabrielle Bonheur Chanel、それがシャネルの本名だ。
ふと。 住宅街の角を曲がってふと出くわす、夾竹桃の明度の高い赤を連想した。 夏になると目を楽しませてくれる、美しく可憐な花。 一方で、花、葉、枝、根、果実全てに、オレアンドリンという青酸カリを上回る強い経口毒性を持っている花。
「その色、似合うね。」 「ありがとうございます。」 「致死量は?」
君は小首を傾げる。 僕は黙って笑い、君の肩にぶら下がっている大きなバッグに手を伸ばす。
見てるだけじゃ、毒は回らない。 触れない限り大丈夫。
触れない限り。
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