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2008年01月09日(水) |
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君が眠る街 |
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バイクのシートは夜露で湿っていた。 が、かまわずに跨る。 どっちにしろこれから数時間、冷たい空気に晒され続けるのだ。
箱根あたりの路面が凍結してないことを期待してセルを押す。 エンジンは何度目かのトライでやっと、低血圧の女のように動き出す。
東名は意外なほど空いていた。 まだ明け方には程遠い夜中。 星のない漆黒の空。
灯火に照らされる道路の緩やかな起伏は、ふいに海のうねりを連想させる。 三半規管の酷使という意味ではバイカーもサーファーも似た生き物なのかもしれない。
サーファーは海と空の間に、バイカーは大地と空の間に立つ。 そこに立つ条件はたった一つ。 静止していないことだ。 静止したサーファーは沈み、静止したバイカーは転ぶ。
足柄を越え御殿場を抜け、由比で左に海を見る。 油彩のような色の空。 鼻腔に届く潮の香り。 空冷エンジンは熱ダレすることなく強いトルクで車体を前に進める。
女の髪みたいに幾重にも重なった重たい雲。 だが、雨が降る予報は今のところない。
夜明けには君が眠る街に着く。
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