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五十嵐 薫
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頑張ろう東北!
エンピツユニオン

2006年08月03日(木)
surf rider

路肩にバイクを止めた。
脱いだヘルメットを右のミラーにかける。

インターバルが必要なのは僕ではなく、CBの空冷エンジンと後ろに乗せた女だった。



「何これ。ダイドーじゃん。」

自販機の前で女が声を尖らせる。

「ポカリ飲みたかったのに。」



空は晴れていた。
風が気持ちよかった。
ゴムの焦げたような臭いがするのは幹線道路沿なのでしかたない。



「腕、赤いんだけど。」

今度は口を尖らせてる。

「あーあ。焼けちゃう。」



路肩の向こうは幾重にも田んぼが連なり、まだ若い稲が緑のグラデーションを風にあわせ大きく揺らす。
田んぼの向こうには低い里山が、まるで垣根のようにゆるゆると続いている。



「お尻痛いし、音楽聴けないし。」

女の愚痴が僕に向いていることにやっと気づく。

「バイク嫌い。サイテー。」



バイクに跨ったまま振り返る。
女は腰に手を当ててこっちを睨んでいる。
僕は女に向かってにっこりと微笑む。
女の口は一層口を尖らす。



キーを回しセルを押す。
ほぼ同時にギアをローに入れる。
ミラーにヘルメットをかけたままバイクをスタートさせた。






一瞬目をやった左のミラーに女の顔が映る。
尖っていた口が大きく開いてた。



何か言ってたみたいだけど排気音にかき消されて聴こえなかった。

こんな時に言うセリフなんて決まってる。
決まってるものは聴いたって聴かなくたって一緒だ。






空は晴れていた。
風が気持ちよかった。



ヘルメットを被るのが惜しい気がした。


エンピツ