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■ おまけ
※ネトゲのSSと言うやつなので、ご存知ない方は読んでもわかりません。
――――――もうこの場所は冷たすぎる。 蒼帝の城に居る意味など、もう随分と昔から消え去っていたけれど、これも惰性。
扉の厚さは変わらないのに、この隔たり。 お互いすでに興味の対象ではなくなったからだろう。 『あの頃』が嘘のように。 『あの頃』などあっただろうかと思うくらいに。 そして未練もない。
・・・ふぅ、と1つ、息。
オールド大陸から戻ったのは、もういつの話だっただろうか。 長くこちらに居たせいで、もうあちらの大陸に渡ることは許されなかった。 大農場だけが残り、置いてきた荷物も残り、もしかしたら届いているかも知れない誰かからの手紙・・・けれど行くことは叶わない。
荷物も家も執着はない、何処かからの宣伝チラシも要らない、ただ気を揉むのは手紙の件だけ。 届いていないかも知れない、私が見ることはないと知って誰1人投函しに来る者など居ないかも知れない、むしろそう願っているが。 万が一を考えると、歯がゆくもどかしかった。
出来ることなら連絡を取りたいと思う人はいるのに、このままでは。 いっそ家を引き払ってしまったほうが可能性も消えて気持ちも楽になる。
しかしそれもまた、保管所を保有しているがために許可が下りなかった。 利用者がいるのだ。1人だけ。
「・・・ゼニス君・・・・・・」
あれこれ考え込みながら、親指の爪を噛む。
彼は私が(一方的に)今も大切に思う人の、1人。 あちらでまだ元気にしているのなら、追い出す真似などしたくはないけれど。 別の保管所に案内する旨を伝えれば良いとわかりつつ、ただその用事だけで終わらせたいわけでもない。
二の足を踏み続けているのは、惰性に浸かってしまって腰が重いことと、用事以外の部分で気持ちに踏ん切りがつかない所為。 もとい彼がまだ私に親しい感情を抱いているかどうか、その点も不安で。 ひとまず「彼女」に珍しく接触し、その返事を待った。
返事の中身は暗号のようなものだった。 ただ私には理解できた。不安も払拭できた。
「4代目の築きあげたもの・・・」
私は微かな記憶を手繰り寄せて、指折り数えてみる。 いち、に、さん、・・・よん。記憶違いでなければ、4代目は私だ。
・・・ゼニス君は未だに拘っているのだろうか。 再び取り戻したいと願うほど。あの国で。 私は複雑な気持ちで、半ば苦笑いを浮かべながら返事の手紙を折りたたんだ。
ウレシイ、とは言うまい。 それを言うにはまだ、私も伝えきれていないことがある。 そしてまだ出来ることがあるのなら、彼がそれで良いと言うのなら、連れて行かなければならない場所がある。
いい加減重い腰をあげなければ。 オールド大陸の住人に私が最後に出来ることといったら、そんなことしかないのだろうから。 そして家を引き払い、あちらの大陸での居住権は破棄し、こちらの大陸で思い出と共に静かに暮らそうかと思い始めていた。
やはり「過去」に生きる女だと、ルシあたりに言われそうな気もしたが。 せめて、待ち人はもう二度と現れないのだと、これもいい加減諦めがつくくらいまでは。
それが不幸だとは思わないから良いのだ。
「・・・さ、とりあえず引越しよ、翔架」
蒼いケルベロスの猛獣に声をかける。 行く先は決めている。 迷いなく選んだかと問われれば詰まるけれど、大事な人がかつて住んでいたのが私にとっては悪趣味な場所だったので、もう1ヶ所の思い浮かんだ場所に決めた。
1番幸せな思い出が作られた場所、風の精霊のあの人が住んでいた場所。 そこは風が優しく吹くところ。
引越しに時間はかからなかった。 蒼帝の城を出るのに躊躇はなく、荷物も少なく、ただ時間をとられたことと言えば、あると思っていたものが見つからなかったため。
「・・・私、どこへやったのかしら」
大切な。 大切な大切な、あの。 ずっとあると思っていたのに、気がつけば何処にもない。 記憶からも抜け落ちて、ないとなればどうしたのかも思い出すことが出来ない。
赤黒い錆のついた、百合の香りはすでにないピアス。 ずっと、あるものだと思っていた。 けれどもう随分前から失くしていまっていたのだろうと言うことだけはわかった。
・・・勝手にあるものだと思い込んでいただけだった。
新しい家は何でも良かったが、いつの間にか増えていた資金は自分でもビックリするくらいの額で、広すぎるとわかっていながら城を選んだ。
そういえば生まれて初めて自分で城を買った。 そんなことに気付いて、何だかおかしくて笑ってしまう。 この場所で、穏やかな気持ちで、もう良いのだと思えるまで居よう。
「あとは・・・そうね、手紙ね」
貰うのは好きだが書くのは面倒だった。 そうも言ってられないので、まずは気に入る紙とペンでも探そうかと余計面倒な方向から考える。
手紙は2通。2人に送る。 近いうちに書き上げたら、無事届くことを願う。
私はここに居る。 あちらの大陸で、大切な人たちが幸せを感じながら生きていることを願い、私はここで生きる。 たくさんの幸せな思い出と少しの未練と、わずかな希望を抱きながら。
2006年03月26日(日)
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