やさぐれ日記・跡地
アルティーナ



 オイテイカナイデ・3

「なんかよくわからないんですよ」

「・・・・・・はぁ」



──────何が、って感じである。
つい3秒前に聞いた「Oさんの件はどうなったの」に対する返答にしては、あまりにも掴み所のないものだった。

これならやっぱり聞かない方が良かったんじゃないか。
しかしそう考えると、私の行動全てが裏目に出てしまっているということになるので、何となく意地になって突っ込む。



「何、自分の気持ちがわかんないとか?」

「いや、まぁ・・・それもないわけじゃないですけど」



言っちゃ何だが、私は元来かなり短気な性格だ。
特に精神状態が不安定の時は、些細なことに苛々したり、逆に(精神的な)ある部分の痛覚が鈍くなったりして、兎に角いつもより感覚が狂ってしまうのだが。

歯に衣着せまくったようなI君の返答は、少なくとも今の私には苛立ちの原因になり得た。



「・・・どういう意味、さ?」

「やー、Oさん、何考えてるのかな、っと」



また、はぁ、とだけ返事をして私は肩を竦めた。

何だかなぁ・・・と思う。
相談を請け負う(?)私にも正直余裕がないのだが。
I君もI君で、どうもスッキリしない状態が続いていたのか
お互いが上手く噛み合わない。


やっぱり話を振るんじゃなかった、か。
そう思ったところでY君が唐突に私の帽子を手にとった。



「ねー○○さん、帽子被ってみてイイ?」


一応聞いてみました、って感じでY君はすでに帽子を被ろうとしているのだった。


「絶対ダメ」


だから即座に言って帽子を取り上げる。


「なんでー、オレまじで泣くよ?」

「泣くなら外で泣いてね」


「うっそもー泣く」

「行ってらっしゃい」



・・・別に私は帽子マニアじゃないし、「誰にも被らせません」というスタンスをとっているワケじゃない。
簡単に言えば「Y君だから」の一言で済む。

どうも冷たくしちゃうんだよな。


外へ泣きに・・・ではなく煙草を吸いに部屋を出たY君。
わたしはI君と二人、話の続きをするべく四角いテーブルを挟んで間合いを詰めた。




「何考えてるか、って、まぁ、元々よくわからない子じゃん」

「そうなんですけど、最近ますます」


「・・・Yっちのことはまだ好きだって?」

「どうでも良いというか、疲れた、だそうです」



学校で私の隣の席に座るOさんは、入学以来、Y君とくっついたり離れたりを繰り返していた。
元はOさんから好きになったらしいが、テキトー人生万歳(!)のY君が相手ということで案の定多事多難だったというか、何と言うか。

けれどOさんはOさんで、どこかフワフワしていて放っておくと危なっかしいと言うかちょっとズレているというか、確固たる芯が感じられない分、男としては「守ってやりたい」と思わせる女の子なのかもしれない。


少なくともI君はそんなOさんを「守りたい」と思ったのだった。


で、まぁ、微妙な三角関係になっちゃったワケである。




「Oさん、週末泊まりに来たんでしょ?
何かこぅ脈というか、何もなかったの」


「ないですねー。遅くまで話してましたけど、何か話すうちに辿々しくなってきたと言うか、微妙な感じになっちゃって」



泊まった、と言うのは文字通りOさんがI君のこの部屋に泊まった、という意味だ。
それも二人きりで。

これが初めてではないので驚かれそうだが。
実際、二人は付き合っているワケでもなく、だから当然「何か」あるはずもない。


・・・それって何かどうなんだろう、と正直思うのだが。

いくら「男女間に友情は成立します」ってのを信じてる私でも、I君はI君でOさんはOさんで、ねぇ、何か、どーよ?





私は肩の力を抜いて、こっそり1つ溜息をついた。


「まぁ・・・好きなんでしょ?」

「はぁ、そうですね、好きです」


「フワフワしてて無防備(無謀と言うか)な子なのはわかってたことだし、めげずに頑張れ」

「そうですねー・・・」



感謝されるほどのアドバイスを言うことも出来ず、I君も腑に落ちない様子で何となく相談のようなものは終わった。

ちなみにI君は同い年、Oさんは1つ下でY君は2つ下。



・・・・・・イマドキの若人って、フクザツだなぁ。




煙草を吸い終わって戻ってきたY君に、
「Oさんのコトどう思ってんの」と聞いたけれど。

「どーでもいいっス」と返ってきたので、じゃあどうでも良いやと思うことにした。



言うなれば、「やっぱ付き合ってらんねぇ」である。






19時半頃、そろそろ帰るワ・・・とI君に告げて部屋を出た。
いつもなら日付が変わるくらいまで楽しく話し込んでいるところだが。

Y君も一緒に帰ると言い出したので、お約束の如く私は不満の声をあげておく。



「○○さん、やっぱオレのこと嫌いでしょ」

「やー別に」


「帰りオレと一緒で嬉しい?」

「嬉しい?なんで?」


「・・・まーぢーでー泣く」

「嘘、嘘、帰るわよ。
でも途中で買い物するからね」


「うん、いいよー」



帰り道Y君と取り留めもなく話したのは、彼にとってはどうでも良いらしい恋愛の話とか、いろいろ。

別れたら指輪ってどーすんの、と聞かれたので
「指輪に罪はないしねー」と以前三女姉が言っていたのと同じ答えを返しておいた。

質屋に持ってっちゃえ、なんてトンデモナイことを言っていたが「デザインは気に入ってるから」と、これも無難に返しておく。




いつも買い物するスーパーへ着いたところで、「じゃあね」とお別れしようかと思っていたのだが、どうやらY君は買い物にもくっついて来るらしい。

1人にして欲しいんだけどな、と思っただけで言えなかった私は買い物カゴを持って、リンゴやらバナナやらバターやら足りないモノをカゴに放り込んで行った。



「Yっちって料理してるの?」

「してるよ」


「へー。コンロ買ったんだっけ」

「最近ハマってきてさー。
チーズオムレツ美味いよ、オレ」


「・・・ふーん」



会計を済ませてスーパーを出て、ぶらぶらと信号を渡った。
Y君のアパートは私の家とは200メートルほどしか離れてなくて、同じ町内の隣の丁だったりした。

お互い家の位置は把握している。




「今日は何作んの」

「んー・・・じゃがいもと鶏肉の煮物・・・」


「あとは?」

「お味噌汁・・は最近暑くてダメになりやすいから、バランス悪いけど炒め物でもするかなぁ」


「オレ、味噌汁なんて2日前のとか飲むよ?」

「・・・飲めば」



・・・1日でアウトだと思うんだけどな。

いいよと言ったのに家の前まで送ってくれたY君にお礼を言って、ようやく別れた。



ホント、やれやれって感じだ。




「ふにーーーー。ただいま。・・・そんだけ」



日中暑いから、と1Fの廊下にハムスターの飼育ケージは置かれている。


手を洗って食品を冷蔵庫にしまってから、黒いゴムで髪をまとめた。
ついでにBGMにベートーヴェンの「第九」を選ぶ。



じゃがいもを水洗いしてお皿に並べ、ラップをしてレンジで加熱する。
その間に鶏肉を一口大に切って軽く洗い物を片付けたところで、ある程度火が通ったじゃがいもを、火傷に注意しながら手で皮を剥く。


鍋を熱して軽く鶏肉にコゲ色をつけたところで、適当な大きさに切ったじゃがいもをサッと炒めて水をひたひたに加える。

お酒と砂糖を加えて────


(あ、お酒入れすぎた)



────水が8割方蒸発するまで、コトコト煮込む。
あとは醤油を加えて煮含めるだけだ。

煮ている間にパソコンを持ってきて、テーブルの上に置いた。
起動させたものの、インターネットに接続する気にはならない。






「・・・んーーーん、んーんんんっんんっんっんー・・」


第二楽章のメロディ。
「歓喜の歌」で知られる有名な旋律は、もっとずっと後の・・・確か第四楽章。





「freude,schoner Gotterfunken・・・」


『よろこび、それは神から発する美しい火花』



「Tochter aus Elysium・・・」


『楽園の遣わす美しい娘』



続きを忘れてしまって、1フレーズ飛ばして次を口ずさむ。



「Deine Zauber Binden Wieder,was die Mode Streng geteilt・・・」


『おまえは世のしきたりがつめたく引き裂いたものを、
不思議な力でふたたびとけ合わせる』







────あ、煮物、焦げる。


冷凍のゴハンをオーブンレンジで解凍&温めながら、さっとエリンギやアスパラなどで炒め物を作って、夕食とした。

最近簡単なモノしか作らなくなった。
非常によろしくない傾向なんだけども、新しいレシピに挑戦する気力が沸かないのだから仕方がない。




横には電源だけついたパソコン。

昨夜の失態、どうすれば。
それだけが今の私の頭を占領している悩み。


ネット介在故の悩みはもどかしくて、ジリジリと心が焼かれる。

ネットの世界なんてと人は言うけれど、人間が操っている以上、文字だけのもどかしい世界で私はヒトを相手にコミュニケーションをとっている。



・・・難しい。



精神世界において日常社会より断然脆さを発揮する私の性格は、笑われるくらいのテンパり具合を露呈する。


相手を苛々させてしまうのだろうなぁ、とも思う。



ドツボにはまるのも早ければ、浮上するのも結構早かったりするのだが────それもまた困りもの。





うだうだと悩みながらゴハンを食べて、第九のCDを取り出して次にかけたのはELTのアルバム「Common Place」だ。






「・・・・っしぃー」


カラ元気、もとい気合いを入れてディスプレイに集中する。




こうやって今日という1日が過ぎ去って行くわけだけれど、私は果たして流れて行く時間の中から外れては居まいか。

立ち止まって床にへたりと座り込んで、膝に額をくっつけて気が済むまで泣いていたら、時間にまで見捨てられてしまうだろうか。








オ イ テ イ カ ナ イ デ








時の流れの中に、あの人はいる。
みんながいる。

遅れているなら、外れているなら、私は居るべき場所に走って行きたい。


今よりもっと頑張るから。











────悉く上手くいかないこともあれば、逆もある。

何のことなく日常が舞い降りることもある。


それから紆余曲折が待っていたのはまた、別の話。








2004年07月07日(水)
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