谷垣健治さん(「るろうに剣心」アクション監督)のトーク2本。 「キートンのセブンチャンス」「忍者武芸帖 百地三太夫」
***************** 2014年12月13日、「キートンのセブンチャンス」上映後、「るろうに剣心」アクション監督の谷垣健治さんによるミニトークが行われました。聞き手は、東映の高橋剣さんです。
谷垣:「キートンのセブンチャンス」は、1日の中で、恋と財産に振り回される人々を描いてます。キートンが30歳の時の作品です。 キートンを知ったきっかけはジャッキー・チェン。斜面を駆け下るシーンは、ジャッキーの「ポリス・ストーリー」に影響を与えてます。
斜面のシーンは、撮るのが難しいんです。普通は傾斜がわかるように、横から撮るんですが、これはサイドショットで撮ってます。 傾斜がほぼ90度。今は危険なので、役者にやらせられないですね。かと言って、ワイヤーはバレやすいですから。
お客さんが「おおっ」って言うのも、スタントマン使わずにキートンが自分でやってるからだと思います。
ラストの犬が舐めるシーンも、どれだけ時間がかかったのだろうと思います。今なら、分刻みのスケジュールで映画を撮るので、無理です。
後半は、セリフもほとんど無くて走ってるだけ。 ストーリー的には、走るシーンは、あんなに長くなくても良いはずです。 でも短ければつまらない。 これを見ると、アクション映画はカロリー過多じゃないと! と思います。ネタの寄せ集めで、面白さが成立してるんですね。
「るろうに剣心」を撮ってる時、助監督から「120分しか使わないのに、180分撮るのはアホ」と言われました。 でも、僕は無駄とは思いません。後でディレクターズカットで入れても良いですから。 120分しか撮らないっていう、無駄のない姿勢には賛成できません。
高橋:でも、撮影所ではごく一般的な考えですよね?
谷垣:そうですね。でも、キートンを見てると、きっと一つのカットを撮るために、何度もやり直したのだろうと思います。
高橋:メインストーリーだけだったら、30分で終わりそうですね。
谷垣:それを言うなら、「おじいさん死んだら新聞に載るだろう」とかツッコミどころ満載ですよ。でもそれを感じさせないパワーがあるんです。
走るシーンというのは重要で、難しいです。速さを見せるために、対象物が必要ですから。剣心と宗次郎みたいに、追いつ追 われつとか。車に追い ついて飛び乗るとか。
本当なら「るろうに剣心 京都大火編」でも、何百人って追われるような縦ラインの戦闘シーンを撮影したかったんです。 しかし、撮影したワープステーションには、十分な縦のスペースがありませんでした。 なので、「キートンのセブンチャンス」には及ばないのですが、50対50で戦うシーンを望遠で撮りました。 縦のラインを撮れないから、上に行って。集団の使い方を、「キートンのセブンチャンス」から凄く勉強しました。
「キートンのセブンチャンス」のラグビーシーンは、何が起こるか丸分かりですよね。 でもウケる。活動弁士の効果って凄いと思います。 広川太一郎みたい。 それに、今の映画と違って、カメラが寄らなくても状況が分かるっていう、キャラの立ちっぷりも凄い。
この映画は、プロデューサーが、キートンに「ロイド映画っぽい、都会の若者ががんばる話を」と言って原作を用意したらしいです。 キートンは、俺のスタイルとは違う、と悩みながら撮ってたら、 たまたま転がってきた岩にぶつかったシーンを試写で流したところ、ウケたから、そこをふくらませたということです。 撮りだしてから変えられる当時の状況、羨ましいですね。
香港の人は、全くキートンを知らないです。ジャッキーはアメリカに行って、キートンを知って衝撃を受けたそうです。
僕は、ディアゴスティーニのジャッキー・チェンDVD全集の解説やってるので、詳しいんですが、ジーン・ケリー、キートン、ロイドの影響を凄く受けてるんです。
キートンについては、「キートンのセブンチャンス」と「キートンの蒸気船」をメインに見てたのかなと思います。 スチームボート・ビル・ジュニアが、風がブァーッと吹く中ですごい転がり方をするあたり、影響を受けてますよね。
「ポリス・ストーリー」では、走行中のバスに傘でぶら下がるシーンから、映画らしい躍動感が出ます。 「キートンのセブンチャンス」では、花嫁たちに追われる瞬間から、スピード感が段違いです。
後頭部で回るシーンが3回あるけど、客席から「おお、おお、おお!」って声が上がりましたね。 映画を見慣れてる現代の人でも、新鮮な驚きがあるということです。
昔は、主演が監督も兼ねていたので、怪我しても、治ったらまた撮れば良いという考えでした。 キートンは、この2年前に「探偵学入門」を撮って、最高の興行収入を記録しました。 ノリにノった時期でした。
大きなスクリーンで見ると、ディテールに気づいて、良いですね。 今だと観客に優しいから、カメラがアップにしてくれたりするけど、この当時は、1シーンに色んな 情報が詰まってて、ちゃんと見ないと分からないです。
「るろうに剣心」で、福山さんが指コイコイしてるの、ジャッキーが元ネタだって、若い人は知りませんでした。
今回、京都ヒストリカ国際映画祭のために選んだ映画8本は、全て現場で役者とスタッフに参考にしてもらった作品です。 最初、歴史って縛りを分かってなくて、現代ものも勧めてしまいましたが(笑)
***************************** 2014年12月13日、「忍者武芸帖 百地三太夫」上映後、「るろうに剣心」のアクション監督の谷垣健治さんによるミニトークが行われました。 聞き手は、東映の高橋剣さんです。
谷垣:「忍者武芸帖 百地三太夫」は、34年前の映画です。
「カムイ外伝」を撮影した時、松山ケンイチ君に参考に見せたら、真田広之さんが昔アクションスターだったってことを知らなかったです。 小雪さんも知らなかったそう。
真田さんは、お酒を飲んだ翌朝でも、 10キロくらい走ってから現場に来るって話を聞きました。 カッコイイですよね。JACの全盛期で、身体キレッキレで。
昔、僕の監督作で、千葉真一さんに会った時に「カムイ外伝やらないか?」って言われました。 他の話で行ってるのに(笑)
「百地三太夫」のオープニングを見ると、カムイみたいですよね。小船に乗ってきて、魚獲って食って。五右衛門が釜茹でになる時の戦い方とかも。
鈴木則文監督が、キネマ旬報で「るろうに剣心」について書いてくれています。 「楽しませるためにあらゆる手段を使ってる。私も30年前に、殺陣ではなくアクションを売りにした映画を作った。あの時と同じだ」という内容です。
鈴木監督は、おそらく初めて、アクション監督と監督っていう体制を始めた方です。
それから東映は、アクション監督と監督という流れがずっとありますね。東宝に、特技監督と監督という流れがあるように。
この規模の映画を作ろうと思ったら、殺陣だけじゃダメなんです 。この映画のアクション監督は、千葉真一さんですが、倉田保昭さんにもオファーがあったらしいです。
京都で時代劇を観るというのは、良いですよね。 作中の仁和寺とか今でもそのままですから、映画の帰りにロケ地巡りもできます。
時代劇は足場が悪くて、アクションが大変なんですよね。 真田さんが幼馴染と喧嘩するシーンは裸足ですけど、バク転する時、よく見ると靴を履いてます。 千葉さんが倒れる時も、痛くないように、地面をならしてありますから(笑)
高橋さんに聞きたいのですが、これって制作費いくらかかってます?
高橋:「将軍家光の乱心 激突」が5億円ですが、「百地三太夫」はそこまでかかってないので、3〜4億くらいです。
谷垣:馬と人の数が圧倒的に違いますよね。それに、真田さんの魅力が満載で。
ストーリーと関係ないところで、真田さんがグルグル回っていて、敵の弾が当たるだろ! と思いますよね(笑)三人で連結して「人間風車」とかね。あれ、必殺技になってない(笑)
高橋:真田さんの裸が綺麗で。
谷垣:そのための映画ですよね(笑)
修行シーンが「少林寺」っぽい。セット感があるところで、春夏秋冬過ぎていくのとか。 東映のセット感って、どうにかならないんですか?(笑) 木村大作さんが、広角では 撮れないから、望遠にしたくらいですよ。
僕が言うのも差し出がましいのですが、 音楽を佐藤直紀とか川井憲次とかに差し替えたら、凄く良くなると思うんです。
映画って、時間が経っても古びなくて面白いものもあれば、時間が経つと、ん? と思うものの二種類がありますね。
真田さんは、アクションスターとして映画に出たのは「吼えろ鉄拳」「燃える勇者」「里見八犬伝」など数本です。 その後、「道頓堀川」「麻雀放浪記」などで役者路線に進みます。 「百地三太夫」などのアクション路線は、去年やっとDVD化されました。
これと「龍の忍者」を見ると補完関係で面白いですね。 あっちは、忍者が海を渡 る話で、こちらは明の人に助けてもらう話で。
今の役者さんにお手本にしていただくには、この頃の真田さんは凄くいい例です。演技もできて、バリバリにアクションも出来て。
真田さんとは1回お仕事してみたいです。
ジャッキーが「真田とは30年来の友達で」って言ってて、どこで知り合ったんだろう? と思っていたのですが、 台湾でコリー・ユンが「龍の忍者」撮ってる時に、ジャッキーは台湾で「ドラゴンロード」撮ってたから、現場が近かったんだと思います。アジアの映画界、人間関係が色々繋がってるんですね。 東映さん、僕と真田さんの縁をつないでください!(笑)
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