3月11日、アニメ「ジョーカー・ゲーム」の野村和也監督と時代考証家・白土晴一さん のトークショー「ジョーカー・ゲーム談義」が、宮津ロイヤルホテルで行われました。 司会役はプロダクションIG・プロデューサーの大瀬裕嗣さんです。 協賛:白糸酒造。
大瀬「皆さんどちらからお越しで? (地名を訪ねて挙手してもらう)…東京の方、 半分くらいいらっしゃいますね。北海道の方、九州の方もいらっしゃる!」 大瀬「上巻イベントの昼の回に来られた方っていらっしゃいます?」 たくさん挙手。 大瀬「モニターから音がでなくなって、 バンドの演奏ができないからどうしようって困りましたね」 監督「楽屋に俺一人だから凄く心細くて。 声優さん達が何とか場を持たせてくれて、助かりました」
■ジョカゲ参加の経緯(監督)■
大瀬「監督にとって、ジョーカー・ゲームってどんな作品ですか?」 監督「プロダクションIGの黒木さんから原作を渡されて、 僕は歴史詳しくないから、昭和初期のスパイって難しそうだな…って、 そのまま1年近く放置してました。 読んでみたら面白くて、休み時間に一気に読んじゃった。 男の会話劇をやりたかったので、この作品を作りたいと決意しました。 で、飲み屋で黒木さんとキャストについて話してて。 武藤役・ヴォルフ役はあの人がいいって、先に決めて。 及川役の藤原さんは、黒木さんと飲み友達で仲いいので、 黒木さんが推してて、その時決まった。 ちょうどその時、疲れていて、自分と同世代の男性が、 仕事終えて帰ってきてお酒飲みながら見るような、 渋いアニメを作りたかったんです。 白土さんとも、地味だしおそらく売れないから、 思うとおりにやって歴史好きの人が好きになってくれたらいいかなって」
■ジョカゲ参加の経緯(白土さん)■
大瀬「白土さんの参加した経緯って?」 白土「その前に『純潔のマリア』っていうガチ中世の作品をやってて。 カトリックに怒られないようにって、もう面倒くさかったんですよ! Iのつくスタジオの仕事はこりごりです!(笑) だから『次は戦前』って言われて、最初はめんどくさいなあと。 でも、ジョーカー・ゲームは前から原作を読んでたし、 とにかく監督と話してみようと思って会いました」 監督「白土さんは最初、 威圧的でした。『どれだけ大変かわかってるの? 覚悟あるの?』って」 白土「1話の御真影とか気を使う題材だし、面倒くさいでしょ」 監督「特典でご覧になった方も居ると思いますが、 最初は1話、原作通りに作ってたんですよね。 でも、エンターテイメントなので、性別・国問わず、 楽しんでもらおうと思って、変えました」 白土「普通の軍人じゃなくてスパイって、厄介でしょう? 野村監督の美意識がどこにあるか試されますね」 監督「白土さんとは机も近くてすぐ会えるので、一番相談しましたね」
■作中の小ネタ■
監督「作品には小ネタいっぱい仕込んでるんです」 白土「映ってないんですが、作中の新聞小説が続いているんですよ。 『ハルビンの女』ってタイトルで5話〜7話まで考えました。 女性が男性を追いかけて雑踏の中で…という話」
監督「1話Bパートで結城中佐の手紙も、文面が存在するんです。 秋草中佐(中野学校創設者)宛に『君はロシアファシスト党を 利用しようとしているが、統制が取れていないので、失敗する だろう』という内容を英語で。 映像の中に、手紙の文面を入れてみたけど、字が細かくて潰れて しまったので没にしました」 白土「5時間くらいかけて書いたのに!(笑) でも、 アニメーションは、素材を作りすぎるくらいが良いんですよ。 足りなくなるよりはね」
■時代考証のこだわり■
白土「架空のビールのラベルまで作ったんですよ。 キリンビールがあるんだったら、蛟(みずち)ビールもあっていいだろうって。 蛟って架空の動物なんです。水の龍。 作中の新聞広告にも出てくるんですよ」 監督「『人狼』に男ビールっていう、架空のビールが出てくるから、 こっちも作ろうって思って」 白土「お酒のラベル打ち合わせがあったからね。実際の世界のラベル持ってきて」 監督「実際使いましたね?」 白土「4・8・10話で使ったよ。 瓶の形が今と違うんだよ。上海に日本のビールは無いから。 中国のビール探してきて、描いた。一瞬しか映らないけどね」 監督「作中の路面電車の宣伝にも、 架空のビールが使われていてます」 白土「食事の再現は大変だったね。 アジア号のメニューが分からないから、しこたま探しました。 原作だとレモネードなんだけど、この時代ある? って。 最初、お品書き探したんだけど無くて、 骨董市に行けば、たまにMマークの満鉄の備品が出てるから、 あるかも? って探しに行った」 監督「伊豆の旅館の食事も、当時の料理雑誌を探して見たり。 ロケで新井旅館行った時、出てきた鯛が美味しかったので、 作中で出しました。 その時の中居さんがお春さんのモデルです。 写真を撮って話を聞かせてもらったら、『IG作品が好き。 イノセンスが特に』っておっしゃってて、そんな偶然あるのかと」
監督「服に忍ばせるチューブですが、原作だとスポイトなんです。 でも、当時は精巧なプラスチックがないので、紐+革製品にしました。 実際にああやって飲めるか? って実験もして。 水商売でお酒得意じゃない人が、飲んだふりして染み込ませる テクニックがあるんだから、できるだろうと思って検証しました」
■田崎と鳩■
大瀬「6話の鳩は話題になりましたね」 監督「いや、原作のとおりなんですよ(笑)」 白土「『伝書鳩の研究』っていう200Pくらいの本を読みました」 監督「実際に鳩を懐にしまって列車に乗れるか調べて」 白土「アメリカのOSS(CIAの前身)で胸に布巻いて鳩しまってる写真がある」 監督「鳩も訓練されてるんです! 鳩と田崎は一心同体」 会場爆笑。 監督「キービジュアルの田崎は、懐から鳩だそうとしてるんですよね」 白土「D機関の上に鳩舎あるし、普段鳩の世話してるのは結城中佐」 監督「キャラクターデザインの三輪士郎さんの絵の感じで合ってる。シータ」 白土「いや、パズーでしょ?」 監督「そうか!」
ここで乾杯。 大瀬「運転される方は飲まないでくださいね。 蒲生さん側(運転)、実井さん側(助手席)に分かれて!」
■結城中佐■
大瀬「結城中佐について」 監督「結城中佐は、最初、三輪さんの案だとヴァンパイアっぽく、 後ろ髪が長くて、凄く格好良かったんですが、 時代的に合わないということで、短くなりました。 歩き方に特徴があるので、会議室でスタッフ数人に歩いて もらって動画を撮って参考にしました」
■波多野の合気道■
監督「3話の波多野が投げ飛ばすシーンは合気道なんです。 社内に合気道やってる人がいたので、実際に何人ものスタッフを 投げ飛ばしてもらったのですが、見栄えの問題で、そのままは使えなかったです」
白土「包帯も、当時は伸びる包帯がないから、布包帯を買ってきて、巻いてみたんだよね。 そんなの、こだわっても僕たち以外、違いわからないのに(笑)」 監督「コスプレをされるみなさんも、普通の包帯じゃなく、 布包帯でぜひやってみてくださいね ^^)」
■神永と車■
大瀬「神永は設定の時点でやられ顔ですね。5話の担当って決まってたから」 白土「007にインスパイアされて、迎えに来る黒い車はアストンマーチンにしようって、 設定してた」 監督「でも、黄瀬和哉さん(作画監督)がアストンじゃない車を描いてきて。 『面倒くさいので変えました』と言われ『あ、はい』って」
■甘利と船■
白土「フェリーも調べた。甘利が乗ってた客船もモデルがあって、内装そのまま。 インディアン・クィーンだったかな。イギリスのリバプールとインドを繋いでる」 監督「ケルベロスの氷川丸も、内装を参考にするため、横浜に船を見学に行きました。 甲板は浅間丸がモデルで。 当時の人は背が低いので、通路の天井が低いんですよね。 甘利は色彩設計で白スーツを着てるのを見て、 こんなに白スーツ似合う男がいるのか! と思いました」 白土「白い服は南洋航路で多いんだよね。朱鷺丸スタッフも多い」 監督「当時の船員さんの写真も見ましたが、皆、服をピシッと着こなしててカッコイイんですよ」 白土「エリートですからね。 あと、甘利にデッキゴルフをさせようかと思ったけど、断念しました」 監督「当時のスポーツって描く機会がなかなか無いので、ぜひやりたかったんですけどね」
■ビリヤード■
監督「1話で三好がビリヤードしてるシーンも描いたんですが、 絵コンテ、ボツになって。 食堂の中にビリヤード台があるって設定で、アメリカ式の ナインボールじゃない、四つ玉式のビリヤードやっててって こだわったんですが」 白土「遊びすぎでスパイらしく ないってことで、作中に出てくる遊びはポーカーだけになりました」
大瀬「当時、アニメ雑誌で甘利のことを 『口笛を吹くとイルカを呼べる能力がある』って紹介されて」 白土「能力じゃない(笑)」 大瀬「記者さんは忙しいから、文豪なんちゃらっていう作品と混ざっちゃったんですかね」 白土「原作だと、Uボートと間違われるエピソードで、鯨が出てくるから、 一歩間違えば『鯨も呼べる』って書かれるとこだったね(笑)」
■三好の人気■
大瀬「三好について。ニヒルでプライドが高い」 監督「原作で文字として読んだイメージはあったんですが、 三輪さんの描いた絵を見たとき『まんま三好だ! これ以上ないほど三好だ!』って思いました。 少し特別扱いのキャラではありますが、あくまで8人の中の一人 だと思っていたので、当たり前のように11話でああなるって 決まっていました。 が、放送が始まってみると、三好を好いてくださってる方が多くて。 11話で暴動が起きるんじゃないかって心配でした」
■作画監督の板津さん■
監督「作画監督の板津匡覧さんが優秀なので、11話はもう彼に預ける気持ちでした。 11話は重要な回なので、板津さんにって僕からお願いしました。 出来上がってみると、ありがたいしか言葉が出ないですね」 白土「板津さんから『柩を花で満たしたい。この時期ドイツで取れる花って何?』 って聞かれたので調べたのですが、結局、『心象風景を表現したい』 って結論を出されたので、あの花になりました」 大瀬「カフェでお菓子になりましたね」 監督「何???」 (野村監督はジョカゲカフェのメニュー・柩ティラミスを知らない模様) 白土「えげつねーな(笑)」
■若中佐■
監督「若中佐にはモデルがあって… (情報統制)…髪をサラサラにしたかったんです。 最初に描いてもらった絵は、アニメキャラらしくまとまった髪に なってて『もっとサラサラに!』って、 作画監督・中村深雪さんにお願いして、こだわりの若中佐が 出来上がりました。イケメン度が増して満足です」 白土「若中佐をつるす柱も どんなのがいい? って、調べましたからね」
■店員みよし■
大瀬「三好はIGストア店員にもなりましたね。あのスタンディは 野村監督が描かれたんですよ。 IGストアからの要望で、店内放送の声まで欲しいと言われ、 でも、下野さんお忙しくて、大きい剣を振り回すアニメの収録後、 何とかお時間取れて、録ることができました」
**********会場からの質問コーナー**********
Q.キャストはどのように決めましたか?
監督「こんな仕事をしておいて、声優さんに詳しくないんです。 サンプルをもらって、イメージに合う人に決めました。 下野紘さんのことも知らなくて『この人がいい』って言ったら、 プロデューサーに『いくらかかると思ってるんです!?』って怒られました。 半分位はお仕事したことある声優さんでしたが、知名度は関係なく、 合うか合わないかだけで選びました」 大瀬「レイモンドの小西さんなんか一言しかしゃべってない(笑) 贅沢すぎます」
Q.ドラマCDには関わってらっしゃる?
監督「ノータッチです。 本編の仕事で、音響スタジオに行ったら、部屋から『三好』 とか聞こえてきて、ドラマCDの収録中って知ったくらい。 僕も内容を知らないので、いちファンとして、次のドラマCD楽しみです」
Q.本編の予告に出てくる、人物の組み合わせって意味があるのですか?
監督「作中のシーンをつなぐのではなく、新規で作りたいと思っていました。 全員がひとつのバーにいて、それぞれのタイミングで二人に スポットが当たるという設定で作ってます。 IGの番匠プロデューサーが『絡みをしてはどうか?』と提案し、 脚本の岸本卓さんに監修してもらって作ってます」 監督「予告の絵は、10話の絵コンテを書いてくださった荒川直樹さんに一任しました」 大瀬「それで田崎の名セリフ『お前の心さ』が生まれたわけですね(笑)」
監督「ジョーカー・ゲームの良かった点は、テイストの違う絵がたくさん見えるところですね。 本編とエンディングとエンドカード。 エンディング絵は、女性作監さんのテイスト。 エンドカードは板津さん。グッズになるほど人気の絵でした。」
Q ベッドの場所って決まってますか?
白土「D機関貧乏だから、陸軍からそのままもらってきたベッドで」 監督「佐久間の隣は神永です。 『黒猫ヨルの冒険』で窓から光が差し込む位置で神永が寝てることにしたくて」
Q 佐久間さん含む、機関員の下の名前が知りたいです。
監督「よく聞かれるんですが考えたことないです。永遠の謎」
Q 福本と小田切は気が合うってHPの設定に書いてありましたが、 本編中に会話するシーンないですよね?
監督「喋らないキャラクターで 感覚が近いんです。1話の街に出るシーンでも無言ですし。 エンドカードで、ふたりで買い出しに行く絵を出せたらいいなとは 思ってたのですが。 むしろ、僕の一言がきっかけなのか、皆さんが、 福本と小田切の日常を書いて下さってますよね」
Q 機関員の体重は?
監督「当時の平均身長より皆高いですね。見栄えを大事にしたくて。 僕の話しちゃってすみません。神永・田崎と同身長なんですが、 彼らは細マッチョなので、62kgの僕よりちょっと重い、 65kgぐらいと思ってください」
Q PV第4弾が物凄く好きです。洋画を意識されました?
監督「IGとは別会社の佐藤敦紀さんの編集です。 シン・ゴジラで日本アカデミー編集賞をとられた方なんですよ。 このPV4弾を作った時には、11話のアフレコも済んでいて。 PV見せてもらった時、素材使いすぎでは? と思いました。 及川やヴォルフ大佐のセリフが、ネタバレ過ぎて悩みまして。 でも、佐藤さんが『この作品、自分が今やってる中でも一番好きです。 悪いようにはしませんから』と言われたので、おまかせしました。 今では感謝しています」
大瀬「ちょうどシン・ゴジラの撮影中で、佐藤さんが空くのを待って、 PV作ってもらったんですよね。 宇宙戦艦ヤマトのPVや、魔法使いの嫁のPVも編集された方なんですよ。 今は、アニメジャパンで忙しいそうです」
大瀬「最後に一言」
白土「『この世界の片隅で』の片渕須直監督とも話しましたが、 この時代って本当に考証等、大変です。 でも、またこの時代の作品が作れたら良いですね」
監督「放送から1年経って、ここまで暖かく支えてもらえる作品ってあまり無くて、 ファンの方の熱量を感じています。 今度CDも出ますし、柳先生の新刊が次出るかは分かりませんが、 今後は、自分も客の一人として楽しんでいきたいです」
大瀬「皆さんには天橋立で観光して、 東京に帰って、トークショー良かったよということを広めていただく という使命があります! そしたら、またここで、こういうイベントができるかもしれません」
|