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遺書と屍
羽月
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2008年06月08日(日)


全てへの破壊衝動、自我崩壊欲求、自傷にこれはよく似ている。
「あなたに出会えてよかった」?

*

あの子を殺した季節のこと、ちょっと思い出した。冬だったね。寒かったね。わたしには余裕がなかったね。
笑っていられなくなったの。ちょっとしたことで陰鬱になったり苛々したり、怒ったり悲しくなったり。耐えられなかったね。
あなたを殺した世界でわたしは今もまだのうのうと生きています。可笑しい? 滑稽? 無様だね、本当にね。

あのとき言ったみたいに、壊れてしまえたらよかった。

細い首を絞めて、口付けた。心臓を引きずり出して、抱き締めた。愛しさしかなかった。かなしさばかりだった。
「あなたに出会えてよかった」? 奇麗事の、おためごかし。あいたくなかった。引きずり出したくなんてなかったんだ、ほんとうは。
わたしの心の奥底に沈めていたちいさなわたし。満たされないと思い込んだばかなわたし。わたしがあいしたかった、わたし。羽月。
知らないほうがよかったね。あわないほうが、よかったね。知ってたよ。わたし、知ってた。あなたがいなくても生きていけること、知ってた。
子供っぽくて優等生の、愛されたがりのあなたがいなくても生きていけるって、知ってた。

冬だったね。寒かったね。わたしはあなたを殺したね。耐え難いほどの圧力にわたしは押しつぶされていた。何のことはない、わたしはあなたに肩代わりをさせただけ。この圧力の、プレッシャーの、すべての、肩代わり。
ひどいことしたね。知ってたよ。ごめんとは、言わない。
ねえ、冬だったね。寒かったね。覚えてる? 胸を掻き毟る衝動と哄笑は、まだ虚無の海の底にあるよ。ねえ、わたしの殺したあなたの骨も、まだそこにあるかな? わたしにはもう見えないそれは、そこにあるかな? あなたはまだそこにいるのかな? ねえ、羽月。 羽月。

*

ああ、そうそう、書き忘れ。
わたしもあなたがまだここを見てるなんて思わなかった。まあ、今もまた見てるのかどうかは解らないんだけれど。
「わたし」はまだ生きています、残念ながら。羽月は殺したけれど、滑稽なことに生きながらえています。死体が動いているわけではないので、ご安心を。