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れ
は
彼
女
の
墓
標
、
彼
女
の
遺
書
。
遺書と屍
羽月
MAIL
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2008年04月23日(水) ■ |
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そのまま返信しないことを、お許しください。
生きています。わたしは。
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羽月を殺してからここに書き込むのははじめて。 全てを塗り変えてここは本当に、遺書と屍だけの場所。最も、遺書は全てわたしが引き取ってしまったからここにはないけれど。
受け取ってすらもらえなかった羽月の屍はここにあります。今もまだここにあります。もう、どこにも見えないけれど。
不思議なもので、羽月を殺してしまってから、心は軽くなっていった。 羽月は多分、わたしの愛したかったわたしだった。蔑ろにされたと思い込んでいた私のひとかけらだった。 捨ててしまえば、忘れてしまうのは道理ですね。
泣いていた子供の首を絞めて心臓を引き千切ったのです。もうどこも痛くないように。そのくせ、わたしは自分勝手に呟こうと思う。それくらいは許されるでしょう、とわたしはわたしに免罪符を渡す。 もうどこへ行ってしまったのかもわからないわたしの亡骸に。
あいしたかったと、たった、一言。
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2008年04月29日(火) ■ |
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虚無の海がある。 心の内には、虚無の海がある。 からっぽで、薄寒くて、暗くて、暗くて、暗い虚無の海がある。 そこに一切合財を投げ込むともう決めている。どれだけかなしくても、くるしくても、それはもうどうにもならないのだとあきらめている。それはきっと、かなしいことではないのです。 羽月の死体も、そこに沈んでいるだろうか。
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わたしのこえはとどかないようになっている。 だれに? もちろん、わたしに。 わたしのことばは、わたしにはけっしてとどかない。 しゃんとしろ。背筋を伸ばせ。前を見ろ。俯くな。 わたしのことばはわたしに現実をみせつける。 わたしは、わたしがうらぎりものであることを知っている。だれにたいして、だなんてお笑い草。
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涙を流したところで、何も変わりはしないのです。 変わるのはきっと上辺だけ。変わってしまった上辺の分、深層はきっと何処までも信用されないまま。 壊れてしまえと声高に叫ぶ心を、声を、わたしはなんの意味もないものだって既に知っている。
笑え。 泣くのならば笑え。 涙に意味などあるものか。 自分をかわいそうなものにしたいのならばどうぞ存分に。 そうですらないのなら。
(壊れてしまうのは楽なこと。何も見なくて済むのなら。そう、わたしはずっと、こわれてしまいたかった。) (喜びも、笑顔も声も愛も恋も悲しみも憎しみも嘘も全部) (全部、いらないから)
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2008年05月04日(日) ■ |
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いつかはきっとなくなるはずの、 この先などどこにもない、 全てに何の関連もなく、 総てに等しく無意味であり、 凡てに最も劣悪であるはずの、 未来の話をしよう。
それは須らく醜悪であり、 それは須らく陰湿であり、 それは須らく遠大であり、 それは須らく空白である。
いつかの夕暮れ、長い影、繋ぐ指の先、柔らかな空気。 それらをすべて失うための、 醜悪で陰湿で遠大で空白な、
未来の話をしよう。
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2008年05月27日(火) ■ |
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愛されていることと愛していることは、多分違うことなのだろうと思う。 どちらも出来ていない自分からすれば、同じようにしか見えないのだけれど。
すきなひとが欲しいと思うのは多分とても傲慢なことなのだろうなとおもう。 でも、そうなれればいいと、わたしはきっとずっとおもってる。 でもひとをすきになれないのはわたしが臆病なせい。 傷つくのが怖いわたしは卑怯以外のなにものでもないだろう。
こころをかきむしるように、多分あいしたかったしあいされたかった。 わたしにあるのはただの凡庸としたlikeでしかなく、ほしいものには程遠い。
どこまで行けるのかどこまで行くのか。どこまで求めるのかどこまで求められるのか。 こわいのは、手探りであるかなくてはいけないこと。 当然過ぎるそれがおそろしくて、わたしはまた瞳を閉じる。
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2008年05月29日(木) ■ |
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ゆるさないでください。 ゆるさないでくださいゆるさないでくださいゆるさないでくださいわたしをゆるさないで。 何よりも唾棄すべきものだと吐き捨ててもらって構わない。お前など死んでしまえって言って。わたしが、じょうずに、せかいをあきらめられるように、わたしをゆるさないでください。 泥に沈み込むように、真綿で首を締め付けるような愚鈍さでなく、わたしを見捨ててしまって欲しい。 わたしがゆるしなどもとめないように、一瞬で、切って捨ててください。
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せかいはただしい。 せかいはただしい。とてもただしい。にくくなってしまうくらい。あいしてしまうほどにただしい。 わたしをころさない世界。 息が詰まるほど正しく、平等で、残酷で残酷で残酷な、せかい。
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書いてしまってから見直すととてもちゅうにびょうな日記だな。まあそれが書きたくて書いてるんだから仕方の無いことなのだろうけれど。 多分せかいは正しくて、とてもやさしい。そのついでやおまけみたいにとても不条理で、残酷で、どうしようもないほどに厳しくて。それが正しさなのかと聞かれたら多分ちがうのだろうという矛盾も孕んでいる、不安定で確実な、わたし達の生きているせかい。 愛していて、憎んでいる。焦がれていて、もう見放して欲しいと思っている。 そんな矛盾を孕んでいる。ただしくないことは、とうに知っている。
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2008年06月08日(日) ■ |
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全てへの破壊衝動、自我崩壊欲求、自傷にこれはよく似ている。 「あなたに出会えてよかった」?
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あの子を殺した季節のこと、ちょっと思い出した。冬だったね。寒かったね。わたしには余裕がなかったね。 笑っていられなくなったの。ちょっとしたことで陰鬱になったり苛々したり、怒ったり悲しくなったり。耐えられなかったね。 あなたを殺した世界でわたしは今もまだのうのうと生きています。可笑しい? 滑稽? 無様だね、本当にね。
あのとき言ったみたいに、壊れてしまえたらよかった。
細い首を絞めて、口付けた。心臓を引きずり出して、抱き締めた。愛しさしかなかった。かなしさばかりだった。 「あなたに出会えてよかった」? 奇麗事の、おためごかし。あいたくなかった。引きずり出したくなんてなかったんだ、ほんとうは。 わたしの心の奥底に沈めていたちいさなわたし。満たされないと思い込んだばかなわたし。わたしがあいしたかった、わたし。羽月。 知らないほうがよかったね。あわないほうが、よかったね。知ってたよ。わたし、知ってた。あなたがいなくても生きていけること、知ってた。 子供っぽくて優等生の、愛されたがりのあなたがいなくても生きていけるって、知ってた。
冬だったね。寒かったね。わたしはあなたを殺したね。耐え難いほどの圧力にわたしは押しつぶされていた。何のことはない、わたしはあなたに肩代わりをさせただけ。この圧力の、プレッシャーの、すべての、肩代わり。 ひどいことしたね。知ってたよ。ごめんとは、言わない。 ねえ、冬だったね。寒かったね。覚えてる? 胸を掻き毟る衝動と哄笑は、まだ虚無の海の底にあるよ。ねえ、わたしの殺したあなたの骨も、まだそこにあるかな? わたしにはもう見えないそれは、そこにあるかな? あなたはまだそこにいるのかな? ねえ、羽月。 羽月。
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ああ、そうそう、書き忘れ。 わたしもあなたがまだここを見てるなんて思わなかった。まあ、今もまた見てるのかどうかは解らないんだけれど。 「わたし」はまだ生きています、残念ながら。羽月は殺したけれど、滑稽なことに生きながらえています。死体が動いているわけではないので、ご安心を。
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2008年07月03日(木) ■ |
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むねをかきむしるような、わたしの、衝動。 こたえがほしい、それを求めるためにいきをしているのだとしても
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くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい。
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こわれてしまえればらくなのに。なにもかんじないようになればらくなのに。できないことをしっている。知っている知っている知っている知っている。だからここにいる。狂ってしまったことよりも狂えないことのほうが辛い。狂えないからこそこんなにもくるしい。 理性があることはきっと罰なのだと思う。かみさまが一つ与えたもうた罰なのだと思う。だからくるしい。うれしいよりもくるしいが先立つ。 たすけてとはいえない。
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いけないことばかり、を思う。こんなことを思ってはいけないことを知っている。しっている、ことばかり。わたしにあるのは知識だけ。しんぞうがうごいている。きもちわるい。
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たすけてとはいわない。 罰だから。
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目を潰せるならばと思うし、口を縫えたらと思う。耳を塞げたらとも思うし、両腕を削ぎ落とせたらとも思う。絞め殺せたらとも。 わたしはわたしのためだけにここに存在していて、それはきっと罪悪なのだと思う。自らの存在に違和感を覚えながら、口だけでは死んでしまいたいと嘘吹きながら、漫然とただ生きているだけなのは。 この瞳も声も耳も両腕もわたしも、わたしのためだけにここに在る。 時折世界がまるで人形劇のように感じられることがある。傲慢な話だけれど、わたしを主役とする「せかい」の話。 とどのつまり、「わたし」の見えないところの世界は「ない」ということ。 そんな空想。
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自分のために歩いている。今までも今もこれからも、ずっと。 時折振り返る。わたしの足跡は、きちんと綺麗についているだろうか。
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たすけてとは、いわない。 罰だから。
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