先の日曜日、いつもなら早々に寝てしまうのだが、この日は普段、ほとんど見ないTVをぼんやり見ていた。
今回の情熱大陸では、鮨職人 『荒木水都弘』を取り上げている。
鮨職人自体、珍しい存在ではない。 TVがとりあげるくらい有名人なんだね…。 惰性で眺めていた。
私の瞳が俄然輝き始めたのは『新津武昭』の名前が出て来てからだ。
白洲次郎・正子、辻邦生、小林秀雄など各界の本物たちが通いつめた幻の鮨店、今は無い銀座「きよ田」の店主。
荒木水都弘は、最後の弟子らしかった。
消えてしまった「きよ田」の回顧録と説明すべきか… ↓ 『ひかない魚』(求龍堂) 語り手:新津武昭
この本は、持っていた。 実は『小林秀雄』を愛する歯医者のジィちゃま先生から「買って来て。」と頼まれて、私の分を含め同時に2冊買ったの。 ジィちゃま先生から頼まれた書籍は大抵2冊買って、自分も読む。
残念ながら『ひかない魚』は、近年、敬愛する親会社の課長が入院した時に進呈した。
〜BOOKレビューから〜
個性の強い大人たちが通った鮨店銀座「きよ田」。 最高のまぐろを出す日本一高い鮨屋、気難しい店主、入りにくい、いや一度は行きたい。それが「きよ田」の世評であった。 「店は90%お客さまが育ててくれます。」という店主。
主な登場人物 辻邦生 辻佐保子 白洲次郎 白洲正子 吉田健一 小林秀雄 河上徹太郎犬丸一郎 今日出海 阿川弘之 大佛次郎 安岡章太郎 北杜夫 谷川俊太郎 永井龍男 井上靖 神山繁 中川一政 奥村土牛 市川新之助 青山二郎 石川淳 武原はん 開高健 吉行淳之介 他
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年に一、二度訪れるか訪れないかの愛弟子『荒木水都弘』の店「あら輝」。
生で喋っている「新津武昭」を初めて見た。
言葉遣いは、いたって丁寧。 弟子に対してさえ敬語で話す。
語り口調は柔らかだが、弟子を見る目は刺すように強く、荒木水都弘の握った鮪は付け台の上でどんどん乾いていく…。
新津の語り口が、丁寧至極であるがゆえに余計と厳しさを感じさせる。
「こういう切り方をするんだったら…
切りつけ方をするんだったら、
家庭の奥さんでもできるはずですよ。
お勘定を頂かないんだったらこれでもいいと思います。 お勘定頂くんだったらやっぱり“理”にかなった切りつけしないとまずいですよね…」
弟子の荒木水都弘は、とうとう泣き出す。 乾いた鮨は捨てられた。
『鮨にも人間性が出る。』 すこぶる印象に残った言葉だ。
隠し持った心の奥底まで、覗き込まれたようだ。
新津が語り部の「ひかない魚」を読んでいても、行間から刺身包丁の鋭い切っ先をつきつけられ問われているような気がした。
「天に(宇宙の真理に)恥じない生き方をしていますか?」
我々は有形無形のものに自身を投影する。
素っ裸で「来るなら来いっ!」 言える自分では、あると思うけれど…。( だんだん小声 )
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