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2012年02月21日(火)
AKB48が「新たな芸能タブー」になった理由

『タブーの正体!』(川端幹人著・ちくま新書)より。

【ただ、ジャニーズ型であっても、バーニング型であっても、芸能プロダクションがタブーになる過程にはひとつの共通する構造がある。それは、彼らがメディアを組み込む形で強固な利益共同体を築き上げていることだ。その共同体に取り込まれた者は、そこから排除されることを恐れ、プロダクションに一切さからえなくなってしまう。
 こうした構造をとてもうまく利用しているのが、今、人気絶頂のアイドルユニット、AKB48だ。AKBのメディア対策は非常に特徴的で、芸能ゴシップを頻繁に掲載している週刊誌や実話誌など、本来は芸能人にとって天敵であるメディアに対して利権を積極的に分配し、自分たちの利益共同体に取り込む戦略をとっている。
 たとえば、密会写真スクープなどで芸能ゴシップの震源地となることが多い写真週刊誌『フライデー』では、「AKB友撮」という連載に加え、グラビアや袋とじ、付録ポスターという形で、毎号のようにAKBメンバーが登場。さらには、人気イベント「AKB選抜総選挙」の公式ガイドブックも同誌編集部で制作され、講談社から発売されている。
 もうひとつの写真週刊誌である『フラッシュ』も同様だ。「今週のAKB追っかけ隊ッ!」といった連載に加え、こちらは「じゃんけん選抜」の公式ガイドを出版している。
 普段はアイドルと縁遠い総合週刊誌でもさまざまなAKBがらみのプロジェクトが展開されている。『週刊朝日』は「AKB写真館」に続いて「AKBリレーインタビュー」と、長期にわたり連載を続けているし、『週刊ポスト』編集部と小学館は、2011年の公式カレンダーの制作と販売を任されている。
 他にも、『アサヒ芸能』のような実話誌から、「日刊ゲンダイ」「東京スポーツ」などの夕刊紙、さらには『BUBUKA』などの鬼畜系雑誌まで、それこそありとあらゆるメディアが、連載、グラビア、記事、写真集の発行といった形で、AKB人気の恩恵に預かっているのだ。
 AKBの連載をしている週刊誌の編集幹部がこんな本音を漏らす。
「AKB48はAKSという会社が運営しているんですが、ここに秋元康さんの弟がいて、雑誌対策をやっている。これまで芸能プロが相手にしなかったゴシップ週刊誌にもエサを与え、味方にするというのは彼の戦略ですね。ただ、それがわかっていても、我々としては乗らざるをえない。というのも、AKBが出ると、雑誌の売り上げが数千から一万部くらいアップする。雑誌が売れない時代にこれはすごく大きいんです」
 しかも、AKSの戦略が巧みなのは、AKBがらみの単行本や写真集などの出版権を、週刊誌発行元の出版社に与えるだけではなく、週刊誌の編集部を指名して制作させている点だ。このやり方だと、売り上げが編集部に計上されるため、編集部としてはますますAKBへの依存度が高まり、さからいづらくなる。
 実際、こうしたメディア対策が功を奏し、AKB48は今や、新たな芸能タブーのひとつに数えられるようになった。AKBにはメンバーの異性関係や運営会社・AKSの経営幹部の問題などさまざまなゴシップが囁かれているのだが、どの週刊誌もそれを報道しようとはしない。『週刊文春』『週刊新潮』だけは活字にしているが、AKBの利益共同体に組み込まれた他のメディアに無視され、完全に孤立している状態だ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕も、「なんかどこもAKBばっかりだなあ」なんて思いながら、コンビニの雑誌コーナーを眺めていたのですが、そういえば、たしかに「あらゆる雑誌に、AKB48は登場している」のですよね。
 週刊少年・青年マンガ誌は当然としても、アイドルにとっては味方とは思えない『フライデー』にも、表紙にAKB48メンバーの名前が無い号はありません。

 人気があるから、写真週刊誌もAKB48を採り上げざるをえないのだと考えていたのですが、この『タブーの正体!』によると、AKBは「スキャンダル雑誌」に、むしろ積極的に登場しているのですね。
 スキャンダルに対する「抗議」や「隠蔽」で、自分たちの立場を守ろうとするのが、これまでのアイドルの戦略とすれば、AKBのやりかたは、たしかに斬新です。
 いろんな雑誌に出て、「儲けさせてあげる」ことによって、「利益共同体」になる。
 いったんそういう存在になってしまえば、いくら『フライデー』や『フラッシュ』でも、そう簡単にAKB48のスキャンダルを暴くことはできなくなります。
 だって、それでAKBの機嫌を損ねてしまえば、これまでAKBから分配されていた「利権」を、自分たちも失ってしまうのですから。

 このやりかただと、AKB側は何も「悪いこと」はしていないわけです。
「いろんなメディアに出てあげて、儲けさせてあげている、それの何が悪い?」
 しかしながら、「自分たちが得ていた利益が失われること」を恐れて、メディアは、どんどんAKBに対して「自主規制」をするようになっているようです。
 そりゃあ、もし自分がこれらのメディア側の人間だったら、「金の卵を産む鳥」を、あえて傷つけたりはしないですよね。

 しかし、AKBのなかでも、スキャンダルで脱退する人もいるわけです。
 辞めていった人たちだけが、スキャンダルになるようなことをしたわけではなくて、事務所側も「あえて切り捨てている」のでしょうね、たぶん。
 実際、AKBが売れはじめてから、「主力メンバー」が、スキャンダルで脱退したケースは、いまのところありませんから。

 「脅して言いなりにさせる」よりも、こんなふうに「利益を与え、それ無しでは相手がやっていけないようにして、自主規制させる」というほうが、はるかに安全ですし、メディアもAKBもメリットが大きいやりかたです。
 これも、AKB48のメンバーが大勢いて、いろんな雑誌に別々の人が出ることによって、マンネリ化を防げる、というのが大きいのでしょうし、売れなくなったら、いろんな問題点が噴出してくることも考えられます。

 「人気アイドルグループがたくさん露出するのは当然のことだし、それで誰かが不幸になっているの?」と問われたら、返す言葉はないんですけど、こんなふうに「情報コントロール」されているのを知ると、なんとなく搾取されているような気分にはなりますね。

 



2012年02月13日(月)
カシオの「G-SHOCK」をつくった男

『高城剛と未来を創る10人』(高城剛著・アスキー新書)より。

(映像作家・高城剛さんの対談集。カシオのG-SHOCK開発者・伊部菊雄さんのとの対談より。1981年のG-SHOCK開発時のエピソードです)

【伊部菊雄:だけど、その時点ではメタルケースにゴムをペタペタつければ壊れないんじゃないかくらいの安易な考えていたんです。

高城剛:へえ〜そうですか。

伊部:だけど「落としても壊れない時計」ってあまりにもつかみどころのないテーマでね。はて、どこで実験しよう? と悩んで。しかも私はふだん薄型化の実験をやっていたのに、その時計は世の中に逆行するわけで。

高城:なるほど。丈夫さを追求すると、いわゆるトレンドとはまったく違う方向に行ってしまうんですね。

伊部:だから実験は目立たないところでやりたかった。あと、自由落下にこだわったんです。それで実験場所に選んだのが、トイレの窓でした。

高城:はぁ? 窓から外に時計を落とすんですか? じゃ、トイレの窓から、ひたすら時計を落とし続けたんですか?

伊部:はい。3階のトイレから(笑)。だけど実際に落としてみたらバラバラに壊れてしまって。やはりゴムをペタペタするだけじゃだめだと、でも壊れない大きさまでゴムを巻いていたらすごい大きさになってしまった。

高城:野球ボールくらいですか。

伊部:そのときはじめて「なんという無謀な提案をしてしまったんだろう」と思いました。普通のエンジニアは基礎実験をやり、先を見通してから提案するものなんでしょうけど、私は、まずつくりたいという”思い”が先にある、”思い先行型のエンジニア”のようです(笑)。そして、野球ボールのような大きさを見て、衝撃を5段階で吸収するというまったく新しい構造を考え、それで実験を行ったら劇的にサイズが小さくなった。その段階でG-SHOCKの原型サイズまでいけたんですが、電子部品がひとつだけ壊れるって現象が残っていて。しかし、その大きさをゴールにしなければ商品化にはならないだろうと思ったので、とにかく壊れてしまう電子部品を強くし始めたんですが、これがまたなかなかうまくいかない。それでもう、これは90パーセントできないと思い、最後に自分で結論を出すために、1週間期限を決めて、1日24時間使ってまるまる解決方法を考えてみようと思ったんです。

高城:ほお? 寝ている間も考えておられたんですか?

伊部:幼稚園のとき先生から「見たい夢があったら画用紙に描いて枕の下に入れなさい」と言われたのを思い出したので。たぶん、わらをもつかむ思いだったんでしょうね(笑)。それで壊れたものを枕元に置き、夢で解決策を出そうとしたんです。だけど5日目くらいで出てこないともう、お詫びのしかたを考え始めた。もう許してもらうまで頭を下げまくろう。男は黙って、みたいな形にしようと決めてね。そして最後の朝を迎えても、やはり解決策は出なかった。それが日曜日の朝だったので、休みだけど片づけに会社に行ったんですが、その途中で外にお昼を食べに行ったら、なんだか出社拒否みたいな感じになってしまってね。カシオの隣にある公園のベンチでボーっと座っていたら、目の前で子どもたちがボール遊びをしていたんです。それを「子どもさんは悩みがなくていいなー」と眺めていたら突如、そのボールのなかに時計のいちばん大事なエンジン部分が浮いているように見えた。

高城:ほお〜?

伊部:そこで、「あ、そうか。なかに浮いていれば、落としても壊れないな」と気付いたんです。これが解決策になりました。最後に衝撃を伝えなければいいので。面接触だと衝撃が伝わるけど、これが線接触だと衝撃が弱まる。さらに点接触にすれば宙づり状態に近くなる、と。


高城:なるほど、最後に答えが見つかったわけですね。

伊部:そうです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 G-SHOCKは、1981年に開発がはじめられ、1983年に発売されたのですが、発売当時は「薄型時計」のブームで、日本ではあまり売れなかったそうです。
 ところが、アメリカで「衝撃に強い」ことをアピールするCM(アイスホッケーでシュートするCM)で話題になり、テレビ番組での「検証」で、ダンプカーに踏まれても大丈夫だったことで、さらに認知度が高まりました。
 その実用性が評価されて、まずアメリカで売れ始め、日本には1990年代にアメリカのブームの「逆輸入」のような形で、日本でも売れるようになったのです。

 伊部さんは、もともと「薄型時計」を開発されていたのですが、「目先を変えて、とにかく丈夫な時計をつくる」ことを目指したのがG-SHOCK開発の契機だったのだとか。

 「薄さを極める」ことに比べれば、「大きくてもいいから、丈夫にする」ことは、そんなに難しくないような気がするのですが、薄型が主流の時代に、中途半端な丈夫さではアピールできないので、開発には予想以上の困難がありました。
 「最後のひとつの部品が壊れないようにする方法」が、「その部品を強くする」ことや「保護する」のではなく、「なかに浮かせて、衝撃が伝わりにくくする」というのは、思いつきそうで、なかなか難しいですよね。

 僕もG-SHOCKを持ってはいるのですが、「こんなゴテゴテした時計、邪魔だな」とも感じていました。
 でも、値段が比較的安くて丈夫というのは、汚れる可能性があるときには、けっこう重宝するんですよね。
 高い時計は、もし壊れたら……と考えると、使えるシチュエーションがどうしても限られてしまいます。

 いまはみんなが携帯電話を持ち歩く時代になり、腕時計には実用性よりもファッション性が求められるようになりました。
 それでも、G-SHOCKの「機能美」には魅力がありますし、最初は「こんな重い腕時計じゃねえ」と思うのですが、使っていると、重さが安心感につながるような気もするのです。

 しかし、ダンプカーに踏まれても大丈夫っていうのは、「自分が車にひかれてペチャンコになっても、G-SHOCKは普通に動いている」という、悲しい状況になる可能性もあるわけだよなあ。

 



2012年02月02日(木)
デーモン小暮閣下への質問「あの、へヴィメタって、なんですか?」

『聞く力』(阿川佐和子著・文春新書)より。

(阿川佐和子さんが、デーモン小暮閣下にインタビューしたときのエピソードです。「ヘヴィメタ」という音楽を「ロックの一種とは認識していたが、どんなロックかチンプンカンプンだった」という阿川さんは、思い切って、「単刀直入にデーモン閣下に直接聞いてみた」そうです)


【こうして(スタッフとの)打ち合わせ通り、私はご本人を前にして、できるだけ失礼にならないよう気をつけながら、質問してみました。
「あの、ヘヴィメタって、なんですか」
 すると、驚きましたよ。デーモン閣下は親切! しかも説明がお上手! 私のようなロックシロウト相手に、それはわかりやすく教えてくださったのです。
「ハハハ。ロックというのは、わかりますね?」
 最初に私に優しく断りを入れてから、こんなふうに話してくださいました。
「ロックがいろいろな枝葉に分かれていく中で、速さと激しさを追求したものをハードロックというんですね。♪ガンガンガンガン、ガガーンガンガーンガーン、タターンターンタ、バーンバーンバーンっていう感じ」
「ほうほう」
「じゃ、速くて激しければ全部ハードロックなのかというと、そうではなくて。そこからまた枝葉が分かれていって。速くて激しいけれど、ドラマティックであったり、仰々しい決めごとを取り入れる。たとえばクラシック音楽のワンフレーズを持ってきて、あるポイントに来たら全員がちゃんと、♪ダダダダーンみたいにベートーヴェンの『運命』のメロディをぴったり合わせる。そういうのを様式美というんですけどね」
「はあ〜」
「簡単に言うと、様式美の要素を入れないと、ヘヴィメタルとは認定されないんです。ハードロックに様式美を持ち込むと、それがヘヴィメタルになるというわけ」
「そうかあ。ヘヴィメタって知的なんだ。もっとハチャメチャな音楽かと思ってた」
「ハチャメチャなのはパンク。速くて激しいけれど、♪うまく歌ったってしょうがないじゃーん。上手に歌うことになんの意味があるんだ〜。ってのがパンク。だけど、ヘヴィメタルは上手じゃないと駄目なの」
 これは開眼でした。ロックにそういう区分けがされていたとは初耳です。確かにその前夜、「聖飢魔II」のCDを聴いて、驚いたのです。閣下は歌がうまかった。その上手な歌を聴いているうちに、もう一つ、疑問に思ったことがありました。まるで優秀な家庭教師のように教え方が上手な閣下の優しさに付け込んで、私はさらに質問します。
「CDを聴いていて思ったんですが、こうしてお話ししているデーモン閣下はものすごく低温のダミ声なのに、歌を歌っているときの閣下の声は、ボーイソプラノのように高くないですか? どうしてなの?」
 すると、この質問にも明快な答えが返ってきたのです。
「それはね、理由があるんです。あれだけの轟音で演奏している中で、低い声で歌うとぜんぜん聞こえないんですよ。高くないと声が通らないから、だからヘヴィメタのボーカルはみんな、必然的に高い声で歌うようになったんです」
 いかがですか。聞いてみるものですよねえ。こんな基本的な質問をしたら怒られるかと思って遠慮してしまった過去の数々のインタビューが、悔やまれるばかり。もちろん。お相手を選んで、「話してくれそうかなあ」と判断する必要はありますが、それにしても、「みんなが知っているふりして、実はあんまり知られていないこと」というものは、世の中にたくさん溢れているのです。そして、その根源的な質問をしてみると、ご本人が思いの外、喜んで解説してくださるケースはあるものです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 ああ、なんて親切で説明上手な悪魔なんだ!
 正直、僕は音楽に詳しくないので、このデーモン閣下の解説が「正しい」かどうかはわからないのですが、そんな僕にもスッと入ってくる、見事な説明に感心してしまいました。

 事前に「台本」をもらっているのならともかく、対談の場でいきなりこんな「基本的なこと」を聞かれて、それにキチンと対応できる人というのは、なかなかいないはずです。
 こういうときに「俺様にそんな初歩的なことを聞くな!もっとあらかじめ勉強してこい、なんて失礼なヤツだ!」とキレる人がいても、おかしくないと思うんですよ。
 でも、デーモン閣下は、そうじゃなかった。
 
 「日本でもっとも良く知られているヘヴィメタルバンド」のボーカルとして、「ヘヴィメタルのことを、もっと世の中の普通のおじさん、おばさんたちにも知ってもらいたい」っていう使命感みたいなものもあるのかもしれません。
 デーモン閣下の知名度に比べると、「聖飢魔IIの音楽」は、いまひとつ認知されていない面がありますしね。

 それにしても、この話を読んでいると「なんとなくそんなものだと思っていたこと」にも、けっこうちゃんとした「理由」があるものだなあ、と考えさせられます。
 デーモン閣下が歌うときの声が高いのにも、「音楽的な理由」があったのだとは。
 カラオケなどで、「日頃しゃべっている声と歌うときの声が違うひと」を何人もみてきたので、あんまり疑問にすら感じていませんでした。
 デーモン閣下も、そんなふうに公の場所で尋ねられたことは、そんなにないはずです。
 音楽雑誌では、もうちょっと「専門的なところ」から始めないといけないでしょうし。

 このエピソード、読んでいると、「説明上手で教え好き」のデーモン閣下が、楽しそうに阿川さんに「解説」している姿が浮かんできて、僕もちょっと嬉しくなってしまいました。
 怒る人もいるのかもしれないけれど、とりあえず「わからないことは、思い切って聞いてみるもの」ですね。