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活字中毒R。
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2011年12月30日(金)
「活字中毒R。」 2011年総集編

2011年最後の更新ですので、恒例の「総集編」をお送りします。
今年はエントリ数が少なかったため、5つだけにしました。
(番号は便宜的につけたもので、「順位」ではないです)


(1)Macの「壊れやすいパーツ」に対する、アップル社の「発想の転換」 (1/26)

 「絶対安全ということはありえない」という視点への転換が、いまは求められているのではないかと思うのです。


(2)「『あのゲームをクリアーするまでは』とか『ファミ通に書いてあったあのソフトを見るまでは』とか思ってやり過ごしてきた」 (4/27)

 人に生きる気力を与えているものって、実際は、ものすごく身近で些細に見えるのかもしれませんね。今年は、あらためてそんなことを考えずにはいられませんでした。


(3)「思いのほか広かった」では、読者に伝わらない! (7/5)

 「伝えるための言葉」っていうのは本当に難しい。そして、「自分が世界の中心ではない」というのも、わかってるようで、けっこう忘れがちなのです。


(4)「障害を持ってたら、TVアニメのヒロインになる権利もないんですか?」(8/5)

 「差別」をつくっているのは誰なのか?
 これから日本や世界に生まれてくるかもしれない、新たな「差別」への警鐘もこめて。


(5)『バーチャファイター』が、『プレイステーション』を救った!(8/30)

 これぞまさに「歴史の皮肉」ですね……

 


来年はなんとか、週1更新目標でがんばってみたいと思います。
あと、ずっと『エンピツ』で書いてきましたが、近いうちに移転するかもしれません。


それでは皆様、よいお年を!



2011年12月24日(土)
サンタクロースが赤と白の服を着ている理由

『松嶋×町山 未公開映画を観る本』(集英社)より。

(映画評論家の町山智浩さんとオセロの松嶋尚美さんが、日本未公開のドキュメンタリー映画を一緒に観ながら内容を紹介するという番組を書籍化したものです。
『イエスのショッピング〜買い物やめろ教会の伝道〜』というドキュメンタリーを紹介した回から)


【町山智浩:なんでキリストの誕生日に彼女にモノを買わなきゃいけないんですか? キリストと彼女の間に何の関係があるの?

松嶋尚美:あー、そういうことねー。そうきたかー。ま、私ら女子にとってはイベントっていう括りやねんな。誕生日、結婚記念日、母の日、クリスマス……。

町山:クリスマスだけ関係ないじゃん! サンタクロース自体も本来はクリスマスと関係ないんですよ。

松嶋:クリスマス、関係ないの?

町山:いくつかの伝説が合体してサンタクロースができたんですけど、キリストと直接関係はなかった。そもそも12月25日がキリストの誕生日だというのも、あとからつくられたことで……。もともとは、正月と同じ冬至の儀式でした。あとねサンタにも最初はいろんな色の衣装があったんだけど、コカ・コーラがクリスマスのポスターを作るときに赤と白のサンタクロースの絵をポスターに刷ったから、それが広まったんですよ。コカ・コーラのマークって赤と白でしょ。

松嶋:コカ・コーラカラーや。

町山:だから、今のクリスマスはデパートだのコカ・コーラだのが商売で始めたことなんですが、この商売っていうのがまずい。映画の中でビリー牧師も言ってますが、「汝の敵を愛せ」と言って、自分がひどい拷問を受けても怒らなかったイエス・キリストが、一度だけ激怒したのは神殿で商売してた商人に対してだったんです。神の居場所で何を金儲けしてるんだ、と。だから、神の名のもとに商売してるクリスマス商戦は、キリストがいちばん怒りそうなことなんですよ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 このドキュメンタリー映画は、国民の6割がカードローンなどの借金を抱えながらも買い物をやめない「消費大国」アメリカに警鐘を鳴らしている「買い物やめろ教会」のビリー牧師の活動を記録したものです。
 なんでも、ビリー牧師は、アメリカ全土のデパートやショッピングモールに出没し、「ショッピングは神の意思ではありません!」と説教するのだとか。

 彼は、スターバックスやウォルマート、ディズニーストアといった、アメリカを象徴するような店にも突入し、何度も逮捕されているそうです。
 サブプライムローン問題のように、「返せそうもない借金をしてでも、買い物をしたがる人」が多いアメリカ人にとっては、ビリー牧師の説教は、あながち暴論とも言い難いようにも思えます。
 とはいえ、デパートやショッピングモールにとっては「営業妨害」以外のなにものでもありませんが……

 この町山さんの「サンタクロースの由来」「キリストを唯一怒らせたこと」の話を読むと、「キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝う日本人」を、アメリカ人もバカにはできそうもありません。
 サンタクロースのあの恰好って、コカ・コーラカラーだったんですね、言われてみれば、たしかにそうだよなあ。
 でも、今ではおそらくあの赤と白のコスチュームが「世界標準」ですから、コカ・コーラの影響力には恐ろしいものがありますね。
 そんなルーツを、ほとんどの人は知らない、というのもある意味すごい。このシーズンになると、知らず知らずのうちに、コカ・コーラカラーが街にあふれているのです。

 町山さんによると、クリスマスプレゼントの習慣も、ニューヨークにあるMacy'sという世界一大きなデパートがはじめたのがきっかけだったのだとか。
 それも、「年末に商品が売れ残っていると税金がかかってしまうので、在庫を減らすため、「クリスマスにプレゼントを贈ろう!キャンペーン」を大々的に仕掛けたのだそうです。
 それが、100年くらい前の話。

 まあ、親しい人とプレゼントを贈りあうというのは、けっして悪いことじゃないと思いますし、僕も「買い物やめろ教会」に入る気はありませんが、借金してまで豪華なプレゼントを贈るというのは、行き過ぎではありますよね。



2011年12月15日(木)
最初は評判があまり良くなかった『ドラゴンクエスト』の曲

「『WiLL』12月号増刊・すぎやまこういちワンダーランド」の、すぎやまこういち、中村光一両氏の対談記事より。

(『ドラゴンクエスト(1)』の音楽について)

【すぎやまこういち:そして無事、ドラクエの音楽の仕事がスタートしました。最初に打ち合わせした時、音楽はすでにできていたんですよね。

中村光一:すでに、ゲームとしてはほぼ出来上がっていて、曲も仮のものが入っていたと思うんですが、先生にお願いできることになったので、どういう場面があって、どういうストーリーなのかをお話させていただきました。すでに締切直前で、8曲近くを1週間で作っていただくことになってしまった。さすがに1週間じゃ無理だろうと思っていたら、きっちりあげてくださって。当時は容量が少なかったので、和音もオタマジャクシ(音符)も少なめでお願いしますという制約まであったのに、です。

すぎやま:2トラックでね(笑)。その時、ゲームについていた音楽を一応、聴かせてもらったんですが、「これはヘボいわ」と(笑)。製作期間が1週間でも引き受けたのは、それまでに2000曲近く作っていたCM音楽では、「締め切りは明日の朝」なんていうこともしょっちゅうありましたから。1週間あれば何とかなるだろうと思いましたよ。
 でも、フィールド曲の「広野を行く」は最初、中村さんの評価はあまり良くなかったんですよね。

中村:私のイメージとしては、勇ましく、いかにも「冒険に行くぞ!」という感じの曲がいいなと思っていたのですが、先生が書いてくださった曲は、どこか寂しくて、不安感があるという印象だったんです。ところが、ゲームと合わせて実際に曲を流しながら動かしてみたら、スタッフには結構好評で、みんな口ずさむようになっていました。

すぎやま:はじめての、たった一人での冒険だから、不安や寂しさに照準を合わせたんだよね。勇ましさや意気込みというイメージに一番近いのは、『3』の「冒険の旅」ではないかと思います。】

〜〜〜〜〜〜〜

『ドラゴンクエスト』の作曲の依頼を受けたときのすぎやま先生は、もう50代半ば。
 ポップスの作曲家としては、「転機」にさしかかり、仕事も減ってきた時期だったそうです。

 もともとゲームが大好きで、エニックスに送ったアンケートはがきがきっかけで、ゲーム音楽の仕事をするようになったすぎやま先生なのですが、僕も『ドラゴンクエスト』の音楽を最初に聴いたときには「何か違うな」と思いました。
 なんというか、音楽にドラマ性があったんですよね。
 映画みたいなエンディングを見て、あまりに感動して、アンケートはがきをエニックスに送ったことを覚えています。

「広野を行く」は、『ドラゴンクエスト』で、勇者が町を出たときに流れてくる「ひゃーらーらー ひゃららーらららららーらー」というBGMなのですが、たしかに、ゲーム音楽としては、かなり淋しいというか、不安を煽るような曲でした。
 実際、RPGというジャンルにほとんど接したことがなかった当時の僕は(そしておそらく、多くのファミコンユーザーも)、本当に「不安」だったんですよね、これがどんなゲームなんだかわからなかったし。
 そこで、元気が出るような曲ではなくて、プレイヤーの不安に寄り添うような曲を使うというのが、すぎやま先生の真骨頂。
 「ゲームを知っているサウンドクリエイター」ならではの英断だったのです。
 僕もいまだに「ドラゴンクエストシリーズのフィールド曲」といえば、まず、「広野を行く」を思い出します。

 すぎやま先生が『ドラゴンクエスト』を作曲された時代、他の有名な作曲家たちのなかにも、ゲーム音楽作曲の打診を受けた人はたくさんいたそうです。
 でも、彼らの多くは、「ファミコンの3音くらいの貧弱な音源では、私の曲は表現しきれない」ということで、依頼を断ったのだとか。

 ところが、すぎやま先生は、そんなハンデなど問題にしていなかったようです。

 2006年に他の雑誌の記事で『ファイナルファンタジー』シリーズの植松さんの「3音だけってのは、やりにくいですよね」という問いに、「音楽なんて2音で充分。ドラクエは2音で作ってるよ。残りの1音は効果音に使ってる」と答えておられたのがすごく印象的でした。

 今みたいに「普通の音楽」をそのまま使える時代というのは、昔からするとすごい「進化」なのだけれども、「PSG3音で、こんな曲ができるんだ!」というような驚きがなくなってしまって、ちょっと淋しいような気もしますね。