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■ 東西ネタ『しなやかな指先』
振り向くといつも西谷は自分を見て笑う。それに、へらりと情けない笑みしか返せない自分に嫌気がさす。澤村に「へなちょこエース」と言われても仕方がない。 だって、俺は本当に弱いから。 「旭さん、また何か考えてる」 西谷がほんの少し呆れた色を滲ませて、唇を尖らせた。西谷に呆れられるのは怖い。自分がへなちょこなのは知っているけれど、それでも何故か、彼にだけはいつか胸を張って「俺に任せろ」と言えるようになりたい。 そう思うだけで言えないこと自体が弱い証拠だと、自分でも思うのだけれど。 「旭さーん?」 ひらひらと、眼前で見慣れた手のひらが意識を戻させる。 西谷の手は、しなやかでとてもきれいだ。 いつもギリギリのところで球を拾ってくれる手。 少し小さな手のひらを、西谷が気にしているのも知っている。同時に誇りに思っていることも。 憧れにも似た思いで見ていたそれがゆっくりと下がり、きれいな指先が俺の手に緩やかに絡んだ。 「西…」 「何も気にすることなんか、ないすよ。俺が旭さんの後ろを守りますから」 きゅ、と絡めた指に力が籠る。 「だから、また跳んでくださいね、エース」 弾かれたように顔を上げると、いつものにかりと笑った顔が自分を見ていた。
2013年08月18日(日)
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