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■ 九龍��
■掃除当番
「甲ちゃん、さぼりは駄目だよ」
部屋でごろごろしていた皆守のもとに葉佩がやってきたのは、土曜の朝のことだった。
「……面白い格好してるな」 「失礼な。これは清く正しい格好。さ、甲ちゃんも準備して、準備」 「準備って、何のだよ」 「決まってるでしょ、掃除当番」
言いながら葉佩が手を差し出す。右手にブラシ、左手にバケツだ。 ここ天香学園男子寮は、共有部分の掃除は当番制なのである。自室は勿論自分の責任で掃除するが、風呂だとかトイレだとかは順番に仲良く、というのがモットー……かどうかは分からないが。
「今週はお風呂当番でーす」 「わざわざ朝っぱらからやるなよ…」 「何言ってんの。土曜の朝でいいって言ったの甲ちゃんだろ」 「そうだったか?」 「そうだったの!」
そう言われてみれば、先週あたり葉佩が部屋にやってきて、「掃除当番の日いつがいい?」とか何とか聞いていった気がする。うとうとしていたので適当に返事をしたような気もするが、皆守は覚えていない。
「あー、どうすっかな…」 「どうすっかな、じゃなくて甲ちゃんもやるんだろ」 「……だりィ」
アロマを咥えたまま、皆守はベッドから起き上がらない。その様は本当にだるそうなのだが、別に病気な訳でも何でもなく、ただ本当に「だるい」だけなのだと葉佩は勿論知っている。 だから葉佩はそのままずかずかと部屋に入っていって、右手のブラシを強制的に手渡した。
「おい…」 「お風呂場に集合! 5分後に! よろしく!」
言いたいことだけ言って、葉佩は来た時と同じく嵐のように去っていった。ドアは開けっ放しだ。
「せめて閉めていけ、おい…」
風呂場には5人程の寮生が揃っていた。最後に顔を出したのは皆守である。
「甲ちゃん、遅い」 「来ただけマシだと思ってくれ」 「…しょうがないなあ」
言いながらも葉佩の顔は嬉しそうだ。何がそんなに嬉しいんだか、と皆守は思う。以前掃除なんてどこが面白いんだと聞いたら、皆でやることに意味があるとか何とか言って楽しそうに箒で床を掃いていたのを思い出す。 どうやら彼は、授業に出ることも放課後を寮で過ごすこともこうして掃除当番に割り振られることも、全部学園生活の一部として楽しんでいるようなのだ。 (…俺なら御免蒙るけどな) 皆守は全て事なかれ主義だ。やらなくていいならやらないし、率先してやろうなんて毛頭思わない。ただ最近は葉佩の勢いに押されて、結果的に一緒に学園生活を(強制的に)楽しむようになっているが。
「ぼんやりしてないで、掃除掃除」 「…へいへい」
背中を力一杯どつかれて、皆守はしぶしぶ手にしたブラシを床に擦り付ける。がしがし擦ってやると、石鹸の匂いが鼻腔を擽った。 面倒なことは早く終わらせるに限る、と適当に手を動かしていると、洗い場の向こう側で何人かがふざけているのか小さな嬌声が聞こえてきた。
「……あいつも混じってるのか?」
聞けば、葉佩が中心になっているようだ。 何となく不穏な…というか、嫌な感じを覚えた皆守は、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに風呂場を出ようとした。その時。 皆守は自分の身に何が起こったか一瞬分からなかった。いや、分かってはいたのだがまさかそんな子供みたいなことをするとは思っていなかったのだ。
「あ……甲ちゃん! 大丈夫!?」 「……これが大丈夫に見えるなら、一度眼科へ行ってこい」 「えーっと…ごめん?」
にへらと笑って謝った葉佩の手には、緑色のホース。そして勿論その先からはじゃばじゃばと水が流れ出して床を濡らしている。 どうやら「子供のように」ふざけて水をかけ合っていたらしい。後ろからは「何、皆守にかかったって?」とか「運悪いなー」だとか「それくらい避けろよ」といった勝手な意見を言いながら笑っている寮生の声も聞こえる。残念なのはそれが悪意でも馬鹿にしているのでもなく、単純に遊んでいるだけだということだ。悪意のかけらでもあれば怒ることもできるのだが。
「毒されてるな…」
皆守の呟きはどうやら誰にも聞こえなかったらしい。 大体にして転校したての葉佩の周りに集まるのは、どうも人のいいヤツが多すぎる。それが葉佩の人と形(なり)のせいなのか、それとも単にお祭好きなメンバーが集まっただけなのか、それは皆守にもわからなかった。どっちもだと思っておけば間違いない気もする。
(単純)
髪から頬から足先までびしょ濡れになった皆守は、そう心中で毒づいて溜め息を吐く。 多分葉佩には言っても聞く気はないだろう。むしろ学園生活を心から楽しんでいる風の彼に、そもそも「遊び」をやめる理由などないのだから。 皆守はブラシを葉佩に手渡すと、踵を返した。折りしも季節は秋も深まった頃だ。昼日中ならともかくまだ10時やそこらでは風邪をひく。濡れたままのジャージが冷たく張り付いて、思わずぶるりと体を震わせた。
「今度マミーズでカレー、奢れよ」 「う……ワカリマシタ」
ちょっとだけ振り向いてそう言うと、葉佩は殊勝にも(しぶしぶかもしれないが)頷いた。しかし皆守が再び背を向けた時、背後から「よーし、もう一度行くぞー!」などという声が聞こえてきたのは、きっと聞き間違いではないだろう。
「…懲りねぇやつらだな」
言ってから皆守は、自分が笑っていることに気付いた。 本当に、毒されている。 それでも、それを悪くないと思っている自分がいることも確かだったので。
「……ま、いいか」
掃除当番のサボリの口実も出来たことだし、と皆守は小さく笑って自分の部屋へと足を向けた。
---------------------------------------------------------------- 今日は残業のうえ、どうしても睡魔に負けました…(だから日記書いてるのは翌日だったり…)。折角準備しといた九龍なので(暇なのか)、後からのっけてみました。この日記1日1ページしか載らないから1日分勿体無い…(毎日更新せずとも)。
今日の日記も後から書きます。
そいや、あさのあつこの「NO.6」�´�読みました。何かすごいさくっと読めた。つーか止まらなかったっていうかね…。��はまだきてません。早く続きー。私的にはネズミが好きですが、意外と紫苑も好きかも。蜂話のところで、首をかっさばいてくれって言うところなんか、本当は強い子なんだなあとちょっと感動。あの天然さでネズミを翻弄(笑)してほしいです。そしてネズミには翻弄されてほしい(笑)。なんかこいつ、他の誰とも違うって思ってほしい。いいですよね、二人の関係。
2004年11月29日(月)
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