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遺書と屍
羽月
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2010年06月12日(土)

さて、つまらない話でもしようか。

わたしが今働いている会社の面接で吐いた言葉は「正義の味方になりたかったんです」だ。
馬鹿げた望みで、つまらない願いだ。
採用された今だとて、わたしは正義の味方などではない。
会社の歯車である、つまらない人間だ。
わたしは願っている、願っていた、ヒーローになりたかった、それはそれは歪んだ気持ちで。

ヒーローとは一体何だろうか?
ヒーローと聞いて一体何を想像する?
大抵の人は、超人を想像すると思う。
自分の苦しいとき、悲しいとき、つらいとき、それを救った人間は、きっとその人間にとっての正義の味方だろう。
解ると思う。わたしは願っている、願っていた、わたしにとってのヒーローが現れますようにと。
そして更に当然なことに、正義の味方は現れない。わたしの人生はお話ではないからだ。
都合のいい、優しい、ただただ生温いだけの平等な正義の味方の愛情はわたしに向けられることはなかった。

世界は当然として残酷で、何度もわたしを叩き潰した。
わたしの幻想はどこまで行っても幻想で、卑怯で臆病だった。
ヒーローがいないなら、わたしはわたしの救世主になるしかなかった。

ヒーローとは一体何だろうか?
わたしにとっては、わたしを孤独にしないものはすべて救世主だった。
見てみぬフリが、悪意ある笑いが、わたしを覆った。
正しくないものを正しくないと言っては奇異の目で見られた。
誰かには看過できるはずのことが、わたしには限りない苦痛だった。
漸く気付いた。
正しくないことは、正しくないと言っていい。
白を黒だと言う必要はどこにもない。
もういいよって、ようやく言えるようになった。

たとえば今日、誰かと一言でも話したのなら、わたしは一人ではない。
たとえば先月、誰かと一言でも話したのなら、あなたは一人ではない。
繋げない手はいつだってここにあって、きっとそれ以外の何かで繋がっている。
心は繊細さを失って、凪を手に入れた。
諦めとよく似ている。それで、いいと思えた。

*

わたしは本当は、過去の自分を許したい。
許せない。
諦めるように、思う。
やっぱり、消えない傷と同じように、心の傷は消えない。

誰かを大切に思う気持ちはあって、誰かに幸せになって欲しい気持ちもあって、誰かに楽になってもらいたい気持ちだってある。
それが自分に向けられないのは、ただの自己満足で自慰でしかない。
浅ましくて、本当に気持ち悪い。
それでも安堵する、あの肉の裂けた瞬間に、首が絞まった瞬間に。
誰も知らなくても、誰もわからなくても、ただただわたしは狂喜した。
「わたしは苦しんでいる!」
無言の主張のように付けたリストバンドはわたしのどの部位よりもただ醜悪だった。

凪ぎながら、わたしは憎んでいる。
いつまでも、いつまでも憎んでいる。