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■ 感謝
次男、女房とともに近所の公園に行った。 寒さが増してきた最近では、珍しくポカポカする陽気である。 うっすらと汗をかきながら、子供とボール遊びに興じていた。 そうしながらも、こうした子供と触れ合う時間がまた短くなってしまう。 そんな生活が目前に控えていることを考えてしまう。 一抹の寂しさを感じながらも、 この子を育てていくことが、親としての責務であることを忘れてはならない。 そう己に言い聞かせながら、子供の笑顔を眺めていた。
遠くで2人の子供を遊ばせる母親を見かけた。 次男の幼稚園での友達らしい。 母親の元に歩み寄る妻と、友達に駆け寄る次男。 気が付けば一人離れて、ポツンと立っていた。
風に流されて、母親同士の会話が聞こえてくる。 「旦那さん、今日はお休みなの?」 「えぇまぁ。今月一杯までプー太郎なの」 「え?」 「4月に会社を辞めてから、今失業保険をもらっているの」
自分が今失業中であることは、幼稚園関係の母親たちには有名らしい。 もっとも雨が降れば車で送って行ったりしていたものだから、 当然の如く「旦那さん最近よく見かけるよね」と話題になっていたそうだ。 そんな折、女房はいつも「今プー太郎なの」と話したそうだ。 最初それを聞いたとき、女房の無神経さに少々腹を立てたこともあった。 が、よくよく考えてみると、何に対して無神経なのか?何が腹立たしいのか? その根源となるものが理解出来なかった。 ただ言えるのは、おそらくは一家の主としてのちっぽけなプライドなのだろう。 役にも立たないプライドを傷つけられたと、早合点したのかもしれない。 女房の言い分は「家にいるのは事実だし、失業中も事実」 至極あたりまえの答えである。 それを隠したいと思う方がよっぽどおかしいし、 何か後ろめたいものを抱えているような感じにもなってしまう。
母親同士の会話は続く。 「でもいいじゃない。こうして子供と触れ合う時間が持てるってことはいい事だよ」 「そう。長女たちが小さい頃は、ほとんど顔をあわせる時間がなかったし、 出張続きで家にいなかったもんだから、子供たちもなつかなくてね。 でも、こんな機会にこうして時間を持てた事は、次男にとっては良かったと思うよ」 「うちもなかなか顔をあわせられないからね。そんな時間が持てればいいんだけど」
聞けばほとんどの母親が同じ事を言うらしい。 勿論子供にとって、そういったふれあう時間があるということは大切なことである。 然しながら、世間の多くの父親が、仕事に追われ、時間に追われ、 家族との団欒の時間が少なくなってきているのが現状だ。 「うらやましい」と思う気持ちは当然だろう。 しかしその本音はと言えば、 「この不景気に失業なんて大変ね」 「これからどうしていくのかしら」 「うちの旦那じゃなくて良かった」 あたりが、普通の感覚であるようにも思える。 むしろ、自分の旦那がこうした状況下に置かれたとしたら、 あくまでも想像ではあるが、尻を引っぱたいてでも職探しをさせ、 嫌味の一つ二つも出てくるかもしれない。
おそらくはそんな反応をする方が多いであろう中にあり、 女房は何一つ文句言わず、むしろ次男との時間を持てた事を喜んでいる。 こうして時間が出来たことについて、素直に受け止めてくれているようだ。 そんな女房。 普段口の悪い女房ではあるが、頭が下がる思いである。 面と向かってはなかなか言えないが、こればかりは本当に感謝したい気持ちでいる。
2003年12月13日(土)
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