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■ 飛ばされた風船のように
昼間、ラジオを聴いていたらゲストの松本英子さんのお話に、思わず泣いてしまった。 風船に結ばれた一通のお手紙をめぐる、小さく あたたかなお話。
それは、こんな話だった。 秋田に住む8歳の少女だった英子さんは、本で「風船を飛ばしたら、遠くに 住む誰かとお友達になれる」という話を読んだ。そして、自分も手紙を付けた 風船(驚いたことに、ヘリウムガスではなく、自分で息を吹き込んだ風船) を、小高い丘から飛ばした。小さな期待を込めて。
「わたしと ともだちに なってね 8さい Oがた ふたござ ひつじどし まつもと えいこ」
50キロも離れた場所に住んでいたおじいさんが、その手紙を拾った。 風船はしゅわしゅわにしぼんで、手紙は泥だらけだった。それでも、 おじいさんは、おばあさんと相談して、英子さんに手紙を送った。
それからふたりの文通が始まった。何度も取り交わされた手紙や年賀状。 でもある日、おじいさんの手紙は来なくなった。英子さんが中学生に あがる頃だった。そして、初めておばあさんから手紙が届いた。 それは、おじいさんが亡くなったという悲しい知らせだった。
英子さんは、はじめて人が死ぬという悲しみを知った。 おばあさんは、受験勉強で忙しくなる英子さんを思って、だんだんと手紙を 送る回数が減ってしまった。そして月日が経ち、英子さんは、東京で歌手と してデビューした。おばあさんは新聞でそれを知り、ファンレターを書いた。
番組では、英子さんが実際におばあさんに会いに秋田へ行った「声のレポ」 が流された。空港に降り立ったときの、きりっとした空気感。おばあさんの 家のあたたかさ。そして、16年前、英子さんが飛ばしたしゅわしゅわの手紙。
英子さんは、ア・カペラでおばあさんに歌をうたってあげる。 澄んだ美しい歌声だった。「おじいさんに、聞こえたかな?」と。
風船が届けた一通の手紙が、知らない誰かの手に渡り、ふたりは知り合う。 知り合う、ということは、誰かの生活に、その人の心の中に入ってゆくこと。 おじいさんは英子さんの生に立会い、英子さんはおじいさんの死に立ち会った。 人が生きてゆくことは、そういう偶然の重なり合いで成り立っているのかもしれない。
・・・遅くなってしまったけれど、私も、大切な人たちへ季節のカードを書き、 私の風船であるところの、赤いポストに投函した。小さな祈りを込めて。
2003年12月23日(火)
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