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■ 自転車泥棒
考えてみたら、私があの自転車に乗り始めてから、7年くらいになる。 それまで乗っていた白いマウンテンバイクが壊れ、あれを街の商店街で買った。 濃いシルバーで、これといった特徴もなく、どこまでもシンプルな自転車だった。
ひとつきほど前、その自転車が盗まれた。 もう相当ボロボロになっていたし、備え付けの鍵が壊れていたので黄色いチェーン をしていた。自転車泥棒は、その細いチェーンを、刃物か何かでゴリゴリと切った のだろう。それは、古さといいい、設備といい、盗まれるには恰好の標的だった。
タイヤを二度交換した。ここ2、3年はよくパンクをして、10回近く修理した。 チェーンも錆びて、ペダルを漕ぐとギシギシと哀しく軋んだし、ライトも 壊れていた。それでも、自転車的仕事はちゃんとこなしてくれていた。 晩年の生活は、しんどそうではあったが、よくやってくれたと思う。
とにかく、ひとつき待っても、警察の盗難課から連絡はなかった。 自転車なんて高いものではないし、消耗品であり代替可能物なんだろう。 それでも、何にでも愛着を持ってしまう私からすれば、やはり淋しい結果だった。
昨日、思いあらため、新しい自転車を買った。 何もかも揃ったぴかぴかの赤い自転車は、驚くほど安かった。 自転車屋の主人は、「今では、どんな品もだいたいこんな値段で手に入りますよ」 と言っていたが、安価なのと持ち主の心情は、必ずしも結びつかない。
今朝、マンションの下で涼しい顔をしながら私を待っていた赤い自転車は、 きれいでちょっと高飛車な少女のようだった。たかが自転車、なんだけれど 私はこの子とうまくやっていけるのか、少しだけ心配だったりする。
2003年12月18日(木)
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