月のシズク
mamico



 愉快な夜に

今年の春先に「私もルクセンブルクへ行くかも」と告白され、
戸惑ったのは彼女の方ではなく、確実に、私の方だったと思う。

妹ちゃん(血縁関係はナイ)の恋人くんが、夏から向こう四年間、ルクセンブルク勤務
に決まったとき、そして、彼女もそこへ行くと決意したとき、嬉しかったけれど、なんだか
置いてけぼりをくらうようで、すこし淋しかった。ほんと、しがない姉。

彼女の出発が、いよいよ来週に迫り、私たちは姉妹だけで小さな送別会を開く。
場所は私たちの隠れ家、秘密結社的地下カフェ。若きてんちょさん(店長)
夫婦とも仲が良いので、なんというか、じぶんちの居間のようにくつろげるのだ。

八時過ぎに待ち合わせたカフェに入ると、すでに彼女のソファの隣には、てんちょ
さんが嬉しそうに腰掛けている。あらら、お仕事はどないしたんですか?と、笑い
ながら挨拶を交わす。てんちょさん、先月、新婚旅行でイタリーを縦断してきた
とかで、とにかく嬉しそうに、楽しそうに、旅の報告をしてくれる。

「でねでねっ。ほら、ボクぜんぜん英語とか喋れないじゃん。でもね、ぜーんぶ
 わかっちゃうの。身振り手振りで、日本語オンリーで。なのに、英語も伊語も
 カンペキわかっちゃうの。ンもー、楽しかったぁ」

新しいお客さんが入ってきても、横目でちらりと一瞥をくれて、「でねでねっ」と、
話に興じるてんちょさん、かわいらしくて素敵。でもさ、職務怠慢じゃなーい?(笑)

「あっ、グラス空いちゃったね。次、何にします?ラム?ジン?オーケー、
 ジンね。すっごい珍しいのが入ったの。飲んでみる?ちょっと待ってて」
両手いっぱいにジンの瓶を抱えて、「これはね、これはねっ」と説明してくれる
てんちょさん。オレンジの香りがするジンに、火をつけたオレンジピールを落として
くれる。すごくいい匂いが空中に広がり、私たちもご満悦。

「元気で帰ってきてねー」と、ウィンクを送られ、私たちは冷たい夜の街に出る。
ずっとずっとわらってばかりいたので、ふたりとも、ほっぺたの筋肉がふるふると
震えるくらい筋肉痛。部屋へ戻ってからも、エロ・サンタお衣裳に着替えて、珈琲
を淹れてくれた妹ちゃん。すっごくかわいい。すっごく愛してる(笑)

まゆちん、欧州社交界で正統マナーを学んで、素敵な淑女になってきてね。
ルク滞在記も待ってます。どうかそれ以上、体張って笑いをとらないように。

2003年12月12日(金)
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