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■ エル・グレコの描く夜の風景
F.S.フィッツ・ジェラルドの『ザ・グレイト・ギャッツビー』は、巨万の富を誇った 亡きジェイ・ギャッツビー氏を、友人ニックが語り直すという構成の作品である。
と、別にここで文学批評をぶつわけではないが、テキストを読んでいたら、ふと 「エル・グレコ」という文字が飛び込んできたので、そのことについて、すこし。
作品自体は、N.Yを中心とする東部の、「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」 と呼ばれる1920年代の乱痴気騒ぎを描きつつ、ひとつの恋の終わりを描いている。 その時代を語り手ニックが回想し、「僕にとって東部には、歪められたものがある」 と評し、「まるでエル・グレコの描く夜の風景を見るようだ」と言う。
ギリシャのクレタ島出身の宗教画家、エル・グレコが描いた絵。 テキストにタイトルは載っていなかったが、すぐに16世紀末のスペインを描いた 「トレドの風景」を思い出した。私はこの絵を、N.Yのメトロポリタン美術館で見た。
学生時代の夏休みを利用して、私はその夏をマンハッタン島の東にある、 ロングアイランドで過ごしていた。ちょうど、『ザ・グレイト・ギャッツビー』の 舞台になった土地である。そして週末になると、ロングアイランド鉄道に乗って、 N.Yへ遊びに出た。お金がなくて、一日美術館にこもったり、セントラルパークを 散歩したりしていた、あの夏の日々。私はこの「トレドの風景」を見た。
中央階段を上がり、二階の奥まった部屋にひっそりと、それでいて強烈な存在感を 放っていた。身動きが取れなかった。不気味な空が丘を覆い、見る者の視点をも 歪めさせる構図。紺色の雲間から漏れる、光沢のない月光。宗教画家が見た俗世は、 こんなにも陰鬱が蠢いているのかと驚いた。未来が見えない、そう思った。
1920年代を狂乱の時代だと、後の人々は評す。しかし、どの時代であれ、後になって みれば、そのグロテスクさに目を背ける。イラクへの自衛隊派遣が決まり、我々は 見慣れたはずのグロテスクな光景を、再び眼にするのだろうか。
2003年12月10日(水)
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